episode 10
聞き覚えのある女性の声、振り返ると女性が手をヒラヒラと振りながらこちらへ歩いてきていた。
「お前は…」
タクの呟きに続いて俺は呟いた。
「ショウコさん……仁導、ショウコさん」
「じゃあアイツが、お前がショウコか。」
質問に対して頷くと、タクは血の流れている右手で刀を握って構えた。
「洞窟ぶりですね、マサルくん。
生き残っててよかった!」
笑顔でショウコさんはそういうが、洞窟の時とは違いどこか油断できないところがあった。
俺はボロボロの身体を何とか起こしてその場に座る、右手にはハンドガンがあるがショウコさんからは見えないよう隠した。
「これで生き残りが全員揃いましたね!」
俺達とショウコさんの丁度真ん中あたりに出てきたボタン君、無表情な彼の顔は何かを求めているようにも見えた。
「おいマサル、お前あの女になんて言われたんだ?」
タクが今更になって関係ない質問をぶつけてきた。
「俺は…このゲームの目的と仕組みについて、でもどうして?」
「…俺も話された、目的と仕組みを。そして…"お前の危機"を。」
"俺の危機"、その言葉に引っ掛かりをおぼえた。どうゆうことだ?なぜそんなものをショウコさんは伝えたのか?それ以前に、俺とショウコさんがあった時はピンチなんぞでは無かった。どうゆうことだ?
「とっても不思議そうな顔ですね、教えてあげましょうか?」
「マサル!あいつの言うことは聞くな、さっさと戦うぞ!!」
タクは刀を拾いその刃をショウコさんに向けていた、しかし俺の心は真実を知りたがっていた。
「…教えてください。」
「じゃあ、話しますね?
私がGM側の人間なのは話しましたよね、実は上層部から色々とミッションを言い渡されていたんです。」
「どんなミッションなんですか?」
「ひとつ、プレイヤーにゲームの仕組みを教えること。
ふたつ、それぞれに合った情報を開示すること。
みっつ、生き残ること。」
「ゲームの仕組みを伝えて何になるんですか?」
俺は率直な質問を投げかけた。
「伝える前とその後で脳にどうゆう反応があるのか、変化が起こるのか否か。
それを観ていたんです。」
"起こるか否か"、この言い回しに俺は異変を感じた。洞窟で会ったショウコさんとは違った何かを。
俺は続けてふたつめの質問をした。
「それぞれにあった情報を開示、これってどうゆうことですか?」
「それは本当に人それぞれ、違った情報を伝えていったんですよ。
例えば、タクくんには"マサルくんが他のプレイヤーに狙われていて、助けを求める。"ってね。」
「本当なのか?タク。」
タクの顔を見て聞くと、彼は黙って頷いた。
「あとは、残りのプレイヤーにはこう伝えたんです。
"ハンドガンを持った制服の少年が居ます、彼を倒したあなたには特別に生還の権利と賞金を上げます。"」
その言葉を聞いた瞬間、今までの出来事に納得がいった。
なぜやたら敵とエンカウントするのか、なぜその度にタクが居たのか。全てはこの人の仕業だったのか。
俺は目眩がして身体を起こしていられなかった。
それでも俺は会話を続けた。
「で、俺には?」
「ん?」
「俺には情報開示は無いんですか?」
「ああ、そういえばしてませんでしたね。」
ショウコさんはずれたメガネの位置を戻して俺に告げた。
「このゲームの主催者は成部製薬の人間なんですよ、"成部 マサル"君。」
え?主催者が…成部製薬?
大手企業の成部製薬がこんなことを企画してる?
俺がいつも世話になってる会社が裏でこんなことをしている?
「君は私に自己紹介した時、名字を言いませんでしたよね?
自分の身元がバレるのが嫌なんですか?まあそうですよね、成部なんて名字なら皆きっと"え?成部の人間なの?"って思っちゃいますもん。めんどくさいですよね。
まさか自分が"成部社長の息子"なんて言えませんよね。」
やめろ。
「それにしてもタクくんはマサルくんの名字を知ってるんですか?よく一緒にいますね。」
「…やめろ。」
「それにおかしな話ですよね、息子であるあなたがなぜここにいるのか。
親に捨てられたんじゃないですか?」
「やめろぉぉおお!!!」
俺は銃口をショウコさんに向けトリガーを引きかけていた、あと少し引けば発射できる。
そう、俺の名前は"成部 マサル"、成部製薬会社社長の息子だ。タクは当然このことを知っている、それでも彼は親友として対等に扱ってくれていた。
「マサル!やめろ!!」
タクの声が聞こえてトリガーを引く指を緩めた。
彼の声が、俺を冷静にさせてくれた。
「どうしたんですか?撃ちたければやればいいじゃないですか。」
ショウコさんは無表情ながらに冷たい目で俺を見つめた。その顔は今までの明るい雰囲気からは全く感じられなかった何かを孕んでいる。
「…今撃ったら、あんたを殺してしまう。そういうイメージが俺の中にある。」
「甘いですね、そんなこと言っていたらこの先やっていけませんよ?」
「かもね、でも撃たない。
人殺しだけは絶対しない。」
ショウコさんはやれやれと首を振った。呆れの表情も伺える。
「やれやれ、ですね。」
「ほんと、やれやれですよ。」
ショウコさんの言葉に続いたのは俺でもタクでもない、ボタン君が応えていた。
「ショウコ、一体何をペラベラと喋っているんですかね?伝えなくてもいい情報を開示して、上層部はお怒りですよ。」
「何ですか?どこに伝えなくてもいい情報が?」
「…君、もう要らないですよ。
コード、"ブレイン・アウト"。」
「何ですか?そのこっ……!?」
突然ショウコさんは崩れるように膝をつき頭を抱え始めた。
「こっ、これはっ!?」
「自分で話してたじゃないですか。
"主催側は不測の事態に備えて脳に薬を仕込んでいる"と。」
ショウコさんは苦悶の表情を見せながら声も出さずもがいている。
そのまま地面に横たわり、ショウコさんは動かくなった。
「さ、残るはマサルとタク!
ここでステージ移動します!」
ボタン君がそう言うと、風は突然止み空が晴れた。景色が段々と薄れやがて0と1が俺たちの周りを覆い尽くす。
上から流れる0と1はまるで持ってきたかのように真っ白な景色に変化した。
ここは…
最初にルール説明をされた最初の真っ白な空間に移動したようだ。




