六話 組織の露見
「おい、メグルマさんが倒れてるぞ!」
「そんな……なぜだ? あいつは!?」
扉の向こうから、男たちの声がした。
二人組。足音が近づいてくる。
「なんだ、この魔法陣は……」
「くそ、一体何があったってんだ」
──この声。
オーブの目が細くなる。
(間違いない、路地裏の男たちだ)
メグルマと彼らが仲間であったことをオーブは確信した。
路地裏での襲撃も、メグルマの企みも、別の出来事ではなかったのだ。
(メグルマが俺を殺して“何か”の素材にする。そして、あいつらと合流する。そんな流れだろう)
しかし、実際にはオーブの姿が無く、倒れているのはメグルマ・オーヴィックである。男達にとって完全に予想外の出来事であり、驚くのに無理もない。
ならば、この状況を利用しよう。
「黒漆の短剣」
黒い光が一瞬だけ弾けたかと思うと、オーブの手には漆黒の剣が握られていた。
そして、その直後。
スタン、と軽やかな着地の音がした。
刹那、オーブは男の真後ろに立っていた。
「声を上げるな」
「なっ…………!」
オーブは、一人の男に後ろに周り、短剣の刃を首筋に添えた。
もう一人の男は──すでに、昏睡魔法によって眠らされていた。
「お前、名前は?」
「な、なんでっ……」
男の声がこれでもかと震えている。彼にとっては、想定外の連続である。
「なんで生きてるってか?」
オーブが先回りしてそう言うと、男の顔が強張った。
やはり、彼らにとってオーブがすでに死んでいるはずだったのだ。
「名前を教えろ」
「くそっ……」
「死にたいのか?」
首元に、刃が押し当てられる。一筋の血が、ゆっくりと流れ落ちた。
「ひぃっ……」
「名前はなんだ」
「……グレ、グレンツ! グレンツだっ!」
「こいつは?」
オーブは、床に倒れているもう一人の男へ視線を向ける。
「シビ……」
「そうか。で、お前ら、何しに来たんだ」
「っ……め、メグルマさんに、来い……って……」
「路地裏で俺を襲ったのも、メグルマの指示か?」
「あぁ…………そう、だ。魔石を持ってないか、異常耐性を強化していないか確認しておけ、って……」
「…………」
聞いていないことも答えだしたので、思ったより従順なやつだとオーブは思った。おそらく、こういった状況にはあまり慣れていないのだろう。
あの襲撃は、ただの強盗ではなく、自分の身体を調べるためだった。
それを踏まえると、それだけのために、彼らはオーブを痛めつけたということだ。
──反吐が出る。
短剣を握る手に、自然と力がこもった。
殺せ。
頭の奥で、誰かが囁いた。
──こいつらは敵だ、殺してしまえばいい。
(駄目だ。まだ、聞き出せることはある)
「お前ら、何者だ」
「…………」
「なんの組織だ」
「…………っ」
黙り込むグレンツに、明らかに何かを隠しているとオーブは確信した。
刃をさらに押し当てる。
「言え」
「…………」
「言わないなら──」
「お、おれたちは……」
グレンツの喉が鳴る。
「ミ、ミル」
「……?」
「ミルヴィー……」
「……ミルヴィー?」
ミルヴィー。聞いたことのない言葉だ。前世でも、今世でも。
「ミルヴィーってなんだ……?」
グレンツは答えない。答えようとしない。
「目的は?」
「…………」
「メグルマは首謀者か?」
「……………………っ!」
グレンツの表情には、尋常ではない怯えや恐怖が感じられる。
言ってはいけない。絶対に。
「言ええええ! はやく言いやがれッ!!」
「…………おれたちは──」
途端。
ドクンと、グレンツの身体が、僅かに震えた。
オーブの眉が動く。
「…………?」
何かがおかしい。
グレンツの胸元から、淡い光が漏れ始めた。
「な、なんだ、これ……」
グレンツ自身も理解していないようだ。
「……待て」
オーブが短剣を離す。
次の瞬間。
グレンツの体が、爆ぜた。
耳をつんざく轟音と共に、グレンツを中心として巨大な爆発が起きたのだ。
研究室そのものが揺れ、机の上に並んでいたフラスコが一斉に吹き飛んだ。
「くっ……!」
オーブは防衛魔法を展開し、黒い魔力の壁により爆風を受け止めた。
ガラス片は弾け飛び、煙が建物に充満していた。
「クソが……」
オーブは防衛魔法を解いてそう呟いた。
身体に傷はない。しかし、グレンツがいた場所に人影が無く、昏睡させたはずのシビと呼ばれた男すらもいなくなっていた。
グレンツの反応的に、自爆ではないはずだった。
(消された──?)
オーブの目が細くなる。
一体誰が。
その答えを知る必要もなく、オーブは煙の向こうの影を睨みつけた。
「オーブぅぅ……!」
怒りに満ちた、歪んだ声だった。
「よくもやってくれたなあっっ!?」
煙の向こうから、ゆっくりと人影が浮かび上がる。
メグルマ・オーヴィック。
彼が、目を覚ましたのだ。




