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漫才ガール!!  作者: わったん
第一幕 最強コンビ結成編
9/22

第9話 諸悪の根源

 自分の名前を呼ぶ声に、悲哀の思いが込められているのに華は気付く。


「里菜…。」


「ごめん…!ごめんな!華奈!私…私はどうしても…。」


 華には、里菜が何故今になって紫音に従ったのか、その理由が分かっていた。


「何で里菜が謝るん?里菜には大事な事があるやん。母子家庭で、弟と妹もおる。だから何振り構わずアイドルを続けんとあかんやんか。今更新しいグループで一からやる時間がないのも分かってるから。あたしの事は気にせんで大丈夫やで。」


「でも!華奈が無理矢理卒業させられるなんて知らんかったから!華奈がおらんなら私も華奈と一緒に違うグループに…!」


 その言葉を言わせてはならないと思い、そこで華は里菜の肩に両手を置き、彼女の目を真っ直ぐ見る。


「あたしはほんまに大丈夫!だから里菜はこのままグループに残って上を目指して!紫音についていったらそれは絶対に叶うから…それぐらいあの子の才能は凄い…。だから!あたしの分まで頑張るんやで!」


 華は、今できる精一杯の笑顔でそう言うと、そのままそっと里菜から離れた。


「ほら!早く戻らんと風邪ひくし、みんなから変な目で見られてまうで!」


「華奈…。」


 雨で濡れていても、里菜の目から止め処なく涙が流れているのが分かる。もしかしたら、自分も泣いているのがバレているのかもしれないと思うと、華はその場から早く離れたかった。


「じゃあね…。遠くから応援してるから!」


 華はそう言い残すと、雨が降りしきる街の中へと走り去っていく。


「くそっ…!くそっ…!何であたしだけ…!悔しい…悔しい…!誰か…誰か助けてよ…!!」


 走りながら華は本心を泣き叫ぶ。だが、一人の女の子の悲痛な叫びは、無情にも、地面を打つ雨の音のせいで誰にも届く事はなかった。




――華が、自分のアイドルの夢が潰えた出来事を思い返していると、いつの間にか事務所があるビルに到着しており、遠くに行っていた意識が戻ってくる。

 そして、そのまま3階の事務所の中へと入ると、そこには三田ともう一人男性が立っていた。

 紺色の高級そうなスーツ姿のその男性は、30代半ばから40歳に見える。艶のある黒髪はしっかりと整えられ、鋭い眼光は近寄り難いオーラを発している。

 男性は、事務所に入ってきた華を見ると、無愛想な顔を止め、ニコリと笑いながら話し掛けてきた。


「君が華奈さんやね。僕は1年程前からピンキースカイの総合プロデューサーをしている〝桐原きりはら つかさ〟だ。僕も色々忙しくて、顔を合わすのは初めてやね。」


 桐原 司という名前を聞いて、初めて男性の正体が分かった。紫音達が加入してきたと同時に、運営のトップが変わったと三田に聞かされていた。だが、それ以降、そのトップの人間は姿を現さなかったため、名前だけしか聞かされていなかった華は気付く事ができなかったのだ。当然、ネットで彼の名前を検索してはいたが、全くと言っていいほど桐原の画像が出なかったのも原因である。


「あ…初めまして。名前だけしか知らなかったので、すぐに気付けず申し訳ありませんでした。」


「ええよええよ。それは僕が悪いんや。なんせ他にも数グループの面倒見てるからね。」


「それでも、一度もあたし達を見にこなかったのは何故でしょうか?」


「納得いかん顔してるな。それはな、ピンキースカイが今の状態になるまで、僕が手を加える必要がなかったからや。紫音達のおかげでピンキースカイは良い形になった。だから、僕が直接出てきたってわけやな。」


「良い…形ですか?」


「そうや、圧倒的実力とカリスマ性を持った子を中心としたグループアイドル。それが僕のやりたかった事。紫音が見事にそれを叶えてくれそうや。」


「そんなのはゼロから桐原さんの手で作れば良かったんじゃないですか?」


「お…おい…!華奈!もうええ加減にせぇ!」


 桐原の圧力に負けじと、怒りと悔しさを発散するように華が質問をするので、慌てて三田が止めようとする。


「三田君。ええから。この際やし後腐れなくいこう。僕がピンキースカイに目をつけたのはもう一つ理由がある。」


「それは何なんですか?」


「里菜や。」


「え?里菜が理由?」


「そう。あの子は紫音には及ばないかもしれんが、アイドルとして天性の物を持ってる。もしピンキースカイが上手い事いかんかったら、紫音と里菜だけ残して違うアイドルグループを作る予定やった。まぁ、所謂保険やな。」


 自分の親友が認められている事は喜ばしいはずなのだが、それ以上に嫉妬という負の感情が、華の中でどんどん大きくなっていく。


「さて!質問コーナーはここまでや。君の卒業ライブの資料を渡すから目を通してくれ。」


 華は、気持ちの整理もつかないまま、渡された資料に目を通す。そこには、最後まで華を苦しめるような内容が記されていた。それは、出演者の欄である。


「あの…出演者の所…あたしの名前しかないんですけど…。」


「そうや。卒業ライブは君一人で出てもらう。他のメンバーは次の新曲に向けてのレッスンがあるからな。それに、君も一人の方が伸び伸び出来てええやろ。」


 心無い桐原の一言に、心が完全に折れた華は、思わず持っていた資料を床に落としてしまうのだった。

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