第8話 突然の終わりは雨の日に…
新メンバーお披露目ライブから一ヶ月が経った頃、元から居たメンバーは華と里菜だけになっていた。
しかし、減ったメンバーの補充はすぐに行われ、そこに紫音の実力も相まって、ピンキースカイのファンは増え続けていた。
補充されたメンバーは5人、オーディションではなく、運営が連れてきた女の子達である。その全員が崇拝に近い感情で紫音のサポートに回っている。本来ならグループアイドルとして有り得ない事なのだが、それを紫音の圧倒的なカリスマ性で成立させているのだ。
「今はこんな状況やけど、絶対私達で元の楽しかったピンキースカイに戻そうな!」
「うん!里菜がおったらあたしも頑張れる!」
残った華と里菜は、こうやってお互いを励まし合い、肩身の狭い思いをしながらも自分達のアイドル像を貫き踏ん張っていた。
そして、また月日は経ち、2026年の3月。ピンキースカイが地下アイドルという枠から抜け出すための新曲が発表される。それは、メディアでも大々的に報じられた。
その曲のミーティングで、華にとって最後の拠り所を奪う事件が起きる。
「今回の曲のセンターはダブルセンターでいく。それを担ってもらうのは紫音と里菜や。」
そんな三田による衝撃の発表からミーティングは始まった。
「えっ!?どういう事ですか!?」
予想すらしていなかった内容に、華は思わず声を上げてしまう。
しかし、華の声には誰も反応をせず、紫音と里菜はゆっくりと立ち上がって前へ出てみんなへ挨拶をする。
「というわけで、今回は紫音と里菜さんでセンターするからみんなよろしくね!メジャーデビューに向けて走り抜けよ!」
紫音のその呼び掛けには、メンバー全員が拍手をして歓迎のムードを作る。
「ほら!里菜さんも何か言って!」
紫音から促された里菜は、気まずそうに華の方をチラリと見てから話し始めた。
「これから…私も現ピンキースカイのために尽力していくから…よろしくお願いします!」
その言葉を聞いた紫音は満足気にニコニコしており、他のメンバーも拍手で里菜の事を迎えている。
華は目の前で行われているやり取りに、現実味を感じられず、ただ呆然と話が進んでいくのを眺めているしかできなかった。
その時、ホワイトボードに今回の曲の立ち位置などが書かれた紙が張り出される。
それをボーッとしたまま確認していた華はある事に気付いた。
「あ…あの…。あたしの名前がどこにもないんですが…。」
何度確認しても、〝華奈〟という名前が見当たらなかったのだ。
「三田さん、まだ華奈さんに伝えてなかったんですか?」
「ん…う〜ん…。ちょっと言い出しにくかったからな…。」
「ちゃんと今みんなの前で伝えて下さい。」
紫音は三田を睨みつけながら話す。三田は、蛇に睨まれた蛙のように、紫音に言われるがまま、華にとって最悪な事を告げる。
「華奈、お前は卒業や。」
「え!?どういう事ですか!?」
「この新曲をお披露目する前に、お前の卒業ライブをする。そこでお前は綺麗にピンキースカイを抜けてもらう。」
「綺麗に!?どこがですか!?あたしに相談も無しにそんな事許されるんですか!?」
「何もせずに脱退とかではないんや!ちゃんと卒業ライブはする!それで何とか察してくれ!」
三田も本意では無いのだろうか、彼の顔もまた苦渋の表情をしている。
そんな華にとって重要な話をしている間も、他のメンバーは興味がないのか何の反応も見せない。
そこで、紫音が話に割って入り、華が卒業となるに至った経緯をハッキリと話し出した。
「華奈さんはこれからのピンキースカイにそぐわないんです。いえ、ハッキリ言わせてもらうと、邪魔なんです。華奈さんが目指す、仲良しこよしのアイドルグループじゃいつまで経っても地下から抜け出せません。その辺の話を里菜さんにしたらしっかりと理解してくれました。華奈さんは変われますか?」
華は、紫音のその言葉を聞いて、自分の居場所はもうここには無いんだと分からされた。
だから、せめて最後まで気丈に振る舞い、自分のアイドル像を貫こうと、涙も見せずにこう答えた。
「あたしは変われないし、変わるつもりもない。だからこの卒業ライブであたしはピンキースカイを抜けます。三田さん、みんな、こんなあたしに最後を飾れる場所を作ってくれてありがとうございます。」
「あ…いや…すまん…かったな…。」
華の真っ直ぐな姿勢に耐えられなかった三田は、目を逸らしながら返事をした。
この後、華の卒業ライブの話はほとんど出ず、新曲の話し合いだけでミーティングは終わる。
華は、この場の空気に耐えられず、終わると同時に部屋を飛び出して外に出る。すると、外は土砂降りの雨になっており、傘を差していない華はすぐに全身ずぶ濡れになった。
(あーあ…。とことんやな…。まぁいっか…。泣いてる顔…ごまかせれるし…。)
そこで、後ろから自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。
「華奈!!」
声の主は、胸が張り裂けそうになる痛みに顔を歪める里菜であった。




