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漫才ガール!!  作者: わったん
第三幕 〝らんきりゅう〟編
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第81話 壊れそうになる心

 うずくまって泣き叫ぶ乱子を、ココが優しく包み込むように抱きしめる。


「ほんまに…!あんたは…!アホなんやから…!」


「うわあぁぁぁ…!!うちが…!うちが希子にあんな事言うたから…!解散なんて言うてしまったから…!希子は死んだ…!うちの…うちのせいや…!」


「それはちゃう!乱子の責任とかじゃない!今は自分を責めるのを止めるんや!」


「だって…!だって…!うちがもっと希子の事を考えてたら…!助ける事が出来たのに…!」


 乱子は、自分を責める事を止められなかった。1秒1秒経つ毎に、押し寄せてくる希子が死んだという現実と罪悪感が、乱子の心を壊そうとしてくる。

 見かねたココが、乱子の身体を無理矢理起こし、彼女と目を合わせ、自暴自棄になろうとしている乱子を引き戻そうとする。


「乱子!一回私の顔を見るんや!ほんで落ち着いて話を聞け!」


「はぁ…はぁ…グスッ…はぁ…はぁ…。ココさん…うちは…うちはどうしたら…。」


 涙や鼻水やヨダレでぐしゃぐしゃになった乱子の顔を、ココが持っていたハンカチで丁寧に拭いてあげた。そして、鉄平に続きを話すように促す。


「鉄平さん…詳しい事情を乱子に話してあげて下さい。」


「分かった。乱子、俺とココが知ってる事を話すからな、もう少しだけ落ち着いて聞けよ。」


 乱子は返事をする事も出来ず、鼻をすすりながら、ただ鉄平の方を虚ろな目で見ている。


「あのな、まず希子の前に、あいつのお母さんが年末で亡くなりはったんや。」


「え…希子のお母さんが…。」


「クリスマスを過ぎた辺りから急に体調が悪くなったみたいでな…。そのまま回復する事なく…。ほんでお前が連絡取られへん間、希子は実家の方に帰ってたみたいでな…。妹さんの話では、憔悴しきってたみたいで、ほとんど部屋からも出てこーへんかったらしい。それで思い詰めてしまって…希子は自死を選んだんやろうって…。」


 乱子は、希子と二人で、希子の母親の病院へ行った事を思い返す。そして、必ず二人で母親を笑顔にすると約束した事も…。すると、また乱子の目から涙が止め処なく流れ始める。辛い気持ちを洗い流そうとするかのように…。


「そんな…そんな…。うちは何も知らんかった…。そしたら…あの日のライブに来られへんかった時も…。」


「そのライブを希子が勝手に休んだ日の事なんやが…実はな…」


 鉄平がその事について話をしようとすると、ココが鉄平の方へ振り返り、黙って顔を横に振る。『今は話すべきでは無い』といった感じだった。

 ココの気持ちを察した鉄平は、納得したように頷くと話を変える。


「乱子…ココの言う通り、今は自分を責めるんを止めるんや。そんな事しても何も変わらんし、お前自身が壊れてまうだけや。KCSやカンサイの事は俺が何とかしとくし、落ち着いたら俺が希子の所に連れていったるからな。その時に妹さんとも話せばええ。ただ今は自分の事だけを考えろ。」


 鉄平の言う事を素直に聞き、乱子は落ち着くために、顔を伏せるように三角座りになる。

 掛ける言葉を鉄平とココが考えていると、乱子が顔を伏せたままボソッと話す。


「ココさん…タバコを一本下さい…。」


「おい!お前はまだ20歳になってないやろうが!あかんぞ!」


 鉄平がそう注意するが、それを無視してココはタバコを取り出して、乱子に渡すために一本だけ手に取る。

 乱子は、顔を上げて、ココの手から直接口で咥えて受け取る。そのタバコに、ココがそっと火をつけてくれた。ココのZIPPOから微かに香るオイルの匂いが、ほんの少し心を落ち着かせてくれたみたいだった。


 そして、見様見真似で、乱子がタバコを吸うと、先の火種が真っ赤に燃える。そして、煙を肺に入れると、喉と肺が苦しくて、激しく咳をしてむせてしまう。


「ゲホッ…!ゲホッ…!」


「大丈夫か…?初めてはみんなそうなんねん。」


「ゲホッ…!…めちゃめちゃ不味いっすね…。」


「そうか?このラッキーストライクはこの世で一番美味いタバコやねんけどな。」


 乱子は、続けて2回目を吸うと、先程に比べると苦しさは減っていたが、やはりまだ咳き込んでしまう。


「ゲホゲホッ…!ココさん…タバコは心を安らかにしてくれるって言ってませんでしたっけ…?」


「あー…そういえばそんな事も言ったな。」


「…全然…安らかにならないっす…。」


「そうか…。そら…そうやわな…。」


 乱子が少しだけ落ち着いたように見えたココは、立ち上がって鉄平に話す。


「鉄平さん、しばらく私は乱子の傍にいます。後は任せて下さい。」


「ほんまに大丈夫か?なんやったら俺もおるぞ。」


「今からこのクッサい乱子を風呂にぶち込むんです。それとも、私らの裸を見たいんですか?ドスケベ鉄平さん。」


「誰がドスケベや!それやったらそう言えや!―とりあえずコンビニ行って何かいるもん買ってきたるわ。短い時間でも、今は乱子を一人にするべきやないやろ。」


「そうっすね…。適当に飲み食いできるもの買ってきて下さい。あ、後ナプキンとかもお願いします。」


「はぁ!?俺がそんなもん買わなあかんのか!?」


「イカついおっさんがナプキンか…。きついっすね。」


「何をニヤニヤしとんねん!くそっ!とりあえず行ってくるわ!」


 ブツブツ文句を言いながらも、鉄平はコンビニに走ってくれた。

 部屋に残ったココは、ぼーっと部屋の隅を見つめている乱子の頭を撫でる。


「私がしばらく一緒におったるからな。絶対に今を乗り越えるんやで。」


 こうして、希子の死を告げられた乱子は、これからしばらく自責の念と、助けられるはずだった後悔と戦っていく事となる。


 そして…2週間後…。

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