↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漫才ガール!!  作者: わったん
第三幕 〝らんきりゅう〟編
79/83

第79話 虚無の中で…

 乱子が、らんきりゅうの解散を鉄平に報告してから1週間が経った。

 KCSでその事を知るのは鉄平と荒木のみで、荒木に関しては、大場にすらその事を伝えていなかった。

 鉄平は、乱子から送られてきた『らんきりゅうの解散』を正式には認めておらず、KCSの誰にも報告はせずに、乱子と希子から詳しい事情を聞くために保留しているのだ。

 しかし、乱子も希子も、この1週間KCSに一切顔を出さず、他の生徒達からもそれについていらぬ噂が立ち始めていた。


「ほな今日の授業はここまでや。お疲れさん。」


 鉄平が、上位クラスのネタ見せの授業が終わり、いつも通り教室の机で作業をしていると、プリッツーの中島がやって来た。


「鉄平先生、お疲れ様です。最近変な噂を聞くんですけど…。」


「噂?何のや?」


 神妙な面持ちの中島を見て、彼が何を聞きたいのか、鉄平はすぐに察した。だが、鉄平は中島に悟られないよう、噂など知らないといった態度をしている。『らんきりゅうの解散』など起こっていない出来事と思わせるためだろう。


「らんきりゅうが…全然KCSにも、ライブにも顔を出さへんって聞いたんで…。みんながらんきりゅうは解散したんちゃうかって噂してるんです…。」


「アホか、それやったらすぐにでもあそこの名札を剥がしとるわ。」


 鉄平がそう言いながら指差した先には、35期生のクラス分けされた表が貼り付けてあり、その一番上の欄のスペシャルの所に、フラッシークラウンとらんきりゅうの名札が貼られていた。


「そう…ですよね。もし、あの二人に会ったら伝えておいて下さい!たぶん、僕らが次にあの子らと共演するんは『KCS35期卒業ライブ』やと思うんで。その時は楽しみにしてるって!」


「おう!分かった!あいつらに言うとくわ!」


 中島は、鉄平にそれだけ伝えると教室を出ていった。その後、教室に誰も居ない事を確認した鉄平は、とても大きな溜め息をついた。


「はぁ〜〜〜…。ほんまあいつら何をしとんねん…。希子は連絡返してこーへんし、乱子なんかスマホの電源すら入れとらへん…。荒木に聞きたい所やが、今は東京で大事な仕事しとるしな…。どうなってまうんや…ほんま…。」


 らんきりゅうに大いに期待していただけに、鉄平の落胆は酷いものとなっていた。

 そこに、関西芸能の事務仕事をしている男性の社員が鉄平を訪ねてきた。


「あの…お疲れ様です。今ちょっと良いですか…?」


「お疲れさん。構へんで、どうした?」


 その社員は、かなり気まずそうに目を泳がせ、中々話をしようとしない。しびれを切らした鉄平が、少し苛つきながら、彼に早く話すよう催促をする。


「何や?なんかあるから来たんちゃうんか?」


「あ…!はい…そうです…。あの…らんきりゅうってどうなってるんですか?ちょっと噂を聞いてしまいまして…。」


 また、らんきりゅうの噂についての質問に、鉄平はうんざりした顔で答える。


「どんな噂か知らんけどな、あいつらに関しての噂はデマばっかりや!鵜呑みにすんな!」


「そうなんですか…?それなら良いんですけど…。」


 何か隠していそうな態度をする社員を、鉄平は怪しみ、深くその事について問いただしてみた。


「何かまだ言いたい事あるんやったら言え。」


「だ…大丈夫です!噂が嘘ならそれで良いんです!じゃあ僕はこれで!」


 焦った様子で教室を飛び出していった社員を、鉄平は怪しんだ様子で見ていたが、今はそんなものに構っている暇は無かった。

 そして、そのまま何も出来ず、無情にも時間は過ぎていくのであった。



――そのまま、乱子も希子も姿を現さないまま年は明け、いつの間にか1月を迎えていた。

 乱子は、一人暮らしをしているアパートの散らかった一室で寝転びながら、生気の無い目で天井をぼーっと見つめている。


(あ…、そろそろKCSに顔出さなあかんか…。なんか…おもろいネタ考えんとな…。)


 KCSに行く事を考えると、乱子の顔は微かに苦痛に歪む。


(でもな…行ったら希子と顔合わせなあかんし…。それはまだ…ちょっとな…。)


 乱子は怠い身体を無理矢理起こすと、冷蔵庫に向かう。何か食べようと冷蔵庫のドアを開けると、何かが腐ったような嫌な匂いが鼻に入ってくる。


「くっさ…。そういえばもう1週間ちょいぐらい外に出てへんかったな…。」


 カップ麺などを大量に買い置きしていた棚を見ると、そこには食べ物と言えるものは何一つ残っていなかった。

 風呂も3日に一度ぐらいしか入らず、綺麗だった黒い髪の毛はボサボサになっている。


 こうなるほど、乱子はあの出来事に酷く心を傷付けられたのだ。何のやる気もでず、ただただ日が過ぎるのを待ち、時が全てを解決してくれる事だけにすがっていた。

 誰とも話をしたくないという思いが強過ぎて、あれから一度もスマホの電源すら入れていない。何度か誰かが家のドアを叩く音がしたが、心ここにあらずの乱子は、無意識にそれをずっと無視し続けていた。


「あーあ…面倒臭いけど…買い物にでもいくか…。」


 乱子が買い物に行くため、財布を取り、ドアノブに手をかけた時だった。

 突然、ドアから『ドンッ!ドンッ!ドンッ!』という音がして、乱子は後ろに飛び退くほど驚いた。

 このまま居留守を使おうと乱子は思ったが、飛び退いた時に軽く音がしてしまい、それが聞こえていたドアの向こうにいる人が大声で乱子を呼ぶ。


「おい!乱子!おるんやろ!?すぐにドア開けろ!」


 それは、ココの声であった。緊急事態を思わせる切羽詰まった声に、乱子は渋々ドアを開けた。

 すると、そこには黒いスーツ姿のココと鉄平が立っている。


 乱子は、二人の服装が喪服であるとすぐに気付く事が出来なかった…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。