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漫才ガール!!  作者: わったん
第三幕 〝らんきりゅう〟編
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第68話 頑張る大場

 乱子の元に、史上最大の静けさが訪れている。ココがそれぞれの前にドリンクを置くカタッという音だけが店内に響く。

 そして、鉄平の前に置かれたビールの泡が数cm無くなった所で、やっと正気に戻った乱子が騒ぎ出す。


「はぁーー!?!?付き合ってる!?何が!?え!?何がなん!?」


「うっさ…。」


 朝にけたたましく鳴りだした目覚まし時計のような乱子の発狂ぶりに、荒木が目頭を押さえながら苦言をこぼす。


「あ…なんや…。聞き間違いか…。ごめんごめん。うちの早とちりやったわ。で、何て言ったん?」


 急に冷静に現実逃避を始めた乱子に、諦めたかのように希子が答える。


「私と荒木君が付き合ってるっていう話。ほんまやで。」


「なぁーーー!!ど…!どういう意味で!?荒木ってどの荒木!?」


「この荒木!!」


 情緒不安定な乱子に分かりやすく、希子が荒木の顔を両手で持って乱子の方に向ける。


「趣味悪くない?」


「はぁ!?放っておいてよ!」


 真顔で悪口を言う乱子に希子がキレる。


「え…マジで言うてんの?知らんかったんうちだけなん…?」


 驚愕で軽く震える乱子に向けて、鉄平や大場もコクリと頷く。


「鉄平まで知ってるやなんて…。ココさん…うちにも記憶が無くなるぐらい強いお酒をお願いします…。」


「おい。なんで俺を呼び捨てでココには〝さん〟付けやねん。しばくぞ。後絶対酒飲むなよ。」


 細かい所を拾う鉄平を無視し、乱子は深く椅子に背をもたれかける。そのまま、虚ろな目で天井を向き、口をパクパクと動かしているが、何も言葉が出てこないのだろう。


「はは、何この子。おもろ。」


 ココがそれだけ言い残してキッチンの方へと戻っていった。そこで、どうしようもない乱子に、希子が大きく溜息を付きながら寄り添うように声を掛ける。


「はぁ~〜。ほんまはもっとちゃんとした時に言うつもりやったんや。こうなる事が分かってたから…。乱子にだけ隠してるとかじゃないから。鉄平さんには2人でおる所見られたから言うただけやし。ここにおる人間しか知らん事やねん。」


 大場が、自分のせいで大事になってしまった事に責任を感じて、頭を下げて謝る。


「希子ちゃん…ごめんな…。知らんかったとはいえ、僕のせいでややこしい事になってもうて…。」


「いやいや、大場さんは悪くないですよ。いつか言わなあかん事やったんで。気にせんといて下さい。」


 すると、乱子は見上げていた顔を前に向け、真顔でとんでもない事を言い出す。


「うちも大場と付き合ってんねん。」


「え……。」


 嘘丸分かりの乱子の発言に、希子は苦い表情になる。


「ぼ…僕と乱子ちゃんが…!付き合ってる!?いつの間になん!?乱子ちゃん!ほんまに僕と付き合ってる事になってんの!?」


「んなわけないやろ。ちょいデブツッコミマンが調子乗んなよ。」


「僕…そんな言われるぐらい悪い事したんかな…。」


 全く何の意味も無い乱子の嘘に振り回されたあげく、『ちょいデブツッコミマン』などという、世界を一欠片も救えないヒーローにされた大場は鬱モードに入ってしまった。

 そんな大場を放ったらかしにして、乱子は改めて真剣に希子の本心を聞く。


「マジのマジで付き合ってんの?」


「マジのマジ。」


「いつからなん?」


「クラス発表のちょっと前から。」


「どっちから?」


「どっちからっていうか…成り行きというか…。」


「殴って良い?…大場を。」


「何でさっきから怒りの矛先を僕にばっか向けてくんの!?」


 今乱子の怒りを抑え込めるのは『ちょいデブツッコミマン』しかいないのだ。

 そして、乱子と希子の間に、ずっと沈黙していた荒木が話に割って入った。


「別にプライベートの事やろ。お前がそこまで感情的になるもんでもないやんけ。」


「荒木君…。」


「分かっとるわ!ただ…希子がこれを切っ掛けに芸人として集中でけへんようになったら…。」


 乱子が言わんとしている事に気付いた希子が、珍しく口調を強めにして答える。


「そんなん無いから!私は私で芸人としての目標があるねん!それが私の中で一番やし!その目標を一緒に達成できる人は乱子しかおらんって思ってる!だから、今回の事が原因で乱子の足を引っ張るなんて無いから!」


 必死で訴えてきた希子に、乱子は少しだけ目を瞑って考えた後、落ち着いた様子に戻る。


「そうか。分かった。ほなその目標ってのをそろそろ教えてもらおか。」


「うん。それなら乱子に一緒に行ってほしい場所がある。良い?」


「しゃーないな。希子のためや。一緒に行くわ。」


 一旦問題は解決したようなので、ずっと見守っていた鉄平が、グラスを持って乾杯を促す。


「よっしゃ!若者の問題は解決したな!そろそろ乾杯しよか!お前らのスペシャル祝いや!」


 鉄平がそう言うと、全員がグラスを掲げる。


「おい、大場。うちの傷ついた心を癒やすために、おもしろおかしい乾杯の音頭をせーや。」


「だから!何で僕だけ無駄に罪を背負わせられなあかんの!?関係無いねんけど!」


 乱子の大場イジりで何とか場は和み、その後は乱子と荒木の軽いいがみ合い以外は何事も無く飲み会は終わった。途中から何故かココも参加していたが、ドギツい下ネタで周りを引かせまくっていた。



――そして数日後、乱子は、希子に目標を教えてもらう約束を果たしてもらうため、南海難波駅の前で希子を待つのであった。

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