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漫才ガール!!  作者: わったん
第三幕 〝らんきりゅう〟編
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第65話 最悪の修羅場

 『木屋(こや) 虎信(とらのぶ)』。

 この人物は、関西芸能の5代目社長を務めた人物である。彼は大学卒業後、すぐに関西芸能の正社員として入社する。彼の仕事に対する才覚は素晴らしく、すぐにメキメキと頭角を現し、関西芸能の出世街道を邁進していく事となる。


 そんな彼の最も偉大な功績は、芸人の世界で初の試みとなった〝芸人養成所の設立〟である。

 一昔前までの芸人になる方法とは、実力のある師匠について弟子となり、そこから修行を始めて芸人になるという道しかほぼ無いような状態だった。


 だが、木屋はその方法に『否』と突きつけた。様々な者達が気軽に芸人になれるように、間口を広げて大量に芸人を量産できる養成所を作る事を提案したのだ。これについては当初、反対派の意見の方が圧倒的に多かったようだが、当時の社長が1年限りという条件付きで許可を出した。


 誰もがたった1年で結果など出せるはずはないと嘲笑っていたが、木屋はたった1年で大きな成果をあげた。

 なぜなら、多くの若者がKCSに興味を持ち入学し、伝統などに縛られない自由な笑いを表現したのだ。その新しい笑いの形により、新規のお笑いファンも格段に増え、彼らKCS生が出演するライブは毎回満員御礼という偉業を達成した。

 その中でも、初代スペシャルである〝下町小町〟の成果が最も華々しく、彼らは東京にも進出し、今現在も全国区で数々の冠番組を擁する最高位の芸人となったのだ。


 そして、その後も木屋は関西芸能に数多くの恩恵をもたらし、とうとう社長の座にまで登りつめたのである。



――鉄平が、威圧感を撒き散らせながら声を掛けてきた男性に、無礼な態度を取る乱子を急いで止める。


「おい!乱子!やめるんや!その人は関西芸能社長の木屋さんやぞ!今すぐ謝罪せんかい!」


「木屋…?」


 乱子は頭の中で今の状況がどういったものなのか必死で考える。グルグルグルグルと様々な考えが思い浮かぶが、どの考えも指す答えは同じだった。


 それは『死』である。


 いくらアホな乱子とはいえ、木屋の存在は頭の片隅に記憶していた。その記憶を辿った情報によると、木屋は最も恐ろしい暴君だという事だ。彼に逆らったり、無礼な態度をした人間は、職種など関係無く、この世界から消え去るしか道が無くなると聞いた事があったのだ。

 取り返しのつかない事をしてしまった乱子は、ある究極の考えに至った。

 それは、『どうにでもなぁれ!』である。簡単に言うと現実逃避のようなものなのだが、乱子に残された選択肢はこれ一つしか残されていなかったのだ。真面目に謝っても許してもらえない、それならとことんアホになって笑いを取るしかない。

 それに、芸人界のドンである木屋なら、これからする自分の行動を分かってくれると信じ、ギャンブルに挑戦するしかないのだ。

 鉄平の注意から乱子が思考を巡らせたこの間(かん)、実にたったの2秒の出来事である。


 そして、乱子が行動に出る…。


「テ…テッテレー!ドッキリですたはぁ〜ん…!」


 絞り出したボケはとてつもないレベルの低さであった。しかも、顔は脂汗たっぷりで引きつった笑顔になっており、最後は語尾を変な感じで噛むというオマケ付きである。

当然――


シーーーーーーーン…。


 ただの『シーーン』ではない。お葬式にギャル男が普段着のままやって来たレベルの空気の重さである。

 鉄平なんかは口をパクパクさせている。そして、木屋が不機嫌そうに何かを言おうとした時だった。

 乱子のボケを救うかのようなツッコミが聞こえたのだ。


「お前がドッキリにかけられてる側の顔しとるがな!それになんや!?最後の『すたはぁ~ん』って神業的な噛み方!スタローンをスタはんって京都弁呼びしたんか!?」


 乱子が慌てて振り向くと、そのツッコミは希子ではなく、なんと荒木がツッコんでくれていたのだ。

 希子も驚いているようで、直ぐ様動けなかった自分への情けなさと、助けてくれた荒木への感謝の気持ちが膨れ上がる。

 そこで、荒木の助けを無駄にしまいと、乱子が瞬時に反応する。


「そらこんなもんうちに対してのドッキリと一緒やないか!どうにもならんやろすたはぁ~ん。」


「無理矢理『すたはぁ~ん』ぶち込まんでええねん!味をしめるな!っていうか早く謝らんかい!」


 ここで、乱子が素直に深々と頭を下げながら『すいません…。』と謝った。

 すると、木屋はすぐには言葉を発する事はなく、嫌な間が場を支配する。だが、木屋の口から出た言葉は意外なものであった。


「ほー…。俺の前でここまでボケる奴なんか今までおらんかったな。『面白ければ何でもあり』や。ほなとりあえずみんな席に着こうか。」


 木屋は、乱子の座右の銘である『面白ければ何でもあり』を言葉にすると、一番上座である席に座り、同行していた男性と女性もその隣に座った。

 何事もなく終わった場を見て、鉄平もひとまずは胸をなで下ろしている。


 あわや、らんきりゅうが消滅してしまうかもしれなかった危機を、ライバルである荒木が救うという形で修羅場を乗り越えた。

 そして、まだ緊迫した空気が張り詰めたまま、飯会はスタートするのであった。

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