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漫才ガール!!  作者: わったん
第三幕 〝らんきりゅう〟編
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第56話 濁った空気

 乱子と希子は、プリッツーとの話し合いが終わった後、フレッシュハウスの客席の一番後方に座って開演を待っている。

 フレッシュハウスの客席数は240席あり、若手のライブやイベントをするには十分なキャパを有している。本日行われるのは無名の芸人の卵のライブなのに、客席はほぼ埋まっている状態だ。

 たぶん、ほとんどが出演するKCS生の呼んだ身内なのだろうが、こういった無名時代から芸人を追っかけたいコアなファン層も、多く来ているのが後ろから見ていると良く分かった。何故なら、そういった人達は、笑いに来たというよりは審査しに来てやったという面構えをしている。

 そして、その多くがフラッシークラウンの噂を聞いてやって来たのだろう。


 しばらくすると、開演時間を迎え、劇場の照明が徐々に暗くなり、舞台上だけ煌々と照明が照らしている。すると、古臭い陽気な出囃子が鳴り、二人の男性が舞台に現れると拍手と歓声が上がる。そんな中、男性二人は手を振ったりしながら笑顔で進行を始める。


「どうもー!みなさんいらっしゃいませー!」


 金髪のロン毛の方が元気良く挨拶をする。


「おぉー!めちゃめちゃお客さん入ってますやんかぁー!」


 すかさず、角刈りの筋肉質な方が合いの手を打つ。


「これはあれちゃうかー!噂の新人目当てやないんですかー!?」


「例のコンビの事やな!それは後々出てきますからお楽しみに!それでは!本日MCを務めさせてもらいます、〝完熟Tバック〟ですー!」


「よろしくお願いしますー!」


 〝完熟Tバック〟は、現在フレッシュハウスを主な活躍の場としている芸人の中で、上位の位置にいるコンビである。最近は、劇場だけでなく、ローカルテレビ番組などにもちょこちょこと顔を出しているので、一般層にも軽く認知されている。

 このKCSの新人ライブは、フレッシュハウスで名を上げている芸人がMCをするのが毎年の決まりになっているので、客席が埋まる理由はここにもあったのだろう。


「それではみなさん!入場する際に用紙とボールペンを貰ったと思うのですが、その紙に、今日出演した中で一番面白かったと思う芸人の名前を書いて下さい!その得票数と、審査員の点数を元に本日のライブでのランキングを発表したいと思います!」


「芸人のこれからのやる気に繋がりますので必ず提出お願いしますー!」


「結果によっては辞める奴もいっぱい出るかもしれませんがー!」


「おい!それは言うなて!毎年このライブで4分の1は生徒数が減るとか言うな言うな!」


「ではでは!そろそろ始めましょうか!KCSお笑い新人ライブ!一組目は!〝狛犬パンチ〟です!どうぞー!」


 MCによるライブの説明が終わり、とうとうライブが始まった。総勢50組によるお笑い対決は、それぞれのネタの持ち時間は1分半と短いものとなっている。

 この少ない持ち時間を、多くの細かいボケで笑いを取るのか、振りを長くして大きなボケで一気に笑いを取るのか、その芸人によって様々である。


 そして、客席の後方で静かに観覧していた乱子だったが、ライブが始まると武者震いのようなものが止まらなくなってきた。


「希子!うちらの出番っていつなん!?」


「えっと〜…プリッツーの順番は…丁度40番目やな。結構後ろの方やから、やっぱあの人ら成績良かったんやと思うわ。」


「く〜!ワクワクしてきたな!あいつらの分までうちらが笑い取りまくるで!」


「それはそうやねんけど…何かちょっと劇場の空気が変じゃない?…いや、演者側が変なんかな…。」


 希子が感じた違和感は、ライブが進めば進むほど大きくなっていく。

 出演している者がスベっているわけではないのだが、若手のライブなのに明らかに元気が感じられないのだ。

 その違和感は、MCをしている完熟Tバックの二人も気付いたようで、ライブが中盤に差し掛かったあたりでその事について言及する。


「さてさて!そろそろライブも折り返し地点ですけども!何かちょっとみんな元気無いんちゃうか?」


「やっぱり初舞台で緊張してるんかな!?もっと勢いのあるコンビが出てくるのを期待するしかないな!もっとやる側も盛り上がっていかなあかんでー!」


 完熟Tバックが、なんとかライブを盛り上げようとするが、後続のKCS生達も勢いが無いままライブは進行していく。

 さすがに、客席側もいまいち盛り上がりに欠けるライブに席を立つ人達も出てきた。

 この状況を目の当たりにした希子は、ライブ前のプリッツーの言っていた事の重大さがやっと理解出来てきた。


「これ…ほんまに不味いやんか…。まさかフラッシークラウンのせいでここまでみんな心が折れてるとか思ってなかった…。みんなやれる事は全力でやってるみたいやけど、ちょっとウケへんかったら勢いなくして小さくなってもうてる。」


「うちは見てて腹立ってくるわ。仮にも自分の事をおもろいと思って芸人の世界に来たくせに、こんなんで心折れてたらあかんやろ。」


「でも、この空気感で私らが出てもどうなるか…。ウケへんかったらそれこそ鉄平さんに言い訳きかへんで…。」


「ガハハ!ウケるに決まってるやろ!ちょっとばかしうちらが同期の奴ら全員に漫才で喝入れたろ!アホクラウンに飲まれるなドアホ!ってな!」


「せやな。ほんまあんたは凄いわ。」


 こんな最悪な空気の中でも、全く臆すること無く自分達の事を信じる乱子から、光の様なものが見えた希子はとても大きな勇気を貰い、これが乱子の持つ類稀なる才能なんだと分かった。


 そして、後にKCS35期生の間で『らんきりゅうの乱』と呼ばれる事となる、乱子と希子の出番がとうとう回ってくるのであった。

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