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漫才ガール!!  作者: わったん
第三幕 〝らんきりゅう〟編
55/65

第55話 託されるモノ

 乱子と希子が劇場の楽屋に入ると、そこは異様な空気に包まれていた。レッスン場を思わせる広い部屋のような楽屋に、出演する生徒が各々ネタ合わせをしているが、ライブ前の高揚などは一切感じられず、どこかみんな落ち込んでいるようであった。


「なんやなんや、お通夜みたいな空気やな。」


 乱子が思わずそう言うと、出演予定の同期の男性が沈んだ表情で声を掛けてきた。


「お前らのせいなんやぞ。この空気は…。」


「は?何でうちらのせいになんねんな!」


「〝お前ら〟にはフラッシークラウンも含まれとんねん。正直、ネタ見せの授業でお前らの漫才見せられてやな、みんな実力とか才能の違いにヘコんどんねん。」


 らんきりゅうとフラッシークラウンが揉めて以降、乱子達もネタ見せの授業で毎回漫才を披露していたのだが、それらのレベルの高いネタを見ていた同期は、その実力差に嫌気が差してモチベーションが上がらないと言うのだ。


「そんなもん知るかいな!自分らもおもろいネタ書いてきたらええやんか!」


「分かってるけどな、まだ入って間もない人間にはそれがキツイんやわ。」


「芸人になろうって人間らが何を言い訳ばっかしてんねんな!自信持ってやらんかい!」


「はぁ…。天才には凡人の気持ちは分からんわな…。まぁもうしばらくしたら、KCS辞める奴も増えてくると思うわ。ほなな…。」


 男性はそう言い残して楽屋の隅に行くと、体育座りをして寝始めた。

 情けない男性の姿を見て、ギリッと歯を食いしばる乱子に希子が声を掛ける。


「何でみんなやる前から心折れてるんやろ…。みんながみんなそうじゃないっていうのは分かるけど、さすがにこの空気は不味いやろ…。」


「ほんまヘタレばっかやで。こんなんやったらうちらと出番変われって話や。」


「うん。そうやな。僕らと変わろか。」


 突然男の声で後ろから話し掛けられた乱子と希子が、びっくりしながら後ろを振り返ると、大人しそうな見た目の男性が二人居た。二人共眼鏡を掛けており、よくネタ見せの授業で見掛けるコンビであった。


「びっくりするやんけ!気配消して近付いてくんなや!」


「ごめんごめん。実家が忍者やから癖で気配消してまうねん。」


「は!?実家が忍者なん!?マジで!?」


「うん。伊賀と甲賀も恐れていた忍者の里〝脇賀(わきが)〟の末裔やねん。」


 男性はそう言うと、自分の脇を乱子の顔面の目の前まで持っていく。


「くっさーーー!!!」


「へへへへ!ごめん、忍者って嘘やで。ただのワキガやで。」


「しばくぞ!毒の忍術使ってきたんかと思ったわ!」


 そこで、じゃれ合う二人の間に希子が割って入る。


「ちょ…ちょっと二人で楽しんでる所ごめんな。確か中島君やっけ?」


「あ、名前覚えてくれてたんや。そうやで、僕は中島で、隣のこいつが磯野って言うねん。」


「誰が磯野やねん!野球しようぜやないねん!俺は里中や。」


 中島と里中は、〝プリッツー〟というコンビを組んでおり、KCS内でも成績が優秀なコンビである。希子も、プリッツーが面白いという事で知っており、名前も覚えていたのだ。そして、希子が本題に入る。


「さっき言うてた『僕らと変わろうか』っていうのはどういう意味なん?」


「ん?その言葉のままやで。僕らの代わりにライブに出ーへんかなって思って。」


 中島は、眼鏡のサイズが少し大きいのか、頻繁にズレる眼鏡を上げながら答える。


「え、でも中島君らが頑張って勝ち取った枠やろ?何で私達に譲ろうと思ったん?」


 希子の質問に、中島も里中も顔を歪めながら辺りを見回してから答える。


「ぶっちゃけさ、フラッシークラウンが凄すぎてな、みんな結構心折れかけてるんよな。まぁ周りを見れば分かると思うねんけど…。正直、自分達じゃ絶対に勝たれへんって諦めてんねん。どうせみんなあの天才コンビのかませ犬になるんちゃうかって…。それは入学直後から流れてた空気やってんけど…。」


「けど?」


「この前のらんきりゅうの漫才見て思ってん!こいつらならフラッシークラウンに勝てるんちゃうか!?って!ほんでその後のあいつらへの宣戦布告!僕はかなりシビれたわ。ほんでな、見てみたいなって思ってん。」


 中島は、心の折れていない純粋な笑顔になる。


「らんきりゅうがフラッシークラウンをギャフンって言わせる所を!僕らみたいな凡人の星になるようなシーンを見せてほしいねん!らんきりゅうにKCS35期のこの空気を変えて欲しい!これは里中も同じ気持ちやねん。」


「うん。俺も見てみたいな。だから俺達の代わりに出てくれ。」


 目をキラキラさせながら想いを語ったプリッツーの二人に、乱子が腰に両手を当て、胸を張りながら答える。


「ガハハ!そうかそうか!ほな任せろや!あんたらの想いをあのアホクラウンにぶつけてきたるわ!」


「乱子!簡単にそう言うけど!鉄平さんが許すと思うん!?」


「許されるとかそんなやない!無理矢理いったるんや!面白ければ何でもありや!」


「はぁ〜…。絶対ボコボコに怒られるわ…。ほんなら、中島君達…ほんまにええねんな?」


 希子の最終確認に、中島と里中は拳を前に突き出しながら答えた。


「おう!頼んだで!」


「僕らに夢見させてや!」


 そして、プリッツーとらんきりゅうが、鉄平達に内緒で入れ替わるという方法で話は決まり、同期の想いを託された乱子と希子は、必ずフラッシークラウンより笑いを取る事を心に誓うのであった。


 そして、らんきりゅうにより波乱が巻き起こる事が予想される〝KCS生による新人ライブ〟が開幕する。

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