第54話 覆らない事実
らんきりゅうが出演出来ないという事実が、教室内にも広まり、鉄平の所にいる乱子と希子に注目が集まる。
「私達が出演出来ない理由って何ですか?」
希子の質問に、鉄平が怒りながら答える。
「そんなもんな!真面目やないからや!」
「どこが真面目じゃないって言うねん!鉄平!…さんに!ネタ合わせとかしっかりやれって言われてるからやってるやないか!…じゃないっすか!」
「乱子は一回黙っとけ。―えっとな、KCS生としてな、全ての授業に出るのは当たり前なんや。やのに、乱子は入学した時からネタ見せの授業以外こーへん、希子に関しても、乱子とコンビ組んでから同じ事しとる。そんな不真面目なお前らをライブに出させるなんて事をしたら、他の真面目にやっとる子らに不公平やろうが。授業をサボっても優遇されるなんて勘違いする子らが増えても困るしの。」
淡々と理由を説明した鉄平の言い分は、全て正しいものであった。全てを聞いた希子は、冷静に考えてこれ以上自分達が何も言えない事に気付く。乱子でさえ、ぐうの音も出ないようだ。
「分かったんやったら、次のライブまで真面目にやる事やな。」
鉄平は、机の上の書類を片付けると教室を去っていった。すると、呆然と立ち尽くす二人の耳に、今は一番聞きたくない男の声が聞こえてきた。
「なんや、勝負をする前に引退が決定したんか?」
「お…おい!荒木!もう止めとけって!」
それは、乱子と希子を見下すように近付いてきたフラッシークラウンの二人であった。しかし、大場は荒木を止める為に横に居るだけのようだ。
「今はうちらに話し掛けんな…。」
「そうか、ほなお疲れさんやな。俺もお前らの負け犬の遠吠えを聞くつもりはないからな。あ、負け犬にすらなられへんかったんか。すまんな。」
「お前はぁぁぁ!!!」
堪忍袋の緒が切れた乱子が荒木に飛びかかった。それを希子が必死で乱子を羽交い締めで止める。荒木の方も大場が抑え込んでいるみたいだ。ちょっと前にあった構図と全く同じ状態になっている。
「乱子!もうええから行こ!」
「なんでや!もうええ事ないやろ!悔しくないんか!?」
「私だって悔しいよ!でもこんな事で勝ったって仕方ないやろ!私達は芸人なんやから笑かして勝たなあかん!」
希子の言葉が効いたのか、乱子は苦渋の表情をしながらも、荒木に向かっていくのを止める。
「ごめん、希子の言う通りやわ…。行こか…。」
「うん…。」
乱子と希子は、フラッシークラウンに背を向けて歩き出した。しかし、乱子が急に振り返り、荒木の股間めがけて金的をお見舞いする。
「おらぁぁぁ!!!!」
「ぐはぁぁぁ!!!!」
油断していてまともに金的を食らった荒木は、その場で崩れ落ちて悶絶している。
「ぐ…!ぐおぉぉぉ…!お前…!何すんねん…!」
「うっさいんじゃ!次は覚えとけよ!絶対お前らを笑いでボコボコにしたるからな!」
そう言い残し、乱子はズカズカと教室を出ていった。それを見ていた希子は、乱子のおかげでスッキリしたのか、少しニヤつきながら悶絶している荒木に軽く頭を下げ、乱子に続いて教室を後にした。
そして、希子が外に出ると、悔しそうにわなわなと震える乱子が居た。
「乱子、今回は仕方ないって…。私らが完全に悪いわ…。」
「……めへん…。」
「え?何て?」
「諦めへん!明日のライブ絶対にうちらも出る!」
「はぁ!?無理やって!今度こそ鉄平さんに退学にさせられるで!」
「確か…出演せーへん生徒も見学できたよな?」
「それはそうやけど、それが何の関係があんの?」
そこで、乱子は悪巧みが思いついたのか、悪意に満ちたような満面の笑みを浮かべる。
「芸人は面白ければなんでもありなんや。それを証明したる!希子!うちについてきてや!」
「え…あ…うん…。」
――そして、ライブ当日の午前10時、関西芸能の運営する劇場の一つである『フレッシュハウス』の前で、乱子と希子は合流した。ほとんどが若手芸人のイベントで構成されるフレッシュハウスは、KCSと同じビルの中にある。
二人が集合すると、ライブのリハーサルが終わったのか、続々と出演するKCS生が出てくる。
「なぁなぁ、一体どうやって私らがライブに出んの?」
「ふふふ…。それはな…。」
「それは?」
「マジで何も決めてない。っていうか今日は乱入する気で来てるからな。」
「はぁ!?嘘やろ!?私…帰るわな…。」
踵を返して帰ろうとする希子を、乱子が首根っこを掴んで無理矢理フレッシュハウスの中へと連れ込む。
「嫌やー!!絶対にろくな事にならんもん!!」
「ついてくるって言うたやろ!ほら!行くで!」
泣き喚く希子とは対照的に、乱子は何故か自信満々に笑っている。
――ライブ開始まで、後2時間…。




