第53話 事件勃発!
フラッシークラウンへの宣戦布告の後、乱子と希子はKCSを出て、ミナミの千日前商店街を北方向へと歩いている。そこで、突然希子が思い出したかのように乱子へと詰め寄った。
「そうや!乱子!何でネタ覚えてこーへんかったん!?あんな自信満々に覚えてきましたみたいな態度してたのに!」
「あのな!希子が書いたこのノート見てみろや!」
乱子は鞄から希子のネタ帳を取り出し、ページを開いて希子に見せる。
「この文字なんやねん!字が汚いにも程があるやろ!ミミズが這ってるとかそんな次元やない!はじめ見た時ひじきか何かを貼り付けて文字作ってるんかなって思ったわ!『アラビア文字でネタ書かれてもー!』って思わず一人でツッコんでもーたわ!」
「誰が石油王の愛人やねん!」
「言うてへんわ!イキんな!ってかこのままやったらうちは一生希子の書いたネタを読み解く事でけへんからな!」
「人のネタ帳を〝ヴォイニッチ手稿〟みたいに言わんといて!」
「ヴォ…ヴ…ヴォイニッ…!なんやねんそれ!すんごい前戯の技みたいなんぶち込んでくんなや!」
人通りの多い千日前商店街のど真ん中で、言い合いというか、漫才的なものを始めてしまう二人を見て、道行く人がクスクスと笑いながら通り過ぎていく。
「はぁ…はぁ…はぁ…、分かった…。そこまで言うなら次からはパソコンで打ち込んで書いてくるから絶対に覚えてや…。」
「はぁ…はぁ…はぁ…、分かったわ…。ってか結局〝チョイビッチ紀行〟ってなんやねん…。」
「ヴォイニッチ手稿な…『ちょっとエッチな女の子のぶらり旅』みたいな間違え方せんといて。ほんでもうそこを広げようとしてこんでええから…。私が分かりにくい例えツッコミしてもうただけやから…。」
ヴォイニッチ手稿とは、1912年にイタリアで発見された、未解読の文字で書かれた古文書である。本編には一切関係がないので詳しい説明は省くが、面白いので気になる人は調べてほしい。
「とりあえず!明日ちゃんと書き直してネタ持ってくるからちゃんと覚えてや!なんだかんだでライブまで時間無いねんから!」
「はいはい分かりました!ほなバイビー!」
「おもんな。」
そして、それからというもの乱子と希子は、バイトとKCSの授業以外の時間を全てネタ合わせに費やす程、真剣に漫才に取り組んでいく。
そんならんきりゅうが精一杯の努力をしていく中で、とある事件が起きる。
それは、KCS新人お笑いライブの出演者リストが張り出されたタイミングで発覚する。当然、まだ5月であり、生徒数も多い中で全員が出演するのは不可能である。よって、成績優秀者などが自然と選出される。
生徒のみんなが出演者リストの所に集まっている中、乱子が無理矢理身体をねじ込んで、『おい、乱子無理矢理入ってくんな!』などの声を無視してリストを確認する。
「どれどれ………。ん?」
乱子はリストの一番上から下まで確認をする。
「あれ?見間違いか…?うちらの名前は何で登録されてるんや?」
何度も何度も、乱子はじっくりと上から下まで確認するが、どこにも〝らんきりゅう〟の名前は無かった。しかも、フラッシークラウンは当然のようにトリを務めるようだ。
「はぁーーー!?!?ちょっと待ってや!!うちらの名前が無いんやけど!!」
自分達の名前が無い事を、リスト作成者のミスだと思った乱子は、教室の講師席に座っている鉄平の元へと走った。事情を把握した希子も、乱子の後を追ってその場へと急いだ。
「ちょっと!鉄平!…さん!ライブの出演者リストにうちらの名前が無いんやけど!」
「よく呼び捨てせんと踏みとどまったな。成長したやんけ。ほんなら次はタメ口を止めなあかんな。じゃないとしばき倒すぞアホ乱子。」
「鉄平さん!どういう事ですか!?私達は出られへんって事ですか!?」
普段は落ち着いている希子も、乱子と同じ様に声を荒げて詰め寄った。そんな二人に、呆れた顔で鉄平は答える。
「そうやぞ。今回らんきりゅうは出演無しや。」
「はぁーー!?何でうちらが出演でけへんねん!絶対おかしいやんか!あれか!?うちらに枕してほしくてこんな暴挙にでたんか!?」
「お前らみたいなクソガキに枕なんか求めるか!もっと女の色気出してから言え!」
「なんやと〜!希子!その巨乳が役立つ時が来たぞ!脱げ!ほれほれ!今すぐ脱ぐんや!」
「ちょっと!乱子うっさい!一回黙って!―鉄平さん、理由だけ話して貰えますか?」
わちゃわちゃ喚き散らす乱子を見て、逆に冷静さを取り戻した希子が落ち着いて鉄平に出演不可の理由を問う。
「そんなもん決まってるやろうが!」
鉄平から語られるお笑いライブ出演不可の理由は、今の状態では取り返しのつかないものであった。




