第52話 宣戦布告!
ネタ見せの授業が終了し、生徒達よりも一足早く鉄平と手元の男が教室を出る。そこで、手元の男が萎縮したように鉄平に質問をした。
「あの…憎らしい女二人の…あ…らんきりゅう…ってコンビの漫才…ほんまにアドリブやったんですか?」
「ん?なんや気になるんか?」
「あんなアドリブの漫才なんか、若手の芸人の中では見た事無かったんで…。フラッシークラウンも、鉄平さんはああ言ってましたけど、前半のアドリブ上手かったと思うんです…。そんな奴らが同時にって…。」
「今年は久々にKCSも盛り上がりそうやな。俺もちょっとばかしワクワクしとるわ。」
「ぼ…僕達の世代も頑張りますから!」
「ガハハ!せやな、お前にもそんな事言わせてまうような力を、あいつらが持ってるってのも凄い所やの。」
何かKCSの空気が変わりつつある事に、鉄平は嬉しそうに笑いながら帰っていった。
そして、ほとんどの生徒が帰った中、乱子と希子は帰り支度をしているフラッシークラウンの所へと向かった。乱子は当然ながら、希子も何か一言でも言わなければ気が済まなかったのだ。まずは乱子が荒木の顔を睨みつけながらかます。
「おい!さっきのは何やねん!喧嘩売ってんのか!?」
乱子の身長は167cmと、女性の中では背が高い方ではあるが、それ以上に背の高い荒木を見上げるように顔を近付ける。すると、荒木は心底面倒臭そうな顔をしながら対応をする。
「は?何の事やねん。」
「しらばっくれるな!散々うちらの事を漫才でイジってきてたやんけ!」
「あー。芸人のくせにちょっとイジられたぐらいでワーワー文句言うなや。ダッサいの。」
「はぁ!?お前なんやねん!その態度!しばくぞ!」
乱子が荒木の胸ぐらを掴むと、さすがに不味いと思ったのか、希子が乱子を後ろから羽交い締めにして止める。
荒木の方も、大場が冷や汗を流しながら必死で止めているようだ。
「ちょっ!乱子!暴力はあかんで!」
「荒木もや!何で君はいっつもそうやって誰にでも喧嘩腰になるんや!」
しかし荒木は、自分を前から押さえるように止めていた大場の両肩を掴むと、グイッと押し返して自分の身体から離し、冷徹な目で乱子と希子へ反論をする。
「イジられただけでキレるって、お前ら芸人向いてないんちゃうか?芸人やったらイジられたら美味しいと思っておもろい返しでもしてこいや。
それともあれか?最近流行りの女芸人はイジるなって風潮に甘えてるタイプか?」
「そんなわけあるか!うちらをそこらの女芸人と一緒にすんな!」
徐々に浸透しだした『女芸人を極力イジるな』という風潮がある。特に、外見に関してはタブーのような扱いになっており、イジろうものなら一気に炎上するケースも多々見られる。最近のコンプラに関して厳しくなってきた一つの事例だろう。
これのせいで、テレビやYouTubeなどでも、大人数の目がある場所では、女性の扱いはとてもデリケートになってきている。
「ほんなら少々イジられたぐらいで噛み付いてくんな。おい、大場。行くぞ。」
荒木は自分の荷物を持つと、足早にこの場を去ろうとする。そして大場も、申し訳なさそうに乱子と希子に頭を下げながら荒木の後ろをついていく。
しかし、このまま引き下がれない乱子は、荒木達の背に向けて宣戦布告をする。
「おい!5月の第四土曜日にKCS生だけで競うお笑いライブがあるやろ!そこでうちらと勝負せー!」
その乱子からの勝負の申し込みに、荒木は背を向けたまま足を止める。
「お前、俺らに勝てると思ってるんか?」
「そっくりそのまま返したるわ!」
「ええやろ…。俺らに負けたらお前らKCS辞めろ。」
「KCSを辞めろ?アホか。芸人辞めたるわ。」
一歩も引かない乱子に、荒木は軽く鼻で笑うと一度も振り返る事無く教室を出ていった。
そして、勢いで勝負を持ち掛けた乱子だったが、頭が冷えてくると、勝手に〝芸人引退〟を賭けた勝負を、希子とのコンビで挑んでしまった事が、感情に任せた自分勝手な行動だったと少し反省する。
「あ、希子ごめんな。もしあれやったらうちだけで出るから。」
「問題無い。私もあいつにクッソムカついてるから。」
「ほんならうちと一緒に出てくれるんか?」
「当たり前やんか。っていうか、私は乱子と正式にコンビ組みたいと思ってるで…。」
照れくさそうに俯きながらそう言う希子を見て、乱子は思わず笑ってしまう。
「アハハ!なんや、あんたも乙女な所あるんやな。」
「うっさいわ!で、どうすんの!?」
「ククク…。最強の天才コンビ、『らんきりゅう』を正式に結成や!!」
これが、最大のライバルとなるフラッシークラウンとの1番最初の出会いとなる。
この出会いが、乱子の人生を大きく変えてしまう悲しい結末へと繋がるとは、この時は誰も知る由が無かった…。




