第51話 もう一組の怪物
長身イケメンのボケ担当の荒木と、仏のように優しいと言われる眼鏡のツッコミ担当の大場の二人からなる『フラッシークラウン』、〝フラクラ〟の愛称で呼ばれ、KCS在学中から大小様々な賞レースで結果を出したコンビである。
KCS卒業後も、XYZお笑い新人大賞 大賞受賞、オールライト漫才 優勝、関西漫才グランプリ 優勝、そしてとうとう、OAB 決勝進出 第4位にランクインなど、目まぐるしい結果を出し続けている。
芸歴7年目とは思えない大躍進に、様々なメディアから注目を浴び、現在もテレビ、ラジオ、ネット番組などから引っ張りだこの売れっ子路線を継続している。
さらに、自分達だけではなく、KCS35期の同期の芸人達もフラッシークラウンに負けまいと努力を重ね、KCS史上最も多くの売れっ子芸人が生まれ、〝豊作の35期〟と呼ばれる結果となっている。
――名前を呼ばれたフラッシークラウンの二人が前に出て、鉄平に挨拶を済ませると漫才を始める。
「どうも〜フラッシークラウンです〜!」
「お願いしますー。」
明るい大場に対して、荒木は見た目からすれば低い声で挨拶をした。そして、その後に発せられた荒木の一言は、誰も予想していないセリフであった。
「ちんこビンビン。」
荒木のそのセリフに1番驚いているのは大場のようだ。台本には無いセリフだったのだろう。
「ちょいちょい!急に何を言い出してんの!?もしかして今の自分の状態を声に出してもーたん!?」
大場は、荒木の突拍子も無いボケにも的確な対応する。しかし、表情はやはり苦笑い気味である。
「そんな卑猥な事言うたらお叱り受けるで!」
「え?何でや?下ネタ解禁になったんちゃうんか?」
「なってないわ!」
「だってさっきのコンビはお咎め無しやったやないか。」
「お前みたいにどストレートに言うてはらへんかったわ!」
「な〜んやそうか。下ネタええんやったら俺らも楽に笑い取れると思ってたんやがな。」
荒木は、らんきりゅうに向けて嫌味たっぷりのセリフを言った。あたかも、さっきのらんきりゅうのネタは下ネタだったからウケたみたいな言い方である。
この荒木の言葉に、乱子はあからさまにブチ切れた表情を見せ始める。
しかし、荒木のらんきりゅうイジりはまだ続いていくのである。
「もうほんま下ネタとか突然ぶち込んでくるのやめてや〜!僕が困るんやから!それにあんな可愛い女の子二人をイジるなんて最低やんか〜!」
「は?女二人?ボケの方は男やなかったんか?」
荒木のその一言に、我慢できなくなった乱子は立ち上がろうとする。
「あいつ殺す…。」
「ちょっ…!乱子待ちーや…!あかんで…!」
荒木を殴りに行こうとする乱子を、希子が急いで服などを掴んで無理矢理座らせる。
教室の後ろの方で行われているゴタゴタに気付いたのか、荒木は一瞬だけチラッと乱子達の方を見るとニヤリと笑った。
「ほんならさっきの評価も、女性に配慮した評価やったんちゃうか?」
「そんなわけないやろ!しっかり面白かったやんか!」
「そんな事言うてもなー、最近の世の中は女性に優しくなってるからな。男女差別っていうのも男側が差別されてる方やで。」
「まぁ確かに最近は男の肩身が狭い事が多くなってきたわな〜。」
ここで、大場の表情に変化が見られた。たぶん、アドリブが終わり、元々やる予定だったネタの本線に戻ったのだろう。
そこからは、〝男女差別〟についての色んなシチュエーションのコントが繰り広げられ、フラッシークラウンが得意とする漫コンが始まった。
その流れは洗練されており、普通のコンビであれば1つのネタしか入れれない所に、2つ3つとコントを素早く入れてくる。
ボケもツッコミもコンパクトに収められていて、テンポ良く次々と流れるネタに、凄まじい時間をネタ合わせに費やしてきたというのが分かる。
「もうここでグダグダ言うててもしゃーない。俺が女になったら全部解決や。切ってくるわ。」
「元も子もない事言うな!もうええわ!」
「「ありがとうございましたー!」」
フラッシークラウンがネタを終えると、教室内からは思わず『おぉ〜…。』という声が上がった。
KCSに入ったばかりの人間からすれば、悔しいという感情さえ沸かないほどの実力差を見せつけられたのだ。
そして、鉄平からフラッシークラウンのネタへの評価が始まる。
「そうやな、相変わらずネタは完璧やわ。良く練り込まれとる。まぁしかし、お前らの漫才の性質上では仕方ないんかもしらんが、ありきたりなボケじゃなく、もうちょい強いボケが欲しいな。それができるようになったらお前らはまだまだおもろなるやろ。」
「何点っすか?」
荒木は、まるで鉄平のアドバイスなどどうでも良いような態度で、直ぐ様自分達の点数を聞いた。
「は?点数なんか普段言うてへんやろ。」
「良いから教えて下さいよ。」
「はぁ〜…。さっきのらんきりゅうといい…お前らはほんま…。フラッシークラウンは60点や!」
「60点?低くないっすか?」
「後半は良かったけど、前半のアドリブの部分は全然や。らんきりゅうをイジりたかったからしたんやろうけど、アドリブに関してはらんきりゅうの方がおもろかったな。あ、後な、オチがおもんない。以上。もう戻れ。」
納得していない荒木がまだ何か言いかけたが、それを大場がヘコヘコしながら彼を引っ張って下がっていく。
鉄平からの厳しい評価はあったが、頭が1つも2つも抜けたフラッシークラウンの漫才に、今日ネタ見せをした人間は、完全に意気消沈してしまっている。
だが、そんな中でも闘志をギラつかせているコンビがいた。らんきりゅうの二人である。
そして、ネタ見せの授業終了後…。




