第5話 死にそうな顔
慌ててコンビ結成を否定する華を見て、鉄平は乱子の方を睨みつける。
「なんや!乱子!自分勝手に華ちゃんを連れてきたんか!?」
「ちゃ…!ちゃうもん!華が芸人になりたそうな顔で歩いてたから連れてきただけやもん!ほんまやもん!」
「嘘つけ!お前の語尾が『もんもんもんもん』言う時はな!嘘ついてるか隠し事がある時だけやろが!」
「きっしょ。うちの変な癖まで把握してるとか、鉄平ストーカーなん?ストーカー オン ザ 鉄平って感じなん?」
「英語でけへんくせに意味分からん事ぬかすな!なんやねん!ストーカー オン ザ 鉄平て!アホ丸出しやがな!」
またもや、言い合いを始める鉄平と乱子を見ずに、華は苦しそうな顔で俯いている。それを心配した乱子が、急いで駆け寄って声を掛けた。
「え…ごめん…。そんなに辛かったんやな…。鉄平の加齢臭が…。うちが代わりに謝ったるな。はぁ…乱子ちゃん優しい。」
「おい!!!」
こんな時でもボケ続ける乱子である。だが、すでにこの空気に順応してきたのか、華は華麗にそのボケを流してボソボソと芸人ができない理由を語った。
「ううん…。違うんです。さっきの漫才とかじゃなくて、あたし…アイドルしてるから…芸人にはなれません…。」
「え?アイドルなん?」
「そうです。だから乱子さんと芸人はできません。ごめんなさい。今思えば、漫才楽しかったです!久々に人に褒められたし!ありがとうございました!」
そして、そのまま『失礼します!』と深くお辞儀をしてから華は楽屋を出ていってしまった。
その後ろ姿を、何も言う事なく、ただ見送っただけの乱子は、先程までのおちゃらけた顔ではなく、真剣な眼差しで華の飛び出していった方向を見つめている。
そんな乱子に、鉄平が後ろから優しくポンッと手を肩に乗せてきた。
「まぁ…しゃーないやんけ。可愛いし、ツッコミも上手くて、お前みたいなんにここまで付き合ってくれる貴重な子やったけど。別の夢があるなら諦めたらな。」
「ちゃう。あんな顔、夢を追いかけてる顔やない。あんな苦しそうにしてる顔見たら、うちは放っとかれへん。もう見たくないんや。死にそうな顔してる人間は…。」
「乱子…。…ん?」
辛かった思い出を、噛み締めるように遠い目をしている乱子の足元に、鉄平は1枚のビラが落ちている事に気付く。
それを拾い上げた鉄平は、そのビラに書かれた文字を読み上げ始める。
「なんやこれ。『アイドルユニット ピンキースカイの最古参〝輝 華奈〟卒業公演!』って書いてあるけど…。」
そのビラの中央には、可愛くセットした髪型に、黄色いフリフリの衣装を着た笑顔の華が写っている。
「ふーん…。このビラは華ちゃんが落としていったんかな。公演の日時は…今週の土曜日やな。」
「ちょっと見せて!」
内容を聞いた乱子が、鉄平からひっぺがすようにビラを奪い取る。それを無言で凝視していると、鉄平が諭すように乱子へ声を掛けた。
「お前が言ってたように、キラキラとアイドルの夢を追いかけてるわけではないみたいやな。でもな、お前いらん事はすんなよ。華ちゃんには華ちゃんの人生があるんや。そこに土足で踏み込むっちゅーのはやな、よっぽどの覚悟がいるんやぞ。それにさっき出会ったばっかでやな…」
「うるさい。鉄平。」
年寄り臭く、長々と話す鉄平を遮り、何か思い付いたのか、乱子はまたもや悪魔のようにニヤリと笑うのであった。
――鉄平のライブハウスを飛び出した華は、スマホを取り出すと新着マークの着いたショートメールを開く。そこには、
『卒業公演についての最終打ち合わせがあります。至急事務所まで来て下さい。』
とあった。
そのメールを見た華の顔が大きく歪む。それは、悔しさと怒りが入り混じったものであった。
(なんでこんな事になったんやろ…。あたしが追いかけてきたものってなんやったん…?)
胸が張り裂けそうな思いの華は、スマホを持っていた手にギュッと力を込める。
華がここまで追い詰められ、悔しい思いをしているには理由があった。
――華は、高校を卒業してから今まで、子供の頃からの夢であったアイドルを、6年間も一生懸命続けていた。
しかし、それはメジャーなグループではなく、所謂地下アイドルというものであった。




