第4話 褒められる喜び、しかし…
「「はぁ~〜!?乱子がコンビを組むーー!?」」
乱子のコンビ結成発言により、楽屋内に居た全ての芸人が驚きの声を上げる。
「なんやねん!みんなして!うちがコンビ組んだらあかんのか!?」
「いや…だってお前…もう2年近くコンビなんか組んでなかったし…それに…。」
「ちょっと!あんた!やめときや!」
部屋の端に座っていた男性の芸人が何かを言おうとするのを、隣でメイクをしていた女性の芸人が制止する。
「くくく…。うちがコンビを組んでもたら、もうみんなの仕事は無くなってまうしな。恐れ慄くのも無理ないか。雑魚芸人共め!」
「んなわけあるかい!ちょっとさっきウケたからって調子乗んなよ!」
「でもなぁ、さっきのアドリブやろ?それをあそこまできっちりやり切るとは…やっぱ乱子は天才なんちゃうか。」
乱子に対して、あちこちから賛否両論の意見が上がる中、楽屋の奥から40代半ばぐらいのアゴ髭を生やした坊主の男の人が、眉間にしわを寄せながら乱子と華に近付いてくる。
その風貌の圧力に押され、華は思わず乱子の陰に隠れた。
「はいはい!もう終わりや!出番ある奴は早く下に行け!ほんで!乱子も乱子で、コンビで出るならちゃんと言わんかい!」
野太い声でそう言うと、その男性は乱子の頭を小突いた。
「痛ーーっ!!すぐ頭をどつくなや!鉄平!」
「うるさいわ!毎回毎回揉め事起こすドアホが!出禁にすんぞ!」
「ぐぐっ…!チッ!すんませんでしたー。」
あの乱子が、ふてぶてしいとはいえ、鉄平には素直に謝っているのを見て華は驚いた。そんな鉄平は、乱子の後ろに隠れていた華の方へと視線を移す。目が合った華は、威圧的な鉄平の視線に、思わずビクッと肩をすくめてしまった。
「あー。お嬢ちゃん。そんなビビらんでもええから。とんだ災難やったな。」
「あ!いえ!だ…大丈夫です…。」
「しかし、お嬢ちゃん何者や?アドリブ漫才の中、あんなツッコミ出来る子はそうそうおらんで。」
「へ?いや…そんなつもりは…。」
「せやろ!?鉄平から見てもそう思うやんな!?華はツッコミの才能あるってすぐ分かったわ!」
ゴチンッ!!!
華が鉄平に褒められているのが嬉しかったのか、乱子は嬉しそうに割り込んできたが、すぐに鉄平の拳骨がまた頭に振り下ろされた。
「鉄平さんやろが!ここのオーナーで!元とはいえ芸人でもお前の大先輩やぞ!それにな、あんま調子乗んなよ!乱子!勢いに任せて上手い事やったつもりみたいやが、あのアドリブ漫才がガタガタなんは俺から見たらすぐ分かるんやぞ!」
「わ…分かってるわ…。全部のボケが弱かったのも分かってるし、華に『もうええわ!』って言わせるために、うちらしか分からん『道案内の目印が黒人』ってオチにしてもたんも分かってる…。」
殴られた頭を手で押さえ、乱子は不貞腐れながらも先程のネタのダメだった点を並べる。
テンションが下がりきった乱子を見下ろしながら、鉄平は大きく溜息をついた。
「はぁ〜。分かってるんならええわ。まぁでもな、褒めるとしたら…一番初めに『出会ったばっかり』って振りをしてたんは正解やったし、華ちゃんがまともにツッコミ出すまでの漫談は見事やったわ。その激しい漫談からの緩急つけたボケ、それに対して絶妙な間でぶち込まれた華ちゃんのツッコミ。あれは見事としか言われへん。あれで一気にお客さんの心を掴んだからな。」
「うちは天才やからな。当たり前やろが。鉄平。」
「こんのクソボケが!!」
鉄平がまた乱子に手を振り上げたが、乱子は舌を出しながらさっさとその場から離れる。
すると、フーッ!と鼻息の荒い鉄平の横で、華は静かに涙を流し始めた。
「な!なんや!華ちゃん!これはいつものコントやから泣かんでええんやで!どないしたんや!?」
「あ…あたし…。こんなに人に褒められた事も…才能があるって言われた事も…無かったから…。なんか…嬉しくて…。」
「そうか…。冗談抜きで華ちゃんのツッコミは中々やったで。ほんまに漫才やったんが初めてなんやったら驚きや。まぁ相方があれやから苦労すると思うけど…。」
「相…方?」
「なんや?乱子とコンビ組んだんちゃうんか?」
「組んでませんし芸人なんかあたしには無理です!ただ拉致されて舞台立たされただけです!」
褒められた事で忘れかけていたが、このままでは乱子とコンビを組まされてしまう事を華は思い出すのであった。
そして、突然過ぎるこの展開以外にも、華には芸人にはなれない理由があったのだ。




