↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漫才ガール!!  作者: わったん
第三幕 〝らんきりゅう〟編
48/66

第48話 ネタ合わせはほどほどに。

 鉄平から指示を受けたネタ見せの授業当日、朝の8時を少し過ぎた頃、KCSの入口で希子が乱子を待っている。

 すると、珍しく乱子が大きな遅刻もせずに、ほぼ時間通りにやって来た。


「へぇ〜。ちゃんと来る事あるんや。」


「余裕…余裕…。」


「乱子…寝てへんやろ?」


「ちょっとは寝たで。でも遅刻しておじゃんになったらたまらんからな、深くは寝られへんかったわ。朝4時ぐらいから10分間隔でずっと目覚まし鳴ってたからな。」


「なんという頭の悪いやり方や…。」


「うるさいわ!ほら!行くで!」


 そして、二人は階段で地下に降り、授業の行われる教室へと入る。

 横開きのドアを開けると、中に居た人達が乱子と希子に注目する。二人が一緒にやって来た姿を見て、少し教室内がザワついたようだった。


「なんやねんこいつら。うちらみたいな爆乳コンビが誕生して興奮しとるんか。」


「乱子はちっぱいやろが。あんたまだ昨日の酔っ払いの発言引きずってんの?」


「まぁ乳も芸人としても、成長はまだまだこれからやな!」


「乳は諦めなさい。その年でそれならもう頭打ちや。」


 そうやって、二人は教室内からの視線を気にする事なく、教室の一番前に設置されているホワイトボードの前まで向かった。

 これは、授業でネタ見せをしたい者達が、コンビ名や個人名を書き込むのだが、臨時でコンビを組んだ乱子と希子は何と書けば良いか迷っている。


「なぁ希子、コンビ名何にする?」


「別に、自分達の名前だけでええんちゃうの?」


「そんなん味気ないやんか!やっぱ名前から相手を威圧していかんと!〝笑福亭 乱子希子〟とかにする?」


「なんで見栄張ってそんなデカい屋号にすんのよ!虎の威を借り過ぎやろ!普通に〝希子 乱子〟で良いって!」


「何で自分の名前を前にしようとするん?」


「それは乱子もやろ!」


「ここはやっぱ譲られへんな、この名前の順番は重要や。」


 乱子が小さい事でグチグチ言い出していると、ホワイトボードに名前を書きたい人間がどんどん後ろに並び出した。それで恥ずかしくなった希子が、乱子からマジックを奪って雑に自分達の名前を書いた。


「ちょっ!字汚(じきたな)っ!」


「うっさい!ほんま恥ずかしいわ!」


 希子は、『らんこ きこ』と書いたようであったが、グチャグチャ過ぎて〝こ〟の文字が読みにくくなっている。

 そして、エントリーが済んだ二人は教室の一番後ろへとやって来た。


「じゃあさっそくネタ合わせしよか。授業まであと30分弱しかないし。」


「希子。うちはちゃんとあんたが書いてきたネタを覚えてきた。だからネタ合わせは必要無い。」


「はぁ!?ぶっつけ本番でやるって事!?そんなん無理やろ!」


「あんまりネタ合わせってやり過ぎてもあかん気がすんねん。ネタ合わせをしてる内に、自分達がネタに飽きてきて、ほんまにこのネタがおもろいんか分からんくなる事あるやろ?特にネタを書いてる希子は尚更やと思うわ。」


「言いたい事は分かるけど!一回もネタ合わせやらんのは聞いた事ないわ!」


「大丈夫。うちを信じてや。笑いにだけは妥協したくないねん。」


 真っ直ぐ綺麗な目で、乱子は希子を見る。その目を見た希子は思わず目を逸らし、渋々乱子の意見を聞いてしまう。


「…分かった…。」


「お!分かってくれて良かった!」


「その代わり!失敗したらどつくで!」


「なはは!任せなさいて!」


 そして、時間はあっという間に過ぎ、授業開始の時間に鉄平が入ってくると、全員で『おはようございます!!』と挨拶をする。その後は、号令も何も無いまま淡々とネタ見せが始まっていく。

 鉄平の隣には、あのいけ好かない男がおり、その男がホワイトボードに書かれた名前を読み上げている。

 名前を呼ばれた者は、返事をして前に出るとネタを始める。しかし、劇場などとは違い、非常に重たい空気が教室には流れている。

 それは当然、全員がライバル同士なのだから当たり前なのだが、そこそこ面白いネタをしても、誰もクスリとも笑わない。その空気に耐えられなかった者が、ネタを途中で止めてしまう事もチラホラある。


 そんな中で、ネタ見せはどんどん進んでいき、とうとう乱子と希子の順番がやって来る。

 ホワイトボードに書かれた名前を、手元の男が読もうとするが、字が汚過ぎて読みあぐねている。


「えっとー!これ何て読むねん…。らん…き…。は?マジで分からんねんけど!この最後は…りゅうって書いてあるんか?もうええわ!〝らんきりゅう〟!」


 男が読んだ〝りゅう〟の部分は、隣に書いてあったコンビの頭文字だったのだが、繋げて読んでしまい、乱子と希子の名前は〝らんきりゅう〟となってしまった。


「あれ私達の事ちゃうかな?」


「は!?なんか勝手にコンビ名決められてるやん!まぁ臨時やから何でもええけど。」


 ブツブツ言いながらも、二人は一番前へ行くと、講師席に座る鉄平に一礼する。そして、センターマイクを模した棒の前に行き、客側から見て乱子が左、希子が右に立って漫才の形を取る。


(さぁ…乱子のセリフからやで…。『なんたら界隈って言葉が流行ってるやんか?』からスタートや…!)


 希子が相手のセリフを待っていると、息を整えた乱子が驚きのひと言目を発する。


「ほんま酔っ払いってマジで鬱陶しいよなー。」


 台本と全く違うセリフで始める乱子に、希子は衝撃を受け過ぎてブッサイクな表情になってしまう。


(こ…!こいつ…!さてはネタ覚えてきてないな…!さっきのキラキラした真っ直ぐな目は、これを隠すためやったんや…!シレッとした顔で始めやがって!こんのボケ〜…!!)


 乱子の暴走から始まったこのネタ見せは、果たしてどうなってしまうのか。希子は、覚悟を決めて『そら酔っ払いは鬱陶しいもんやろ。』と乱子へ返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。