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漫才ガール!!  作者: わったん
第三幕 〝らんきりゅう〟編
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第47話 笑いの神様

 乱子と希子に近付く怪しい影―その正体は、芸人が嫌う種族の一つ『酔っ払いの一般人』であった。


「あ〜!なんやなんや〜!…ヒック…!可愛い嬢ちゃん2人が何かしとるで〜!…ヒック…!」


 その酔っ払いは、酔っ払いの中でも原点にして、酔っ払い種族四天王の一角―〝頭にネクタイ中年サラリーマン〟だった。

 〝警察や消防関係〟〝現場職の方々〟〝成金〟に並ぶ、接客業であれば相手したくない酔っ払いである。

 ふらふらよろよろと近付いてきた酔っ払いに対し、乱子と希子はそいつが居ないものとして無視をしている。


「可愛い子らやなぁ〜。特にこっちの子はパイパイビッグバンやぁ~。…ヒック…!」


 酔っ払いは希子の胸を見ると、鼻を伸ばして鼻息が荒くなっている。そんな事を言われても、希子は全く意に介する事なく無視を続けている。

 だが、乱子がそれについ反応してしまった。乱子は酔っ払いに胸を突き出しながら文句を言う。


「おいおっさん!それはうちにも言うてんのか!?」


「ん〜?」


 酔っ払いは、乱子が突き出してくる胸を見てもイマイチな反応を見せる。それに余計に腹が立った乱子はもう一段階胸を前に突き出した。


「それは!うちにも!言うてんのかて!?」


「…ヒック…!………オェ…ヴォエ………。」


「人の胸見てえずくなや!!」


 そこで、希子が乱子の肩をポンと叩き、無言で同情したように微笑む。


「うおい!お前までうちに可哀想な子に向ける優しい笑顔をすな!」


「だって…なぁ?乱子の胸…可哀想やから…。」


「可哀想ちゃうわ!しかも貧乳イジりされる程小さくないからな!」


「でも羨ましいよ!動きやすそうで!ファイト!」


「何にファイトやねん!」


 すると、乱子と希子のやり取りを聞いていた酔っ払いが何かに気付いたように目を丸くする。


「…ヒック…!なんや?嬢ちゃんらは芸人か?」


 酔っ払いのその質問に、乱子と希子は凄く嫌な予感を感じる。もしかしたら、芸人が最も忌み嫌うあのセリフを続けて言うのではないかと…。


「なんや!芸人なんか!…ヒック…!ほなあれや、何かおもろい事せーや!」


 二人の予感は的中した。最悪である。『面白い事をしろ、面白い事を言え』この振りは、人が言葉を話し始めて数千年という歴史の中で最も愚かなセリフである。

 しかも、この振りをする人間は、決まって本人自身は全く面白くないというオマケ付きだ。『どの位置からもの言うとんねん!』とシバいてしまいたくなる衝動に襲われる程に…。

 なにより、この振りをされて笑いを取る事は至難の技に近い。ほぼほぼ不可能と言っても過言ではない。

 何故なら、相手はもう笑いに対して完璧な心構えが出来ているのだ。『面白い事をしろ』と言ったくせに、『絶対に笑ってやるものか!』という矛盾した確固たる意志を持っている。

 これを打破できる可能性があるとすれば、振られてから1秒以内で行動に移す事だ。1秒以内に一発ギャグをするのか、面白い事を言うのか、何でも良いからすぐに動かなければならない。

 1秒を超えるともう無理である。何をしても良い結果を生まない。

 だから、修羅場をくぐってきた芸人以外はこの初動で完全に殺されてしまう。

 今の乱子と希子もそうである。酔っ払いの振りに直ぐ様反応できず、振りに対する嫌悪感を滲み出すだけで棒立ちのままだ。


 酔っ払いは口角を大きく上げてニヤリと笑う。


(俺の勝ちだ…。所詮は女。芸人を齧っていようがこの程度にも反応できないとは…。さっきの会話を聞いてもしやと思ったが…買いかぶりすぎたか…。)


 とでも思っているかのようなほくそ笑み方である。そこで、希子が最も取ってはいけない悪手に手を出してしまう。


「あの…急に何なんですか…?」


 そう!その悪手とは『マジ返し』である!これを1番やってはいけない!もう逃げたも同然なのだ!『私はこの振りに対して何もできません。』と負けを認めたのも同じである!

 だが!この場は違った。乱子がすかさずフォローに入ったのだ!


「あ!今敬語使ったやんな!?はい!希子の負けー!じゃあ元気良くお尻大魔神のモノマネやってや!」


「はぁ!?そのゲームは乱子にだけ適用してるんじゃないの!?」


「うちな、巨乳には厳しいねん。なんでかって?ムカつくから。見下されてるように思えてムカつくから。」


「私情を挟み過ぎやろ!しかも何で大魔神とかいう位(くらい)の高いやつやらなあかんの!?もうちょいお尻二等兵とかから始めさせてくれへん!?」


「お尻二等兵の方が嫌やろ!戦時中っぽいやんか!」


 二人がまた漫才のような掛け合いを始めると、酔っ払いは『フヒヒヒヒ』と笑いながら繁華街の光の中へと消えていく。たぶんもうベロベロでどうでも良くなったのだろう。

 光の中へと溶けていくような酔っ払いの背中は、何故か神々しさを纏っていた。その姿をジッと見つめていた乱子が、見惚れたように呟いた。


「あれ…笑いの神様やったんかな…。」


「そんなわけないやろ!あんな気持ち悪いのが私らの目指す世界の神様やったらもう芸人辞めるわ!

ってかもう最悪…。ネタ合わせしなあかんのに…用事の時間になってしまった…。」


「大丈夫!うちはちゃんとネタ覚えとくから!」


「ほんまに?ほんなら明日早めに待ち合わせして最終のネタ合わせしよか。」


「オッケー!ほなまた明日!」


 こうして、乱子と希子はまともにネタ合わせも出来ずに、ネタ見せ当日を迎える事となる。

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