第45話 出会い
2020年、関西芸能が運営する芸人の養成所であるカンサイ・コメディ・スクール―通称KCSに、後に豊作の35期と言われる面々が入学する。
その中に、一際異彩を放つ者として、乱子の姿があった。まぁ、ただ単に周りを威嚇しまくっていただけなのだが…。
「コラァァァ!乱子ぉぉ!お前はいつになったらネタ見せに参加するんじゃ!それにダンスも発声の授業も参加せーへんし!お前はこのまま続けてたら確実に下位クラスになるぞ!」
入学してから一ヶ月が経った頃、KCSの教室で鉄平の怒号が響き渡っている。それを、何の反省の色もなく、耳をほじりながら太々しい態度で聞く乱子が居た。
「いやいや、鉄平さ、仕方ないやんか。相方がまだ見つかれへんねんから。それに、ダンスも発声もうちには必要ないんや。特にダンスなんか芸人に必要あるか?」
「まずはな!〝鉄平先生〟って呼ばんかい!ドアホ!むしろお前なんか退学にしたろか!」
すると、鉄平の後ろで控えるように立っていた細身の男性が会話に入ってくる。
「鉄平さん、もうこんな奴放っておきましょうよ。どうせ夏前には辞めてますって。」
乱子を見下すような発言をしたその男性は、KCS34期の成績優秀者である。KCSでは、前期の成績優秀者が次の年の講師の手元をするのが通例となっている。
「は?お前誰やねん。どの位置から偉そうに物言うとんねん。金魚の糞が。」
「お前な!俺は先輩やぞ!敬語使わんかい!」
「うちは自分よりおもんない奴には敬語使わんのじゃ!覚えとけ!」
乱子の発言に、鉄平は直ぐ様反応する。
「おい乱子。その感じやと俺もお前よりおもんない奴って事になるやんけ。」
「鉄平はちゃうで!仲良えからタメ口使ってるだけやからな!安心してや!」
「ガハハ!ほな安心やな!良かったわ!ってしばくぞクソガキ!」
こういった具合で、誰にも媚びへつらわない乱子は、同期の中でも浮いた存在になっており、最近ではほとんどの人間から煙たがれるようになっていた。
こんな状況で相方が見つかるわけもなく、ずっと乱子は孤立していたのだ。しかし、鉄平だけは乱子の芸人としての才能を見抜いており、何とか結果を出させようと協力しているのだが、まずそれに必要な相方が見つからず、ずっと頭を悩ませていた。
その時だった、ワーワー言い合いをしている鉄平達に話し掛ける者がいた。
「鉄平さん、また相方と別れてしまいました。」
そうやって抑揚の無い小さな声で話し掛けてきたのは、サラサラと綺麗な髪質で、青色のメッシュの入った黒髪ボブの女の子だった。服装はシンプルな白のブラウスに黒のロングスカートという、どこぞのお嬢様といった身なりで、言われなければ芸人をしているとは思えない綺麗な子である。
「なんや、希子か。ってかまたコンビ解散かいな。何人に逃げられとんねん。」
「逃げられてません。相手が面白くなかったから私から解散したんです。」
「またその理由か…。もうちょいコンビとして付き合っていかんと面白さなんか分からんやろ…。」
「分かりますから。私がツッコミする気が失せるぐらいの人を紹介せんといて下さい。」
希子の切れ長の鋭い目つきで言われると、さすがの鉄平もたじたじになってしまう。
そこで鉄平は、横で大欠伸をかましている乱子を見てある事を思い付いた。
「よし!乱子、希子とコンビ組め。」
鉄平の突拍子のない提案に驚いた乱子は、欠伸を中断して希子の方を見た。
「この子と組めって?誰なん?」
「それ、こっちのセリフですけど。」
お互いプライドの高い乱子と希子は、先制を取られまいと牽制し合っている。
「おい!ケンカすんなよ!お前ら2人はピッタリやと思ってたんや。この際や、コンビ組んで明後日のネタ見せで漫才かコントを披露せーよ。」
「いやいや!待ってや!うちにも選ぶ権利あるて!こんなお嬢様みたいなんがうちのボケについてこれるかいな!」
「失礼な人ですね。出会って5分経ってますけど、まだ一つもボケれてないやないですか。あーあ、私の天才的なツッコミ見せてあげたかったな。」
「ぐぬぬぬ。痛い所を突いてきやがって…!」
「ね?私ツッコめるでしょ。」
「うるさいわ!」
乱子と希子が至近距離で睨み合っていると、鉄平はさっさと教室から出ていこうとする。
「ほなまた明後日な!頑張れよ!おもんなかったらお前らは下位クラス確定やからな。」
そう言い残して鉄平は教室を後にする。その後ろには、さっき乱子に噛みついてきた細身の男性が、乱子達を馬鹿にするようにニヤニヤ笑いながら捨て台詞を吐く。
「アホや。下位クラスとかダッサ。二度と俺にタメ口利くなよ。」
そして、細身の男性も教室から出ていくと、バタンとドアは閉まり、教室には乱子と希子の二人だけになる。
乱子と希子は、男性に対し、怒りを通り越して真顔になる。すると、お互い顔を見合わせることなく、乱子から会話を始める。
「なぁ、あいつを笑いでボッコボコにしたいから明後日のネタ合わせ付き合えや。」
「良いですよ。私も同じ事考えてましたから。ネタ書けます?」
「書かれへん。今までアドリブで生きてきたから。」
「そしたら、明日の夜までに私が書いてきますんで、夕方以降は空けてて下さい。」
「了解。明後日だけになると思うけど、よろしく頼むわな。」
これが、KCS35期の間でだけ語られる伝説の天才コンビ『らんきりゅう』の出会いとなったのである。




