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漫才ガール!!  作者: わったん
第ニ幕 ガーリー・ロック始動編
43/66

第43話 希子のいる場所へ

 時刻は午前8時、南海難波駅の前で華は乱子を待っている。前回の下ネタBARでの一件の後、乱子から詳しい連絡があり、現在に至るのである。

 土曜日ということもあり、往来する人の数も凄まじく、人混みが苦手な華は、今か今かと落ち着かない様子である。


「ほんまに!乱子がまともに待ち合わせに来た事一回もないやんか!」


 そうやって華が悪態をついていると、眠そうに欠伸をしながら『うぇ〜〜い』と手を振る乱子がやって来た。


「うぇ〜〜いじゃないわ!乱子って時間守られへんの!?」


「あー、ごめんごめん。ちょっとこれを買わなあかんかったから。」


 乱子は手に持っていた某有名ケーキ屋さんの袋を華に見せる。


「え?ケーキ?何でなん?」


「ん?これな、希子が好きなケーキやねん。」


「へ〜、希子さんが好きなやつなんや。」


 あまりにも自然に乱子の口から出た『希子』という名前に、華は頭が追いつかず反応が出来なかった。

 しかし、『希子のためにケーキを買ってきた』という乱子の行動から導き出される答えが何なのか、徐々に頭の中で整理され、一つの結論が華の中で出る。


「えっ!?希子さんへのケーキって事は、今から希子さんに会いに行くの!?」


「そうやで。やっぱ希子も交えて話さんとあかんと思ってな。言ってなかったっけ?」


「聞いてないわ!もう!それやったらもっとちゃんとした服着てくれば良かったわ…。」


「なはは!希子はそんな細かい事気にせーへんから大丈夫やて!ほな行くか!」


 突然希子と会う事が決まった華は、今まで味わった事のない緊張感で胃がキリキリとしだす。

 2人は、南海電鉄の電車に乗り、難波を出て南へとひたすら電車に揺られながら目的地を目指す。

 乱子との会話がほとんど無い中で華は、希子が一体どんな人なのだろうか、どんな人生を乱子と歩んだのだろうか、そして―何故芸人を辞めたのか、そういった事をグルグルと頭の中で考えている。


 色んな事を考えていると、窓の外にはいつの間にか海が広がっていた。まだ梅雨前で、海に入れる季節ではないが、いつか乱子や鉄平など、最近出会った大切な人達と海に行けたら良いなと、華は真っ青な海に思いを馳せる。出来ることなら、今日会う事になる希子も交えて…。


 そして、海が見えてしばらくした後、乱子はゆっくりとした動きで席を立つ。


「華、次の駅で降りよか。」


「あ!もう次の駅なんや!何か色々考えてたらあっという間やったわ。」


 華が乱子に続いて立ち上がると、電車はゆっくりと停車する。電車から降りて駅に立つと、ほんの僅かに海の香りがした。

 改札を出て辺りを見渡すが、民家などが立ち並んでいるだけで、目立った建物があるわけでもない小さな駅だった。最近はずっと難波に居た華からすれば余計にそう思うのだが、この小さな駅と静かな町の空気が、都会に疲れた自分を癒してくれているように感じる。


「ちょっと歩くと遠いからタクシー呼んで行こか。」


 乱子はそう言うとスマホを取り出して、アプリでタクシーを呼び出す。

 大阪市内ならすぐ来るはずのタクシーも、この場所では来るまでに20分程かかった。

 そして、やって来たタクシーに乱子と華が乗り込むと、乱子はスマホの画面を運転手に見せる。


「あの、すんませんけどここまでお願いします。」


 運転手は、掛けていたメガネをズラして画面を確認すると、すぐに車を発進してくれた。


「若い子2人でこんな山の中に行くなんて珍しいな〜。何か用事あんのかいな?」


「まぁまぁちょっとね…。」


 いつもならうるさいぐらいに人と絡む乱子が、運転手からの問いを避けるように受け流す。

 そんな乱子の態度を華は不思議に思っていたが、今は刻一刻と迫る希子との初対面(はつたいめん)に対する緊張でそれどころではなかった。


 そして、2人を乗せたタクシーは山道に入り、順調に狭い道を走り抜けていく。華が緊張を紛らわせるために窓を少し開けると、そこから心地良い山の風が吹き込んできた。

 すると、乱子が運転手に向けて『ここで止まって下さい』と言った。華が車内から見える範囲で見渡すが、民家どころか建物すら無い場所だった。

 運転手も『本当にここで良いのか?』と確認をするが、乱子は『はい。』とだけ答えてタクシーから降りる。続いて華も降りると、タクシーは少し先の広いスペースでUターンをして、乱子達の前を通り山を下っていった。


「この辺に希子さんが住んでんの?凄い所に住んではるんやな。」


「まぁそうやな。ほら、あそこに細い階段あるやろ。あれで少し登った所がゴールや。」


 乱子の指差す方を見ると、山の斜面に古びて苔の生えた細い階段があった。

 そこを、乱子を先頭に2人は登り始めた。昼間なのに薄暗い階段を、背の高い木々の間から差す木漏れ日が、点々と進む道を照らしてくれている。


 そして、階段を登り切った乱子が急に立ち止まると、下を向いてついて行っていた華はぶつかりそうになる。


「ビックリしたー!急に立ち止まらんといてよ!」


 華がそう言いながら乱子を避けて前を見ると、そこには華が全くもって想像していなかった景色が広がっていた。


 目の前に広がるのは、山の中にある住宅街でもなく、ましてやオシャレな別荘でもなく、ただただ整然と墓石の並ぶ墓地だったのだ。

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