第38話 突撃!乱子のバイト先!
ガーリー・ロックとしての初営業を終えて、乱子と華はアイアンオフィスの事務所へと帰ってきた。
そして、全ての機材を片付け終わった頃には15時になっており、乱子はゆっくりする事もなく事務所を後にしようとする。
「ほなうちは先に帰るで。」
「あ!乱子!何時にどこに行ったらええの?」
「なんやほんまに来るつもりかいな…。」
「当たり前やんか!今日の事は今日で終わらせんと!」
「はぁ…、ほな19時ぐらいにここにおいでや。」
諦めた様子の乱子が、華に住所が記載されたURLを送ってきた。
「よし!ありがとう!じゃあ19時に行くな!」
「はいはい…。ほなみゆ姉もたろ兄もお疲れさんでした。」
乱子は、漫才で疲れたというよりは、華の押しの強さに疲れた様子で事務所を出ていった。
その様子を、不思議に思った華は、帰り支度をしていた美幸達に質問をする。
「何で乱子はここまでネタ合わせを嫌がるんですかね?」
「まぁ乱子は、カンサイを辞めてからはずっとアドリブでやってきたからな…。」
「辞めてからというか、らんきりゅう以降はずっとあんな調子やで〜。」
「そうなんですね…。それでも…今日アドリブの漫才をして思ったんです…。このままじゃ絶対に限界がくるって…。」
漫才ではウケていたはずの華だったが、今思い返しても綱渡りのような漫才ではこの先通用しないのが分かっているのだ。それに、『O.A.B優勝』や『フラッシークラウン』などの目標を考えれば、余計に自分達の弱点を痛感したのだろう。
「まぁ華ちゃんは間違ってないよ。乱子ももう変わらなあかん時が来たんや。でも…」
「でも?何ですか?」
すると、華の相談に真剣に向き合っていた美幸だったが、段々と表情が崩れていき、笑いを我慢しているのか、小刻みに肩が震えだした。
「え!?え!?どうしたんですか!?あたし何か変な事言いました!?」
「ブハハハッ!ご…ごめん…!」
とうとう吹き出してしまった美幸を、太郎も同じ様にニヤニヤしながら見ている。
「ご…ごめんな華ちゃん!笑うつもりはなかったんやけど!この後乱子のバイト先に行くんやろ?あいつ何か言うてなかった?」
「どうなっても知らんぞって言うてましたけど…。何かあるんですか?」
「アハハ!いや…まぁ…華ちゃんがええんならええんやけど…。あそこに華ちゃんが行く事想像したらめちゃめちゃおもろくて…!」
「どういう事ですか!?普通のBARですよね!?」
「行ってからのお楽しみや!ほな私らも帰るわな!今日は楽しめたし、華ちゃんの事応援してるから、何かあったらいつでも相談しにおいでな!」
「え!あ…はい!お…お疲れ様でした!」
何とも歯切れの悪いまま、美幸と太郎は行ってしまった。たった一人残った華も、自分の荷物を持って事務所を出ようとする。
「あの美幸さんと太郎さんの反応は何やったんやろ…。乱子がネタ合わせせーへん理由も知ってそうやったのに教えてくれへんし…。まぁ良いや!今日はとことん乱子と話したろ!希子さんとの事も…聞けたらええな…。」
そして、全てが終わってみると、自分がとても疲れている事に気付いた華は、仮眠をとるために一旦家路につくのであった。
――約4時間後、華は乱子から送られてきていた住所近辺をうろついていた。そこは、ミナミの繁華街の中にある『宗右衛門町』付近であり、周りには煌びやかな看板や建物が所狭しと立ち並び、外国人観光客で溢れかえっている。
賑やかな場所が苦手な華は、一旦目についた裏路地の方に逃げ込む。
「はぁ…はぁ…。ほんまにこの辺にあるんかな…。地図によると、この裏路地からも行けそうやな…。表の通りは怖いしこっちから行くか!それにしてもこのBARの店名は何て読むんやろ…。」
そして、華はスマホに表示された地図を頼りに、裏路地をどんどん進むと、とても古びた雑居ビルが見えてきた。
「あ!あった!あの雑居ビルで間違いないはず!」
やっとこの苦手な街の空気から解放される嬉しさから、華がビルに駆け寄ると、ビルの1階の表にはたくさんの店の看板が並んでいた。
その中から目的の店の看板を探していると、すでに電球が切れ、プラスチックの部分も所々欠けたボロボロの看板が目に入る。
「あ!あった!『BAR Tin Tin』って書いてある!ってかどういう意味なんやろ…この店名…。まぁいっか!えっと…たしか…5階やな!よし!行くぞ!」
こうして華は、無事乱子のバイト先に突撃するのだが、店に入ってからやっと理解するのである。
何故美幸達があれだけ笑っていたのかを…。




