第37話 これからの課題と伝説の漫才師
漫才を終えた乱子と華は舞台袖へと戻る。汗だくになった乱子は満足そうに微笑んでいるが、鬼の形相の華が、乱子の背中に向かってヒップアタックをお見舞いした。
「ぐおっ!華!?急になんやねんな!」
「アホ乱子!死ぬかと思ったわ!あんなキッツイ掴みするんやったら言うてよ!」
「言えって言われましても…あの場で急に思い付いたやつやから…。」
「ぐぬぬぬ…!セイッ!!」
反省の色が見えない乱子に、華は怒りの正拳を彼女に打ち込んだ。
「ぐほっ!?華…いつの間にみゆ姉の技を…。あ…おじいちゃん…お久しぶりです…。」
狭い舞台袖でじゃれ合いだした二人を、美幸が呆れた様子で止めに入る。
「はいはいイチャつくのもそこまでや。続きは楽屋でしよか。」
「分かりました…。すいません。」
華が素直に謝ると、疲れた足取りでみんなは楽屋へと戻った。
そして、楽屋に戻るやいなや、華は椅子に座った乱子の前に、仁王立ちで立つと説教を始める。
「やっぱり!アドリブは危険や!今日の漫才で良く分かった!」
「そうか?なんとか上手くいったんやからええやないか。」
「『なんとか上手くいった』って漫才でO.A.B優勝できんの!?」
「む…。痛い所をついてくるやんか…。」
「もう全部が全部アドリブなんて漫才は禁止にしよ!ちゃんとネタ作って、ネタ合わせして、本番に挑む!じゃないとあたしは舞台立てへんからね!」
華の意見に、乱子は口を尖らせながら不服そうに答える。
「でも、うちは華の事信じてたんやで。必ず乗り越えてくれるって…。」
「あたしも信じたよ!乱子がこのまま終わるわけないって!漫才の途中に力尽きそうな時も、輝く乱子を見て勇気と元気を貰った!
でも!あたし達のやってる漫才には絶対に先は無い!素人のあたしが言っても説得力ないかもしれへんけど…。」
そこで、二人の会話を、荷物を片付けながら黙って聞いていた美幸が間に入る。
「まぁ、華ちゃんの言うてる事が正論やわな。いくらなんでもギャンブルが過ぎるわ。」
「そうですよね!?ほら!美幸さんも言うてるやんか!」
「でもな、華ちゃん。たぶん乱子にはネタを作ってこーへん理由があるんやと思うで。」
「ちょっと!みゆ姉!」
何かを話しそうになった美幸に対して、乱子は焦ったように止めに入る。
「アハハ!まぁその辺もちゃんとコンビで話し合いや!ほな荷物運ぶで!」
そう言うと、美幸は太郎と共に、持ってきた機材を持って車へと向かっていった。機材の搬出は、介護士の田中や下田も手伝ってくれるので早く終わりそうだ。
しかし華は、荷物を運ぶ前に、乱子との話を先に終わらせようとする。
「乱子!今日この後時間空いてる!?」
「いんや、今日はバイトがあんねん。」
「バイト!?どこで!?」
「知り合いのBARやで。」
「ほなあたしもお客さんとして行く!だからちゃんと話しよ!」
グイグイ話を進めてくる華に、乱子は面倒くさそうに答える。
「えー…。また今度でええやんかー。」
「あかん!乱子のまた今度はいつになるか分からんもん!絶対に今日の夜に話する!」
「はいはい。分かりましたよ!どうなってもしらんからな!」
「どうなってもってどういう事!?まぁ良いや!決定という事で!」
終始ダルそうに受け答えしていた乱子を、力任せにねじ伏せた華は、『今日こそは乱子を丸裸にしてやる』という気概であった。
そして、全ての搬出作業が終わり、美幸達はお世話になった田中と下田に挨拶を済ませて、乱子以外は車へと乗り込む。
「なんや、あのじいさん結局最後まで姿見せへんかったな。まぁええわ!次会う時は絶対笑かしたるからな!」
乱子は建物の方を睨みながらそう言うと、皆に続いて車に乗るのであった。
乱子が車に乗った事を確認すると、太郎は車を出発させる。すると、その車を建物の陰からジッと見つめる源の姿があった。
「あんの小娘め〜!とんだ恥をかかせおって!次会った時覚えとけよ!」
その時、怒りと恥ずかしさでプルプル震える源に声を掛ける人物が背後から現れる。
「師匠!お疲れ様です!」
「あん!?なんや、鉄平か。」
師匠と呼ばれて源が振り返ると、そこには現場に居ないはずの鉄平が居た。
「どうでしたか?うちの芸人は?」
「お前という奴は!なんであんな小娘を送ってきたんや!どうしても『ネタを評価してほしい』ってお前が言うから呼んだけど、わしはここで生きていけんぐらいの恥をかかされたわ!」
「いや〜…それはあいつらにバレんように裏から見てましたが…ほんますんません…。プププ…。」
「何を笑っとるんじゃお前は!」
あの場面を思い出した鉄平は、失礼と分かりつつも思わず吹き出してしまったのだ。
「す…!すんません!でも、あの伝説の漫才師『本庄 源太郎』があそこまでコケにされてる所を見た事が無かったもんで…。」
「チッ!クソボケ!お前!後でちゃんとみんなにフォローしとけよ!」
「分かりました!で、どうでした?乱子と華ちゃんは?」
終始和やかだった鉄平は、急に真面目な顔になって源に質問をする。
「あのアホの小娘…認めたくはないが、才能は抜群やろうな。横の可愛らしい子も、よくあんな空気でやり切りおったわ。というか、あの可愛らしい子がおったからこそ漫才が成立してたと言っても過言やないやろな。」
「ほー!師匠からそこまで言わすとは、華ちゃんも大したもんや!あいつら、伸びますかね?」
「アドリブであれやからな、しっかりネタを組んだらどこまで伸びるか想像できんわ。観てた人らに意見を聞いたが、まぁ上々やったな。みんなのわしを見る目を除けばな!」
「ガハハ!それはほんますいません!後でしっかりフォローしときますんで!しかし、良かったですわ!師匠の運営するこの『入居者全員が元芸人』って特殊な所で営業できて!またお願いします!」
「もうしばらくはええわ!ほな、中に入るぞ!」
「はい!」
こうして、ガーリー・ロックのとんでもな初営業は終了したのだが、これからの重要な課題も見つかり、満点とは言えない形で終わるのであった。




