第32話 信頼関係
乱子達は、娯楽室への荷物の搬入も終わり、音響関係も下田の手伝いのおかげで、早めに全てのセッティングが完了した。
その後は、施設で働くスタッフの休憩室を楽屋代わりに使わせてもらい、各々本番まで時間を潰しているところである。
「いやぁ、下田さんが元々イベント会社の音響スタッフさんで良かったわぁ!そのおかげでネタ合わせの時間もいっぱい取れるわ!な!?太郎!」
「そうやな〜。ほなあっちでネタ合わせでもしよか〜
。」
美幸と太郎がネタ合わせをするために、楽屋を出ようとした時だった。田中が1枚の紙を持って楽屋へと入ってくる。
「あ!みなさんお揃いで良かったです!今日のタイムテーブルの確認なんですが、漫才の時間は入居者によるのど自慢大会の後になります。そこで、二組の順番なんですがどうされますか?」
それを聞いた華は、気を遣って自分達の出番は、美幸達の前にする事を田中に伝える。
「当然新人のあたし達が先に漫才をします。乱子もそれでええやんね?」
「うちはどっちでも大丈夫や!」
「じゃあ、ガーリー・ロックが先でお願いします!」
「了解しました!それではよろしく…」
タイムテーブルの確認も終わり、田中が本番前の挨拶を済ませようとしたが、そこへ美幸が割って入る。
「あー!田中さん!順番は私達デコボコカップルが先にやります!」
「え!?美幸さん!?」
普通は後輩などが先に出ると思っていた華は、予想外な美幸の提案に驚く。
「どうしたんですか?美幸さん達がトリを務めた方が良いと思うんですけど…。」
「ええねんええねん。華ちゃん達が私らの後にやって!ちゃんと会場は温めといたるから安心しーや!」
「でも!あたしらなんかが美幸さん達の後やなんて!」
「ええやんか華!うちらの漫才で締めたったらええんや!みゆ姉、美味しい所は全部もらうで〜。」
慌てる華とは違い、トリを譲ってもらった乱子は自信満々のようだ。
「おうおう!美味しい所はやるわ!ただ、美味しくなるか不味くなるかはあんたら次第やけどな…。」
意味深な美幸の言葉で二組の話し合いは終わり、田中が最終確認をする。
「それでは、デコボコカップルさんが先で、ガーリー・ロックさんが後って事で伝えておきます!改めまして、よろしくお願いします!」
そう言うと、田中は楽屋を出ていき、それに続いて美幸と太郎がネタ合わせのために外へ行こうとする。
「あの!美幸さん!ほんまに良いんですか!?」
「ええって言うてるやんかー!気張って笑い取ってや!期待してんで!」
美幸はそう言い残し、太郎と楽屋を後にする。残された華は、不安気に乱子の方を見る。
「なぁ?あたしらはネタ合わせせんでええの?」
「大丈夫や。うちを信じてくれ。」
「乱子はあたしの事信じてくれてんの?」
「え…?」
返す刀でそう聞き返す華に、乱子はすぐに答える事が出来なかった。そんな乱子を見て、今する質問では無かったと思い、華は後悔したように俯きながら謝る。
「はぁ…。いや、ごめんな。今の質問はあたしが意地悪やったわ…。そらまだ全くと言っていいぐらい、あたしら漫才してないもんな。」
「いやいや、『え…?』って言うたんは、今更それ聞くかっておもって戸惑ってしもた『え…?』やで。うちは華の才能と、華自身を信じてるからコンビ組んだんやもん。」
「そ…そうなんや。何か照れくさいな…。最後の『もん』が、乱子の癖的にちょっと気になるけど…。
うん…あかんな!本番前にナイーブになり過ぎてたみたいやわ!スベったらスベったで良い経験やもんな!当たって砕けろや!」
「まずスベらんし、スベるに良い経験なんて絶対無いし、当たって砕けたらそこで終了やで。」
「もう!人が緊張とか沈んだ気持ちを紛らわせてんのに全部正論で言い返さんといてよ!」
「ガハハ!ごめんごめん!それにな、今日は絶対に爆笑取らなあかんねや!」
気合いの入っている乱子は、持っていたアルミ缶のコーヒーを握り潰すと、やる気満々の笑みを浮かべる。
「おぉ!乱子から凄い覇気を感じるわ!そこまで思うって何かあったん!?」
「そうや!クソじじいを全裸にさせなあかんからな!燃えるで!」
「え…何それ…。乱子ってそんな性癖あったん…?さすがに引くわ…。」
何の情報も無く、乱子の『じじい全裸願望』のようなものを聞かされた華は、ちょっとした吐き気を催すぐらいドン引きしている。
すると、丁度そこで施設のスタッフが乱子達の所へやって来る。
「失礼します。のど自慢大会が終わりましたので、そろそろ準備の方をお願いします!」
呼び出された乱子は、パンッ!と強く太ももを叩いて椅子から立ち上がった。
「よっしゃ!ほんならみゆ姉達の漫才でも観に行こか!どんな空気か参考になるやろ!」
「ふーー!!緊張してきたーー!!」
そして、二人は先輩であるデコボコカップルの漫才を観るために、娯楽室に用意された舞台袖へと向かうのであった。




