第29話 死語祭りとエアフレアばばあ
少しの間、美幸達と雑談していた華であったが、約束の時間になっても姿を現さない乱子が心配になってきた。
ほんの少し前にメールを送ったのだが、それに返信さえ無かった。
「よっしゃ!そろそろ出よか!」
「じゃあ僕は下に車持ってくるわ〜。」
美幸と太郎は立ち上がりながらそう言うと、早々と楽屋を出ていった。
「もう!乱子は何してんのよ!電話も出ーへんし!」
全く連絡が取れない乱子に苛立ちながらも、華は美幸達をすぐに追いかけた。
そして、下に降りるとすぐに乱子と連絡が取れない旨を美幸に伝える。
「美幸さん!すいません!乱子と連絡がつかなくて!どうしたら良いですか!?」
「うーん。それはもう華ちゃんが一人で舞台上がらなしゃーないな!頑張ろうぜ!」
「頑張ろうぜ!?爽やかな所申し訳ないんですけど!あ…あたし一人で一体何をしろと!?」
「大丈夫大丈夫!人間ってそんな簡単に死なへんから!ガンバルンバ!」
「ガンバルンバ!?何なんですかそれ!そしてあたしはこのままじゃ死にますって!」
「アハハ!死語やったか!あ、太郎の車が来たで。」
美幸が指差す方向を見ると、水色のボロめの軽自動車がこちらに向かってきている。
そんな中、華が焦りながらスマホをいじり、乱子に連絡を取ろうとするが全く繋がらない。
しかし、太郎の車が目の前に止まった時だった。
「おーーーい!遅くなってもたな!ごめりんこ!」
悪びれた様子もない声が聞こえてきた方向を見ると、遠くから手を振りながら乱子が走りもせずに歩いてきている。その姿を見て、華は嬉しさよりも怒りの感情が勝ってしまった。
「遅過ぎやんか!何してんの!?連絡も取られへんし!あたしが一人で仕事行く羽目になるところやったやんか!あと!ごめりんこってのも死語やし!おもんない!」
「おぉ〜…華ちゃん、最後の方のやつは私にも言ってる?死語ばっか使って…ごめりんこ!」
「ちょ…ちょっと美幸さんうるさいです!」
「アハハハハ!初対面で気を遣ってツッコんでんの丸分かりなん可愛い!」
「お!何か朝からみゆ姉ご機嫌さんやん!」
そこで、真面目に謝りもせずに車に荷物を乗せようとした乱子に対して、美幸がそれを制止するように強めに乱子の肩を掴んだ。
「おいコラ!乱子!先輩を待たせとんねんからしっかり謝らんかい!」
「だ…だって!道端でおばあちゃんが…!」
「おばあちゃんがなんやねん!」
「ブ…ブレイクダンスを踊ってたから夢中で見てしまってたんやもん!仕方ないもん!バッチバチにエアフレアを決めてたんやもん!そのままヘリコプターみたいに空を飛んでいってしまうんちゃうかって心配やったんやもん!」
エアフレアという技は、逆立ちの状態で両足を180°広げて、全身の力を利用し、そのままの状態でブンブン飛び跳ねながら回る大技である。気になる方は調べてほしい。そして、おばあちゃんがエアフレアをする姿を想像してほしい。
「もんもんもんもんうっさいわ!難易度激高のエアフレアするババアがどこにおんねん!」
そのまま『ズドン!!』と、美幸のノーモーションの正拳を胸に打ち込まれた乱子はその場で悶絶する。
「ぐほぉ〜〜…。みゆ姉は…毎回…ツッコミきついんやって…。」
「ほれ!華ちゃんにも謝りや!」
「ご…ごめんなさ…い…。以後…気を付けますので…。」
「え…ええよ…。今は心配が勝ってるから…。」
ゾンビのように這いずる乱子を見て、華はドン引きしている。
「じゃあ行こっか!レッツラゴー!」
また死語を言う美幸に、華は自分も殺されるのではないかという恐怖でツッコめなかった。
「もー!華ちゃんさっきみたいにツッコんでよ!」
「ひゃ!ぴゃい!」
人類が未だにした事が無いであろう噛み方で返事をした華は、急いで乱子を後部座席に引きずり込む。美幸は助手席へと座り、やっと車は目的地へと走り出す事が出来た。
こんな中、一切車から出てこずにタバコを吸っていた太郎が、一番頭がおかしいのではと華は静かに思うのであった。




