第28話 スタートを切る!
ガーリー・ロックが鉄平の運営する事務所『アイアンオフィス』に在籍するための条件が鉄平から語られる。
「俺が持ってきた仕事は必ず受ける。これだけや。」
「任せろや!何でもするで!」
乱子が、そんな条件は楽勝と言わんばかりに、意気揚々と返事をする。
「ほんまやな?言っとくけど、カンサイの仕事とは比べものにならんぐらい小さい仕事ばっかやぞ。プライドの高い乱子にできるか?」
「もううちにそんなん言ってられる余裕が無いんは自分が一番分かってるわ!」
「よっしゃ。ほんならええやろ。華ちゃんもええか?」
「は…はい!なんでもやります!」
華も、この条件に関しては何も問題は無かった。地下アイドルの駆け出し時代に、とんでもなく酷い現場を経験してきたからだ。
しかし、鉄平が思い出したようにもう一つだけ条件を付け加えてきた。
「あ、そうや!もう一個だけええか?」
「なんや!?何でもこんかい!」
「ガーリー・ロックだけは、自分達の仕事をSNSで告知したりすんのは禁止な。」
「は!?うちらだけ!?何でや!?」
「え…鉄平さん…それやったらあたし達はどうしたらええんですか?」
すると、理由の分からない条件に少し不満気な二人に対して、鉄平はライブハウスのオープン準備に戻りながら、素っ気なく返答した。
「なんでもや。分かったな?裏アカとか作ってもあかんぞ。」
「いやいや!理由は説明してや!」
「やってたら分かるわ。ほなまた書類とかは作っとくし、仕事が入ったら連絡するから今日は帰っとき。」
「今日ってここでお笑いライブあるんちゃうん?うちらも出させてーや!」
「あかん。ちゃんとネタ作ってからや。」
「うちらやったらアドリブで余裕やって!鉄平も知ってるやろ!」
「あかんって言うたらあかんのじゃ!お笑いナメんな!ほれ!こんな所で油売ってる暇あるんやったらネタ合わせでもしてこい!」
「ぐぬぬぬぬ…!」
乱子は、何か言い返したいのは山々なのだが、鉄平の正論にこれ以上何を言っても無駄なのが分かっており、釈然としないながらもライブハウスを後にした。
そして、不満が溜まっていたのか、外に出るとすぐに『ぐおぉぉぉ!!』と乱子が叫ぶ。それを華が宥めるように後ろから話し掛けた。
「なんか、鉄平さんちょっと怖かったな。」
「ほんまに!急にキャラ変しやがって!うちらみたいなルックス良し、実力良しのコンビが来たんやからもっと喜べよな!」
「でも!鉄平さんの事やしなんか理由あるはずやって!頑張ろうや!」
「チッ!絶対見返したるからな!」
「ほんで、いつネタ合わせっていうのやるん?」
「う〜ん。ちゃんとしたネタはまだ作ってないから、できたら連絡するわ!ほなうちは時間空いたしバイト行くわ!」
「そうなんや…。分かった!じゃあ待ってるな!」
今回の事を、あっさりと軽んじた態度で終わらせて去っていく乱子に、少し不安を抱えつつも、華も続いてこの場を去るのであった。
そして3日後、乱子からメールで連絡が入る。
『明日の朝7時にアイアンオフィスの楽屋に集合なー!!鉄平から連絡あったわー!』
「は!?急過ぎるやんか!もう今すぐ寝ないとあかんし!ってかネタ合わせは!?ほんま乱子って雑やわ!」
華は悪態をつきつつも、メールで『了解』の旨を伝えて眠りに入る。だが、緊張も相まってすぐに寝付けるわけでもなく、寝不足のまま朝を迎えるのであった。
そして、約束の時間の15分前に華は到着すると、楽屋の扉をゆっくりと開ける。
「失礼しま〜す…。」
華が恐る恐る中を覗くと、30代ぐらいに見える女性と男性が、中央のソファに座っていた。
「あ!この前乱子に拉致されてた子や!」
様々な色のメッシュが入った派手なツインテールの女性がそう言うと、正面に座っている黒縁眼鏡をした痩せ型の大人しそうな男性が華の方を見る。
「お、ほんまや。」
「乱子とコンビを組んでいる華と言います!これからよろしくお願いします!」
先日、乱子に拉致された日の楽屋に居た人達だと思い、華は礼儀正しく挨拶をする。
すると、派手髪の女性は立ち上がって華に近付いてくる。その女性の服装は、赤色や黄色や青色といった派手な模様の入ったワンピースであり、髪型にも負けていない色鮮やかさであった。
「私はアイアンオフィス所属の『デコボコカップル』の美幸って言うねん!あいつは相方の太郎!今日はよろしくね!」
「太郎です〜。よろしくな〜。」
元気いっぱいの美幸に対して、太郎は寝起きのような気怠そうな挨拶だ。
「はい!よろしくお願いします!」
「そんな緊張せんでもええから!ほら!こっち来て座ろ!」
美幸は、華の手を引っ張ってソファに座らせる。そこで華は楽屋の中を見渡すと、所々古くなってボロボロだが、ちゃんと整理整頓されていて綺麗な印象を受ける。芸人の楽屋といえば、もっと散らかっているイメージだったが、鉄平がその辺はしっかり管理しているのだろうと華は思った。
「あの…乱子はまだ来てないんですかね?」
「まだやなー。あの子はほんまにこういうとこルーズやからさー。まぁもうちょい待ってこーへんかったら先出るけどな!」
「そ…そうなんですね…。今日ってどこでのお仕事なんですかね?」
「老人ホームの懇親会での仕事やな!」
「ろ…老人ホームですか!?」
初めての芸人の仕事が、ネタ合わせも全くできていない状態での老人相手と分かり、想像しただけで華は気が遠くなっていくのであった。




