第25話 乱子の過去②
鉄平の様子を見ていると、華にも緊張が伝わってきて喉が渇く。しかし、目の前の自分のコークハイが空になっている事に今更気付いた。
すると、そのタイミングでボブがおかわりのビールとコークハイを持ってくる。
「これは俺の奢りやから。」
「あ…ありがとうございます!」
それだけ言い残してボブはまたバーカウンターへと戻っていく。
「さて、ここからはあんまり俺も話せる事はないんや。詳しい事は乱子から聞いた方がええ。」
「え!?そうなんですか!?今から大事な所っぽく聞こえたんですけど!」
「う〜ん…。簡単な話、フラッシークラウンとらんきりゅうは良きライバル関係やったんや。まさに切磋琢磨してお互いが成長するような感じやな。」
「あのフラッシークラウンとですか…。」
「ってなれば良かったんやがな。」
「え?」
「ほんまは二組ともバチバチに睨み合っとった。タイプが全く違ったからな。分かりやすいネタで確実に笑いを取っていく計算型のフラッシークラウンと、乱子のアドリブ織り交ぜた天才型のしゃべくり漫才のらんきりゅう。水と油みたいなもんや。仲悪いを通り越して、よく乱子が暴れまくっとったわ。」
それを聞いた華は、テレビでやっていたフラッシークラウンのネタを思い出す。
「確かに…フラッシークラウンって、素人目から見てもありきたりというか…コントみたいなイメージがありますね。『〇〇やりたいからお前は〇〇やってや。』みたいな…。」
「それは漫才コント、所謂漫コンって言われる形や。もう今の漫才はほとんどがこの形になってきてるわ。」
「なんでなんですか?やっぱり乱子のしゃべくり漫才の方が凄いなーって思うんですけど…。」
「漫コンはな、楽なんや。ネタ作りも笑い取るのも。分かりやすいし、一つ一つのコントで区切ってくれるから観客もボケとツッコミのスピード感についていきやすいしな。
反対に、乱子のやるスピード感のあるしゃべくり漫才はギャンブルみたいなもんでな、一回スベってもうたら中々その漫才中に笑いを取り戻すんは難しいねん。特に、あのアホは気持ち良くなったらすぐにアドリブ入れよるからな。」
「そんな理由があったんですね…。漫才も奥が深い…。」
そこで、鉄平は話を戻すために、少し間を置いてから話を続ける。
「ちょっと脱線し過ぎたな。まぁ、その年の秋頃やったかな、犬猿の仲やった らんきりゅうとフラッシークラウンにある変化が起きるんや。」
「変化?」
「希子とな、フラッシークラウンのボケ担当の荒木が付き合い始めたんや。」
「え!?付き合い始めた!?」
「それが大きな原因になって…在学中にらんきりゅうは解散。その年のKCS35期の首席はぶっちぎってフラッシークラウンになったってわけや。」
全てを話し終えた空気で鉄平はビールを飲むが、一番大事な所が端折られており、その部分が気になる華は鉄平に食い付いた。
「ちょっ…!ちょっと待って下さい!クライマックスを語って下さいよ!何がどうなって解散したんですか!?」
「まぁまぁ、最初に言うたやろ?俺は全てを話されへんって。そこの所は乱子に直接聞きなさい。」
「で…!でも!とんでもない事が起きたんじゃないんですか!?」
「そうやな…一応その事件があった後も、乱子はしばらくはカンサイで芸人を続けてたんや。カンサイからしても、金の卵やったから手放したくなかったやろうしな。
でもな、輝きは完全に失われてもうててな…。相方を取っ替え引っ替え頑張ってたけど、全部上手い事いかんと、とうとう2年程前にカンサイを辞めて俺の所に来よったんや。そこからはピンで細々と芸人紛いの事を続けて今に至るっちゅーわけやな。」
「そうやったんですか…。その事件っていうのは乱子に直接聞きます。でも!そんな乱子が何で私なんかを選んだんですか?そこだけが…話を聞けば聞く程分からなくなってきて…。」
乱子の過去を聞いた華は、才能に溢れる彼女が何故自分を選んだのかが益々分からなくなっていたのだ。
「それはなー…俺にもよく分からんわな。それこそあいつに聞かんと…。でもな、普段から明るく振る舞うあいつやけど、俺は久々に見たんや。」
「何を…ですか?」
「心底楽しそうに漫才やってる姿を。傷だらけやったあいつを、華ちゃんが癒してくれたんやろなって思ったよ。ありがとうな、乱子をまた芸人の道に戻してくれて…。」
「あ…あたしは何もしてないですよ!出会ったばっかですし!逆に乱子と鉄平さんが、あたしにアイドル以外の居場所をくれたんです!それについては…感謝してもしきれないです!」
「ガハハッ!そうかそうか!でもな、これからやで!死ぬ程しんどい道が始まるのは!まぁこれから乱子の事…よろしく頼むわな。」
「こ…!こちらこそです!」
そう言い合うと、二人はお互い頭を下げた。乱子についてはまだまだ分からない事だらけだが、華は一つだけ心に誓う。自分をドン底から引っ張り上げてくれた乱子を、相方として全力で支えていこうと…。




