第22話 O.A.B
『O.A.B』とは、『お笑いアルティメットバトル』の頭文字を取ったものである。
『お笑いアルティメットバトル』とは、数々の賞レースがある中、その年で誰が一番面白いかを決める究極のお笑い賞レースである。
2011年から開催されたO.A.Bは、漫才、コント、ピン芸、モノマネ、コメディなど、お笑いであれば全てのジャンルで参加でき、毎年1万組に近いエントリーがある。必要な参加条件は無く、プロ、アマチュア、誰でも参加できるのがこの膨大なエントリー数に関係している。
優勝者には、優勝賞金3000万円と名誉が与えられるだけでなく、様々なテレビ番組への出演権も貰える。よって、O.A.Bで優勝する事ができれば、その先の芸人人生まで約束される最高峰の賞レースなのだ。
『面白ければ何でも良い』という、芸人の思考が具現化した究極のお笑いバトルである。
O.A.Bという頂点の賞レースで優勝となると、華と鉄平のリアクションも納得できる。
「お…O.A.Bって…あのO.A.Bなん!?」
ドヤ顔を続ける乱子に対して、半ば呆れた顔で華が質問を返した。
「ん?当たり前やん。何か他にO.A.Bってあんの?あ、分かった!『おっさんの 愛くるしい ビーチク』と勘違いしたんやろ!」
「するか!そしておっさんのビーチクは愛くるしくない!」
「え…華ちゃん…今ちょっとチラッとこっち見たよね?おじさん傷付くねんけど。」
鉄平に流れ弾が当たった所で、華は慌てた様子で乱子にもう一度質問をする。
「O.A.Bってお笑いアルティメットバトルの事やろ!?そんなん素人のあたしが優勝なんかできるわけないやん!ってか絶対無理無理!優勝してるのも名だたる芸人さんばっかりやんか!」
「華、しかも今年のO.A.B優勝を狙うで。」
「はぁ〜…。あたし…やっぱり道を間違えたかもしれん…。どうしてもって言うなら、7つ集めたら願いの叶う玉を見つけてきて…。」
「よっしゃ!それならまずレーダーやな!鉄平!体操着の名前っぽい女のおるCCに行ってきて!」
「カプセルコーポレーションの事をCCとか言うな!」
そこで、華は疲れ切った表情で席を立つ。
「ん?華どこ行くん?」
「ちょっとトイレ。」
「道分かるか?そこ真っすぐ行ったら黒人がおるから…。」
「またそのネタ!?いい加減に…って…ほんまにおるし。そっか…ここアメ村なん忘れてたわ…。」
意気消沈したツッコミをし、乱子の無理難題に疲れたのか、トボトボと華はトイレへと向かった。
そこで、さっきまでヘラヘラしていた鉄平が、乱子に向けて真剣な顔つきで話し出す。
「おい乱子。今年中って縛りは〝あの事〟が関係してるんか?」
「ん?まぁ…そやな。」
「その辺は華ちゃんに早く説明したれよ。じゃないとお前また…」
「分かってるって!全部…話すよ…いつか…。」
「いつかって…お前な、これから真剣に華ちゃんとコンビ組むんやったらすぐにでも話したれ。『希子』の事も含めて。」
「だから!言われんでも分かってるって!テラハゲ鉄平!」
「テラって!メガより上のやつやんけ!どつくぞ!」
乱子と鉄平が大事な話をしている所で、華が半泣きの状態で、何故か黒人の男性と帰ってきた。
「何をワーワー叫んでるんですか?っていうか、この人ずっとついてきて怖いんですけど…どうにかしてくれません…?」
「あ、ボブやん。おひさ。」
「久々やな。鉄平も乱子も相変わらず元気みたいやし安心やわ。」
「えー!!日本語ペラペラなん!?」
スキンヘッドに筋骨隆々の姿から発せられる流暢な日本語に、華は思わずツッコんでしまう。
すると、鉄平が立ち上がってボブの事を紹介し始めた。
「華ちゃん。こいつはボブで、このBARのオーナーなんや。この見た目やけど、音楽と笑いを愛するええ奴やから、これからよろしく頼むで。」
「ボブや。よろしくな、華ちゃん。」
「よ…よよよよろしくお願いします…!」
「ボブ!華は今日からうちとコンビを組む事になったんや!凄いやろ!」
「へー!乱子の相方するとか、見た目によらず根性あるなー!」
「あ…あははは…。やっぱりコンビ組むのやめようかなーなんて考えてます…。」
「なんでやねん!」
王道のツッコミをする乱子の横で、ボブはテーブルの上の食器を片付けながら、ある質問をする。
「で、コンビ名は何なん?」
「「あ…。」」
その質問に、全く何も考えていなかった乱子と華は目を合わせる。O.A.B以前の大事な事を忘れていたのだ。




