第20話 重なった手と夢
乱子と華が、やりきった顔で見つめ合い、心地よい沈黙が流れる。その沈黙を先に破ったのは華だった。
「ありがとう。乱子。助けに来てくれて…。」
「そんなん朝飯前や。」
「でも、大丈夫やったん?鉄平さんの所でお笑いライブあったんやろ?」
「あー。大丈夫っちゃ大丈夫かな。どうせうちの代わりは務まらんでスベリ散らかしてると思うけどな!ほんで…」
乱子は、言葉の途中で華へと手を差し出す。
「うちとコンビ組むの、ほんまにええんか?」
「うん。どうせもうアイドルを1からやるには、乱子の言う通り年齢的に厳しいし、桐原さんのせいで…やりづらくなったしな…。それに、ウケた時のあの熱くなる感覚を味わったら癖になるし!だから、これからよろしくお願いします!」
そして、華は差し出された手を取り、強く握りしめた。その握る強さから覚悟を受け取った乱子は、格好良く笑いながら握り返す。
「よっしゃ!任せなさい!」
こうして、乱子と華は正式にコンビを組む事になり、これから訪れる数々の困難を、二人で力を合わせて乗り越えていく事となる。
――そして、それから1時間後、物販の対応や、片付けを終えた華が劇場を出ると、そこには車に乗った乱子と鉄平が待っていた。
「あれ?二人共まだおったん?」
「鉄平がな!今日のお祝いに美味いもん奢ってくれるんやって!」
「お前が奢れ奢れうるさいからやろ!それにな、華ちゃんも今日はライブの打ち上げとかあるんちゃうんか?」
「それが…今回のライブの収益はピンキースカイにいくらしくて…。簡単に言えば、桐原さんが…ね…。だから打ち上げは無しなんです…。」
「ほんまにそいつクズやな!会ったらうちがしばいたるわ!」
「いやいや!もうええねん!あたしはあたしで頑張るって決めたから!悪い事は忘れて、鉄平さんの奢りで打ち上げや!」
そう言って、華が車に乗り込もうとした時、後ろから運営の三田が駆け寄って来た。
「華奈!」
「あ、三田さん。」
「お疲れ様やったな。」
「いえ、何とか無事終わりましたから。今までお世話になりました。」
華は、ありきたりな言葉を並べると、形式的なお辞儀をする。
「すまん…かったな…。俺が来た時にはもうライブ終わってて…。でもな!聞いたで!芸人になるって!いらんお世話かもしれんけど、応援してるわ。」
「ありがとうございます。あたしも、ピンキースカイを応援してますね。」
そこで三田が、後部座席の窓から顔を出す乱子に目がいく。
「あ、この子が相方?華奈をよろしく頼むな。」
「うっさい。どつくぞ。」
「え…。」
三田をガン睨みする乱子の前に、慌てて華が割り込んでこの場を早く終わらせようとする。
「あ…あははは〜。ノリですよノリ!乱子はこんな感じなんですー。そ…それじゃああたし達はもう行きますんで!またどこかで〜。」
気まずい空気を無理矢理終わらせて、華は車に飛び乗る。
「もう!乱子!すぐ揉めようとするのやめてや!ザコ運営は放っといたらええんやから!」
「窓、まだ開いてんで。」
「へっ!?」
華のザコ発言をバッチリ耳にした三田は半泣きになっている。
「あ…あははは〜。ノリですから〜。」
「ブハハ!華!それは無理あるやろ!」
「鉄平さん!早く出して下さい!」
「さすが乱子の相方やな。よう似てるわ。」
そして、そのまま走り去っていく車を遠くから見ている人影があった。
それは、最後まで華の前に姿を見せる事が出来なかった里菜であった。
(私は華奈に話し掛ける資格なんて無い…。あの時、私は自分の事だけ考えて…華奈を見捨ててしまった。もう友達なんて言うのもおこがましい…。私は…最低や…。私にあの人みたいな力があれば…。)
里菜が、苦痛に歪んだ顔で、もう見えなくなってしまった車の方をジッと見つめていると、隣に紫音がやって来た。
「里菜さん…来てたんですか?」
「紫音ちゃん…。何で華奈にあんな事したん?」
里菜は、紫音の方を見向きもせずに質問をする。
「それは…だって…。」
「ううん…。どうせ…桐原さんやんね。紫音ちゃん責めても仕方ないよね。」
「わ…私は里菜さんのために…!」
「紫音ちゃん。華奈はこれから芸人として必ず上がってくる。さっきのライブを観てて思った…。あんなに輝いてる華奈を見たのは初めてやった。」
「そんなん!私と里菜さんは負けてません!」
「負けてたよ。それは認めよ。私なんかあの輝きの10分の1も光ってない。」
「そんな事ないです!里菜さんはもっと!」
そこで、里菜の表情は、先程までの歪んだ表情ではなく、覚悟を決めた凛々しい顔に変わる。
「この先、私達も上に行けば、華奈と道が交わる時が来ると思う。その時、私は負けたくないって気持ちが強くなってきた。ピンキースカイが成長した姿を見せつけたいって思ってる。あの子はそんな事望んでないかも知れへんけど、それが、私から華奈への罪滅ぼしになれば…。だから、紫音ちゃんも才能あるんやから、私と一緒に正攻法で戦っていこ!」
「里菜さんが言うなら…やります!あの女にはもう負けたくないんで!」
後に、里菜が言うように、二人の道が交わる時が来るのだが、その結果が吉と出るか、凶と出るか、この時点では何も分からないのであった。




