第19話 驚愕の発表
悔し涙を流す紫音を見ても、乱子は一欠片の同情の気持ちも湧いてこなかった。
「何を泣いてんねん。ほんまに泣きまくりたいんは華や。女子供の感情出すんやったら舞台に上がんな。うちは芸に関係する事で、今まで涙なんか流した事ないぞ。」
紫音は、自分の芯を突き刺すような乱子の正論に何の反論も出来ない。だが、乱子に対する恨み以外の感情が何なのか、それが理解出来無いまま引き下がれなかった。
「うるさいっ!泣いてないわ!」
「泣いてるやんか。ほんまダッサいな、お前。ほなあたしは用が済んだし行くわ。」
乱子は踵を返し、紫音に背を向ける。
「待ってや!何者なんかぐらい答えてよ!」
「はぁ…。しつこいのー。」
劇場を後にしようとしていた乱子は、足を止めて振り返ると、紫音を見下ろすように答えた。
「うちはな、芸人や。」
「芸…人…。そんな人が何で華奈さんを助けたん!?関係無いやん!」
「うちが華に惚れたからな。恋愛とかやないで、芸人としてや。さっきボコボコにされたんやから、理由は言わんでも分かるやろ。ほなな!」
乱子はそれだけ言い残して去っていった。残された紫音は、悔しさでミシミシと音を立てるほど拳を握りしめている。
「いつか…いつか絶対に復讐するから…。私は芸人なんかが足元にも及ばんアイドルになるんや!華奈…いや、華も覚えとけよ…。里菜さんは私のもんやから!絶対に渡さへんから!」
唇を噛み締め、憎悪にまみれる紫音に、周りのスタッフは声すら掛けられなかった。
そして、卒業ライブもフィナーレを迎える。すると、未だにフロアでライブを見ていた鉄平の所に乱子がやって来た。
「鉄平!なんやねん!まだここにおったんか!」
「ん?いやぁ、なかなか良かったで。」
「せやろ!?うちも頑張ったからなー。」
「パイン&アップル。」
「そっちかいっ!」
その時、舞台の上では、全てをやりきり、美しい汗を纏った華が最後のスピーチを始める。その顔には後悔の色は全く見えなかった。
「みんな!最後までありがとう!色々起こったけど、それも含めて最高のライブでした!」
華がそう言うと、華のファンも紫音のファンも関係なく、『ワーーーーーーーッ!!』という歓声を上げる。
「ほんまは…ピンキースカイを卒業するのは嫌です。ピンキースカイとして、みんなとずっと上まで登りたかったです。でも、それは叶いませんでした。どん底に落ちるような出来事が立て続けに起きるし、人生がもう終わったなって気分になるし…。
でも!そんなどん底に手を差し伸べてくれて!引っ張り上げてくれる人と出会ったんです!だから…あたし…。」
一度、そこで言葉は途切れるが、全てが吹っ切れた笑顔で顔を上げると、全員が驚愕する事を華は発表する。
「あたし!!その人と芸人になります!!華奈ではなく!華として!」
それを聞いていた全員が、すぐに事態を飲み込めず沈黙してしまう。たった一人を除いて…。
「アッハッハッハ!さっすが華や!よー分かってんな!」
静寂の中、乱子の笑い声が響くと、劇場中が彼女に注目する。
「あ…あの人があたしの相方?になる人です!紹介せんでも、さっきのゴチャゴチャでみんな知ってるよね…。」
そこで、華が呼んでもいないのに、乱子は舞台へと駆け上がった。そして、そのままマイクも使わず大声で自己紹介を始める。その声は、劇場の最後方までハッキリと聞こえるとても通った声だった。
「うちは乱子や!これから華とコンビ組むからよろしくやで!」
ガッハッハッ!と笑う乱子に続いて、華が最後にみんなへ気持ちを伝える。
「私の夢は、周りの人達を笑顔にするのが夢でした!アイドルとして、みんなを笑顔にする事はもうできませんけど!芸人として!みんなを笑顔にしていきます!
……たぶん……。」
華のスピーチが終わると、やっと事態を飲み込めたフロアからは応援する声がどんどん上がる。
『これからも応援するからー!』
『頑張れー!』
『相方の子もまぁまぁ可愛いやん!』
『絶対上手いこといくから諦めんなー!』
「ちょっと待て!誰や!まぁまぁとか言うた奴!さっきの天パか!?すこぶる可愛いやろがい!」
乱子がファンの声を拾うと、また笑いが起きた。まぁ、彼女が軽く怒っている事に誰も気づいていないからなのだが。
「じゃあみんな!今日はありがとう!また詳しい事はSNSでチェックしてな!バイバーーイ!!」
華の締めの言葉が終わると、照明が消え、卒業ライブの終了を知らせるBGMが流れ出す。
そして舞台袖では、全てを乗り越え、無言で見つめ合う乱子と華の姿があった。




