第14話 すれ違う二人
リリリリリリリリーン…♪
リリリリリリリリーン…♪
鉄平が運営するライブハウスの楽屋にあるテーブルの上で、誰かのスマホが鳴っている。
「おい!乱子!お前のスマホ鳴ってるぞ!」
楽屋のトイレのドアに向かって、鉄平が乱子に向けて叫んでいる。
「ちょっと待ってーや!もうすぐ出るから!」
ドアの中から乱子がそう返事をし、5分程経ってからスッキリとした顔の乱子がトイレから出てきた。
そんな乱子に向かってお尻を押さえながら鉄平がキレる。
「お前毎回毎回トイレ長いねん!どんだけ溜め込んで来とんねん!俺が漏れてまうわ!」
「は?何の話?うちは大なんかせーへんし。した事もない。妖精さんに呼ばれたからトイレで話してただけやし。」
「どの口が言うとんねん!毎回トイレに呼び出す妖精さんは妖精さんやない!何かしらの妖怪じゃ!」
「はぁ!?うちの妖精さんを妖怪呼ばわりすんなや!コーンの絵が書かれた茶色の服着て、茶色のソフトクリームみたいなニット帽被った可愛い妖精さんやぞ!」
「ほれみろ!そんなもん見た目からしてウンコの妖怪やんけ!ほんでどうやら直近でコーン食うとるみたいやの!ってか早うどけや!漏れんねん!」
鉄平は、律儀に乱子のボケに付き合った後、急いでトイレへと駆け込んでいった。
そして、トイレの中から聞こえる『くっさーー!!』という鉄平の叫びを背に、乱子はスマホを手に取る。
「ん…華からの着信やん。どうしたんやろ。あれ?ちゃうやん。華は今卒業ライブの真っ最中ちゃうんか。なんか…あったんか…。」
不在着信の欄を見ながら、乱子は悪い予感に襲われる。すぐに電話をかけ直したが華は出ない。
そして、そこで楽屋の扉が開き、ライブハウスのスタッフが乱子を呼びに来た。
「乱子!もうすぐ出番やぞ!用意して下に降りてこいよ!」
「あ…うん…。分かった!すぐ行く!」
乱子は、スタッフの後を追うように楽屋の外に出ようとする。しかし、扉のノブに手をかけた所で動きは止まり、振り返ってテーブルの上のスマホを見つめる。
どうしても、華からの着信が何の用事だったのか気になるのだ。
「なぁ!?鉄平!今日のライブって絶対出なあかんか!?」
乱子がトイレの中の鉄平に向けて質問する。
「当たり前やろが!悔しいけど、ほとんどがお前目当てのお客さんやぞ!」
「そうか…そうやんな…。分かった!」
そこで、乱子が勢い良く楽屋の扉を開けると、『ガンッ!!』と何かにぶつかる。
「あん?何や?何か置いてあったんか?って…太田かいな。」
乱子が外を確認すると、そこには顔を押さえながらうずくまる青スーツの小太りの男がいた。彼は、『豚平ズ』というコンビのツッコミ担当である太田と言い、乱子とは犬猿の仲である。
「乱子!ドアはゆっくり開けろって言われたやろ!思いっきり顔面にぶつかったやんけ!」
「うっさ。〝ちょっとポッチャリ〟のくせにイキんな。どうせやったらガッツリ太らんかい。ってかあんたら今日は出番無いやろ。」
「誰が〝ちょっとポッチャリ〟じゃ!変なあだ名つけんな!」
そこで、太田の後ろから、青スーツを着た背の高い細身の男性が現れる。彼は、豚平ズのボケ担当をしている相原で、太田とは違い、大人しい口調で乱子に話し掛けてきた。
「乱子ちゃん、ごめんやで。今日は太田がどうしても乱子ちゃんの舞台を観たいって言うから来たんよ。」
「へー、そうなんっすね。あざっす!」
「何で相原には敬語なんじゃ!俺にも敬語使わんかい!呼び捨てもやめろや!」
「あの、太田さん。豚語が出てますよ。ブヒブヒ言うても何言うてるか分かりませんて。人間の言葉でお願いしますね。」
「おい!優しく諭すような感じでくんな!俺は豚語を喋ってまう病気にかかった患者か!」
「うーん。イマイチやな。もうちょいツッコミ頑張れよ。太田。」
「しばくぞ!ほんでお前も何か言えや!相原!」
二人のやり取りを見て、相原は太田をフォローもせずに笑っている。
その時、乱子は急にある事を思い付いた。
「ということは…。相原さん達は今日暇なんっすか?」
「せやな。今日はどこも出番無いし、乱子ちゃんを観終わったらネタ合わせしようって思っててん。」
「ほー…。そうなんっすね…。」
そこで、乱子が楽屋の中を見ると、トイレから鉄平が出てきた所であった。
「鉄平!ちょっとお願いがあるねんけど!一生のやつ!」
「は!?お前の一生のお願い何回目やねん!パチンカスの引退発言ぐらい何回も言ってんぞ!」
「ほんまに!お願い!どうしても気になる事があんねん!」
珍しく、深々と頭を下げる乱子に、鉄平は困った表情を浮かべるのであった。




