第11話 運命
乱子の心配する顔を見ていると、華は次の言葉が中々出てこなかった。その間も、ポロポロと涙だけが溢れ出てきてしまう。
さっきまで、自分に手を差し伸べてくれる人間など居ないと思っていたのに、今は目の前に手を差し出す人が居る。華は、その事がとても嬉しく、そして何より、心がとても安堵している事に気付く。
そこで、泣くばかりの華を気遣って、乱子が場所を移動する事を提案する。
「ここじゃゆっくり話されへんやろ?ちょっと歩いた所に小さい公園があるからそこに行こ。」
その誘いに、華は小さく頷いた。今は誰かに傍に居て欲しいと思ったからだ。
そして、乱子が前を歩き、その後ろを華がついていく形で、無言のまま公園を目指す。
事務所があるビルから10分程歩くと、そこには繁華街に囲まれた小さな公園が現れた。周りには雑居ビルや、明るいネオンの飲食店が立ち並ぶ中、昔ながらの様相をした公園は、難波という巨大な繁華街の中で異質の存在に感じ、この公園を訪れる者達に、どこか不思議な安心感を与えている。
そして、2人は誰も居ない公園のベンチへと腰掛ける。先に話し始めたのは乱子だった。
「千日前のこんな所に公園あったん知ってた?」
「知りませんでした。この辺りはあんまり歩いた事無くて…。」
「敬語いらんって!うちらそんなに変わらんやろ。華は何歳なん?」
「24歳です。」
「今年5?」
「そうです。」
「同い年やんか!ほら!敬語は無しな!乱子って呼び捨てでええから!」
「う…うん…。」
華からしたら、ぶっちゃけ乱子はもう少し年上だと思っていた。それほどまでに、乱子の堂々としたオーラと、何にも物怖じしない態度は凄かったのだ。
そして、少し沈黙が続いた後、乱子は神妙な面持ちで華に尋ねる。
「華さ、うちらは今日出会ったばっかりで、お互いの事を何も知らんけど、だからこそ話せる事…あると思うで。」
何かを察している乱子は、回り道せずに本題へと触れてきた。
「でも…乱子さ…乱子に話しても、変な気を遣わすだけやし…。」
「何を言うてんねんな!しんどい時こそ!溜まってるもん吐出さなどないすんねんな!手遅れになったら…。」
そこで、乱子の話す勢いは止まり、嫌な過去を思い出したのか、珍しく目を伏せてしまう。
「どう…したん?」
「あ!いや!何でもない!ええから聞かせてや。華の事。」
優しい笑顔を作る乱子に、華はさっきまでの掻き乱れた心は幾分か落ち着き、ポツリポツリと1年前からの出来事を乱子に話し始める。
その華の話を、乱子は煙草に火を付け、何も言わずにじっと静かに聞いている。そんな乱子のおかげで、華はこの1年間であった最悪な出来事を、順調に吐き出す事が出来た。
「…って事がさっき分かって…。どないしよかなって思ってた所やねん…。」
こうして華は、全ての出来事や気持ちを話し終えた。聞き終えた乱子は、3本目の煙草を地面で消すと黙って立ち上がった。
「よし、全員しばきにいこか。」
「なんでそうなんの!?顔が本気やし!」
「は?だって登場人物全員クソやんか。しばかなあかんやろ。任せとき、うち柔道青帯やから。」
「いや…そんなカラフルな色…たぶん凄くなさそう…。」
呆れたツッコミを入れた華は、乱子と同じ様に立ち上がった。
「でも、ありがとう。ここまで包み隠さず話せて、ほんまにスッキリした!」
「ほんまか?」
嘘ではなかった。華がアイドルになってから、ここまで気を遣わずに話せたのは初めてだったからだ。
「うん!これも乱子のおかげやわ!これで、どんな卒業ライブになろうが、あたしは後腐れなくピンキースカイを辞めれる。」
「ほんでその後うちの相方になるというわけやな!」
「あはは、それは今のとこないかな!後もう少しだけ…アイドル頑張ってみる。どこか違う所で…。」
「もう今年25やのに?そっちの業界ではおばはんなんちゃうん?」
「うるさ!まだまだイケるし!それに、絶対あたしなんかより良い人おるって!あたし素人やで…。」
「さっきも言ったやろ。運命やなって。うちはうちの勘を信じるねん。」
そう言って、華の方を振り向いた乱子は、自信に満ち溢れた笑顔をしていた。その笑顔に、華はまた勇気を貰う。
「ありがとう。こんなあたしにそこまで言ってくれて。それじゃああたしは行くわ!卒業ライブで色々とやらなあかん事いっぱいやから!」
「チッ!うちの乱子スマイルでもあかんか…。まぁええわ!死にそうな顔はちょっとマシになったみたいやしな!後は…ほれ、スマホ出して。」
「え?何で?」
「連絡先の交換や!うちはまだ華の事諦めてないからな!」
「そっか…。ほんまにありがとう…。」
「卒業ライブの日は、うちもライブがあって行かれへんけど、しんどい時はいつでも連絡しておいでや。」
「うん。」
こうして華は乱子に助けられ、心が少し立て直せたのだが、華にとって本当の試練はこれからだった。




