第25話 初心者向け異界:辛口 八日目 専用施設1 その5
「スライムの時ほどの絶望感は、なかったよね」
「はい。意外と、防ぐほうは何とかなるかもしれません」
死に戻ってすぐ、今回の結果についてそう意見の一致をみる正樹と佑梨。
実際、基本的に正面からくるということもあり、敵からの攻撃に対しては案外対処できる感じはあった。
少なくとも、専用装備2で張れるだけメタを張ってようやく勝負の土俵に上がれたスライムの時と比べれば、大分まともに戦える印象である。
「問題は、攻撃ですよね」
「正直、普通に殴っても枝すら落とせないイメージしかない」
「一応、浄化で枝の先端ぐらいは枯らせたので、全く無力とまでは言えませんけど……」
「なんか、攻撃に使ってくる枝って、どれだけ切り落としてもダメージになってないんじゃないかって思うんだよね……」
「そうですね……」
防御面が案外何とかなると分かったところで、現時点で一番致命的な問題に頭を抱える佑梨と正樹。
結局のところ、常に彼らにとって問題となるのは、攻撃手段と攻撃力の欠如である。
「一応浄化は効くことが分かったので、どこかで巫女かシスターを拾えることを祈りましょうか……」
「浄化が効くのはいいけど、それで明確にダメージを与えられるようになるの、いつになるんだろうね……」
「分かりません……」
正樹がこぼした疑問に、渋い顔でそう答えるしかない佑梨。
どうにも20を超えると成長が急に悪くなるようで、それまでガンガン伸びていた正樹の成長の才能・極がいきなりレベルアップしなくなった。
熟練度自体は入っているようなので、今の段階では初心者向け異界は20が上限なのか、それとも熟練度の入り方が減衰しているだけなのかは分からない。
が、どちらにせよ、浄化でちゃんとしたダメージが通るようになるかは、大分絶望的なのは間違いない。
「……やっぱり、スライム駆除薬の除草剤バージョンに期待するのが、一番現実的かも」
「……そうですね。幸いにして、除草剤そのもののレシピはありますし」
「ただ、防御面では浄化が結構活躍したっぽいし、巫女かシスターのジョブを拾う意味はあるのはあるんだよね」
「というより、現状ジョブに関しては、覚えて無駄になるものってあんまりないとは思います」
「確かにそれはそう」
佑梨に言われ、正直にうなずく正樹。
使ってみてわかったことだが、ジョブの効果というのは低レベルでもかなり大きい。
なのに、最初期の豊富とは言えないジョブソケットですら、専用装備で固定された影響もあって実質的に一枠しか埋まっていないのだ。
正樹のほうはソケットの数にさほど余裕はないが、それを踏まえても手に入ったら片っ端からセットしてもかまわないぐらいには、ジョブが不足していると言っていいだろう。
「なんにせよ、とりあえずはまたしばらくの間、素材集めと除草剤の作り置きに専念だね」
「そうですね。その間に、いいジョブが出るか専用装備の強化ができれば、という感じですね」
「だね。一番の問題は、宝物庫の宝箱を開けるタイミングかな?」
「難しいですよね、実際。片っ端から開けるのがいいのか、ある程度育てたほうがいいのか……」
「まあ、そこはとりあえず、明日も様子を見てそれから考えよう」
「はい」
何も決まっていないような感じの方針を、非常に大雑把に決める正樹と佑梨。
実際問題、現状では他に出来ることはない。
「じゃあ、新しく解放した施設の確認に行きましょうか」
「そうだね。一応その前に、デイリーミッションでもらった素材で、何か解放できないか確認……、あっ」
「どうしました?」
「専用1のレストランと温泉、専用2のホテルがどれか一つ解放できそうなんだけど、どれにしようか……」
「……難しいところですね。生活の面で言うなら、温泉が一番なんでしょうけど……」
「なんとなく、先が長そうなホテルか、リストでは地味に畑の次に来てるレストランを優先しないと泣きを見そうな気もするんだよね……」
お互いに思うところを言い合い、悩ましい表情で考えこむ二人。
解放してから使えるようになるまでに二時間ぐらいかかることを考えると、なんでもいいから解放してしまったほうがいい。
それは分るのだが、なんとなくどれも決め手に欠けるのである。
「そういや、佑梨ちゃんのほうは、何かセットしたり解放できたりはしない?」
「今のところは、ないですね」
「そっか……」
念のために佑梨のほうも確認したが、今日手に入れた素材では何もできないようだ。
「錬金術で、同じものを作れたら解決するんだけど……」
「作れるけど作れない、って感じですね……」
「だよね……」
正樹に聞かれて、正直に答える佑梨。
実際、レシピはちゃんとあるし、素材も揃えようと思えば揃えられる。
ただし、何度も素材の変換と合成を繰り返すため、一つ作るために必要な素材の量が膨大になるのだ。
はっきり言って、採取場で運よく拾うのと必要な量の素材が集まるのと、どちらが早いか分からないぐらいには要求量が多い。
むしろ、今後のことを考えるなら、同じ作業で作った素材で採取場のランクを上げたほうが早いかもしれないぐらいである。
「あっ」
「どうしたの?」
「神様から、『個人的な欲望では温泉だけど、今後のことを考えるならレストラン優先』とのアドバイスが」
「そうなの? しかし、それまたなんで……」
「『解放したらわかる』そうです」
「そっか、じゃあ……」
佑梨の守護神の勧めに従い、レストランに素材のメモリーを挿しこむ正樹。
すぐに、7200秒のタイマーが表示されてカウントダウンが始まる。
「これで、後は日帰り温泉と体験施設を解放したら、今あるのは一通り解放し終わるね」
「施設内施設や施設内設備はどの程度あります?」
「分かってる限りでは、農場を5まで上げると温室が、10まで上げると果樹園が解放できるようになるっぽい。牧場はレベル上げていくと養鶏所とふれあい広場、乳製品および食肉加工関係の設備が追加できる感じ。売店はまあ、いろいろ細かいものがいっぱいあるけど、今はデフォルトで解放されてる産直売り場だけかな」
「やっぱり、いろいろあるんですね……」
「レストランと日帰り温泉、体験施設はそれこそ、ものすごくいっぱい施設とか設備がありそうなんだよね……」
「専用施設2は、もっとすごそうですよね」
「ホテルにテーマパークにアウトレットに漁港だからね……」
「プライベートビーチも、何気に怪しい気がします……」
手元の情報をもとに、そんな話をする正樹と佑梨。
なお、レストランは解放中となっているため、まだ詳細情報は分からない。
「じゃあ、いろいろ見て回ろうか」
「はい」
「あっ、私も一緒に行くわね~」
「うん。じゃあ、ゲートを開けるね」
やることも終わったので、専用施設1の現状を見て回ることにする正樹と佑梨。
掃除を終えて合流した命も加え、三人でちょっとワクワクしながら、農場公園に入るためのゲートをくぐる一同であった。
「……一気にいろいろ増えたね」
「……増えましたね」
「増えたわね~」
入ってすぐ、変化に驚く正樹と佑梨、命。
存在する建物そのものはショボくはあるものの、きちっとした入場ゲートも作られ、それなりにちゃんとした農業公園になっていた。
「とりあえずまずは、農場かな」
「そうですね。何を植えます?」
「そもそも、昨日はちゃんと何を植えられるか確認してなかったんだよね」
「確かに、種関係で盛り上がってただけだものね~」
農場に移動しながら、そんな話をする正樹たち。
栽培可能な間は常に何か植えておく、というほど使い倒す気はないが、せっかくクールタイムが終わったのだ。
無駄に遊ばせておく意味もないだろう。
「昨日より広くなってるわね~」
「レベル上がったから、栽培できる数も一気に増えてる」
「それなら、いろいろ試せそうですね」
「うん。で、何から栽培するかがちょっと悩ましいんだよね……」
そう言いながら、リストを確認する正樹。
ざっと見た感じ、一般的な作物以外に、異界や採取場で採れる植物系素材もいくつか栽培可能となっているようだ。
あのあたりのアイテムにも品質のパラメーターはあるのだが、現状それを気にするほどの能力が正樹たちにないのでスルーである。
「これ、まずは薬草とかを栽培してみて、メモリーで取り出せるかどうかを確認したほうがいいかな?」
「そうね~。まあ、メモリーに出来るかどうかは、昨日収穫したもので試せば行けるとは思うけど~」
「あっ、たしかに」
命に指摘され、試しにホウレンソウの種を農場のストレージから取り出してみる正樹。
取り出す際に、現物かメモリーかを選択できることに気が付く。
「あっ、メモリーで出せるっぽい」
「多分だけど、専用施設1からその手の産物を持ち出すには、一部例外を除いてメモリーにしてフリーソケットに挿す必要があるんじゃないかしら~」
「なるほど、そうかも」
「というか、ここの生産能力を考えると、それぐらいの制限がないといろいろ問題があるしね~」
今更、そんな仕様を確認する正樹。
何が栽培できるかはまだしも、持ち出しまわりの仕様は昨日のうちにしておくべきであろう。
が、専用装備と違って直ちに異界攻略に影響が出るわけではないのが専用施設だ。
命も佑梨も、別に困らないので特にそのあたりには突っ込まない。
「メモリーに出来るってことは、錬金術とかの素材に使えるってことでいいのかな?」
「試してみないと、分りません」
「たしかに、それはそう」
言わずもがなな佑梨の回答に、聞くまでもなかったかと反省しつつ素材を一通り栽培してみる正樹。
収穫はもちろん、全自動指定である。
「個人的には、売店の機能が気になるのよね~。今は直売所だけなんだっけ~?」
「うん。レベル上げていけばいろいろ増えるんだけど、今は野菜の直売所だけ」
「直売所って、誰に売るのかしらね~?」
「……確かに」
「わたしたちだと加工品はともかく、野菜そのものはここで収穫したものを勝手に持っていけばいいだけですからね……」
「後、対価は何をどういう形で支払うのか、それも気になるのよね~」
「それ以前に今の状況だと、そもそも何も商品が並んでないんじゃ……」
「それもあるわね~」
商業施設系すべてに共通する命の疑問に、正樹と佑梨も言われてみればという顔をする。
なんとなくぼんやりと、素材か何かを投入すれば商品が買える、ぐらいのイメージを持っていたが、それだと初期解放されている直売所の意味がない。
「設定が終わったら、直売所を見に行きましょう」
「そうだね」
一度気になってしまうと、どうしようもなく気になる。
機能実験で収穫したジャガイモ以外、まだ何の作物もできていないが、売店を見に行くことにする佑梨と正樹。
手早く設定をすませ、目と鼻の先にある売店を覗いてみる。
「……うん。何もないね」
「……なにもありませんね」
「……とりあえず、メニューとか確認してみたらどうかしら~?」
「そうだね」
さびれた無人販売所でも、もう少し何か置いてある。そう言いたくなるほど何も置かれていない直売所の棚に、思わず見たままのコメントをしてしまう正樹と佑梨。
同じものを見ていた命が、一足先に立ち直って機能確認を促す。
「……えっと、直売所の機能は、他の異界や拠点、専用施設に、ここで収穫した産物を売るのがメインの機能らしい」
「……なるほど、それ系だったのね~」
「で、特に設定してない場合、農場で栽培したことがある作物を農場レベルに応じた量、自動で並べて販売するんだって。これは農場のクールタイムとか栽培回数上限、在庫とかの制限は一切関係なく一定量売り出すらしい」
「また、変に強力な仕様ね~」
「よそとの取引がどれだけすごいのか分からないから何とも言えないけど、今の時点ではあんまり役には立ってない感じ。取引履歴見ても、メロン売った稼ぎと売るために消費したリソースが釣り合ってるから収益ゼロだし」
そう言って、やれやれという感じでため息をつく正樹。
はっきり言って、今のままでは存在価値がとてつもなく低い。
「とりあえず、設定できるんだったらいろいろ設定したらいいんじゃないかしら~」
「まあ、軽くいじってみるけど、全体のレベル上がるまでは収益ゼロっぽいから、いまいち気合が入らないなあ……」
「というか、そもそも誰がどうやって買いに来てるんでしょうね?」
「買いに来た人に関しては、ログ見てもよく分からない数字と文字の羅列が記載されてるだけだから、全然分からない。購入方法は通販的な感じっぽい。なんか、ディメンションマーケットなるところに自動出品されるらしい」
「今の強化度合いだと、そういう感じでしょうね~。多分、農場が強化されていくと、他の異界や異世界にインスタンスで接続されて、商売が成立するようになっていくわ~」
「そうなんだ……」
「ちなみに、お願いで獲得する報酬ポイントはね~、その時の支払いにも使うのよ~」
「そうなんだ。っていうことは、僕の場合は専用施設の強化を優先したほうが、後々楽になる感じ?」
「間違いなくそうだけど、そういうのはまず、今の異界をクリアしてからね~」
ちょっと希望が持てそうだと思った瞬間に、命にあっさり叩き潰される正樹。
いくらえげつない仕様だと言えど、現時点ではちょっとした楽しみにしか使えない感じの正樹の専用施設であった。
どこまでも火力のなさが足を引っ張る感じですが、いくら高難易度とはいえ、バニラ状態でスタートした連中にぶつける相手じゃないのが出てしまってるのが原因なので……。
ショゴスライムにしろ樹木にしろ、ちゃんと穴があるだけましというか、穴があるから初心者向けに出せるというか……。
ようやく出せた売店の仕様。実はぎりぎりまで決まってませんでした。
色々考えた結果、商売する系の施設はローグライク系とかランダムダンジョン系ゲームではよくある、ダンジョンの中で唐突に出てくる店と同じポジションにしました。
なお、儲かるようになるのはだいぶ先になる模様。少なくとも、辛口の間は無理というか、ショゴスライムを正面から正攻法で撃破するのと同様、バニラスタートで初回の初心者向け異界で黒字化するほうがおかしいので、赤字にならない仕様になっているだけましということになります。




