第21話 初心者向け異界:辛口 七日目 専用施設1 その3
「やっぱり、一周じゃ無理だったか」
「ですね」
専用装備の確認も終わり、時間つぶしも兼ねて軽く採取場を一周した正樹と佑梨。
その結果は、可もなく不可もなく、といったところであった。
「でも、そのスコップ、地味に効果ありましたよね」
「回数こなす前提だと、たまに一個多く採れるだけでもだいぶ違うよね」
採れた素材こそ可もなく不可もなくではあったが、専用装備1の機能を確認するという面では十分に成果があった。
というのも、今までは何回やっても一回の採取で5個までしか採れなかった素材が、何回か6個採取できたのだ。
これに関しては命からも、もっと採取に強いジョブを身に着けるか、農業スキルや採取スキルを10レベル以上まで育てるかしなければ5個を超えないという説明があったりする。
それを数回に一回とはいえ超えたのだから、専用装備の面目躍如といったところだろう。
それでも佑梨の専用装備2と比べるとショボい気がするが、あれはむしろ佑梨のほうが強すぎるのであって、実際のところは専用装備1で比較するとそこまでの差はない。
「お帰り~。その様子だと、良くも悪くもない感じっぽいわね~」
「はい。何をするにも足りてませんけど、全然かすりもしていないという訳でもない感じです」
「なるほどね~。っと、そういえばすっかり忘れてたけど、お願いごとのチュートリアルが終わったから、リストを増やしておくわね~」
「ああ、そういえば、やっと生きて拠点に帰るってやつを達成できたんだよね……」
命に言われて、三つのチュートリアルの最後の一つがようやく終わったことを思い出す正樹。
なお、触れる機会がなかった二つ目の「命に指定された素材を納品する」に関しては、初級採取場の使用権を取ったあとにクリアしており、報酬として「加護や権限の取得・使用に必要とするコストの軽減LV1」をもらっている。
もっとも、現時点では必要素材が一個減るぐらいの効果しかないのだが。
「今更だけど、こういうのもうまく使ってね~」
「はい。……日替わりや週替わりなんかもあるんですね」
「まあね~。と言っても、私からのお願いって言いながら、半分ぐらいは私自身は関与してないけどね~」
「……それ、いいんですか?」
「そういうシステムだと思ってね~。実際問題、関与してないだけで必要なものではあるしね~」
なかなか身も蓋もないことを言い出す命に、不安げな表情で突っ込む佑梨。
命からのお願いという扱いなのに命自身が関与していないというのは、どう考えても突っ込みどころでしかない。
「関与してないのに必要なものって、どういうこと?」
「拠点のあれこれも、別に全部が全部無から湧いて出てきてるわけじゃないからね~。消耗品の補充とか、ライフラインの維持とかに必要なリソースを、私からのお願いという形で徴収してるのよ~」
「じゃあ、ちゃんと全部こなさなきゃいけないんじゃ……」
「そこまででもないわよ~。あなたたち二人が消費するリソースなんて微々たるものだし、半分ぐらいはとっとと異界を攻略してもらいたいっていう拠点側の意思が形になってるものだしね~」
「それだとどっちにしても、頑張ってお願いをこなさなきゃいけないような……」
「まあ、やればやるだけ楽にはなるわね~」
拠点から攻略をせっつかれていると知り、難しい顔をする正樹。
それに対し、微妙な笑顔で当たり障りのないことを言う命。
その様子を見るに、この件にも何やら裏がありそうである。
「あの、デイリーミッションと日替わりのお願いって、実質同じものだと思うんですけど……」
「同じと言えば同じだけど、デイリーミッションは基本的に内容が同じで、クリア可能な内容しかないっていう点が違うわね~」
「お願いのほうは、クリアできないものが混ざるんですか?」
「混ざるわね~。ありがちなのが、モンスターが全部で8匹しかいないのに、10匹倒してくれっていうお願いが出るケースね~」
「それ、日をまたいだらどうなります?」
「もちろん失敗扱いね~。まあ、デイリーミッション同様別にペナルティはないから、気にせずにやればいいわよ~」
各々の違いを佑梨に説明しつつ、気楽にやればいいと笑う命。
実際問題、お願いのほうはデイリーミッションと違い、元から全部こなせるような仕様になっていない。
なので、こなせるものだけこなして、適当に報酬をもらえばいいのである。
「……ん?」
「どうしました?」
「いや、お願いのほうの報酬ポイントって数字、何かなって?」
「……何かありますね」
「ああ、それね~。加護とか権限の取得や使用に必要な素材を、一部もしくは全部肩代わりできるポイントなのよ~」
「そんなポイントが……」
「見たら、報酬ポイントは全部のお願いに設定されてますね」
「太っ腹すぎやしない?」
「そんなに優遇して、大丈夫なんでしょうか……」
「その分、基本的に要求ポイントも多いから、気にしなくていいわよ~。基本的にポイントはおまけで、ちょうどいい報酬が難しいお願いのために設定されたようなものだしね~」
やけに太っ腹なお願いの報酬に、不安がぬぐえない正樹と佑梨。
それに対して、ポイントについての裏事情をサクッとばらして、二人の不安を払拭しようとする命。
だが、正樹と佑梨の不安は実は、おまけかどうかという点にはなく……
「こういう過剰に見えなくもない報酬って、主人公補正セットがどういう反応をするかが怖い……」
「ですよね……」
「あ~……」
スライムの挙動をはじめ様々なところで暗躍してくれる、正樹の主人公補正セットについてだったりする。
「……うん。そこは考えないことにしましょうね~」
「……そうだね」
「……そうしましょう」
「それで、そろそろ正樹君の農場、アップグレードが終わったんじゃないかしら~?」
「……あっ、終わってる。で、次はなぜか先にセットした売店じゃなくて、釣り堀が7055秒になってる……」
「セットした順番に関係なく、優先順位が設定されてるっぽいですね」
「だね。で、農場にまた素材をセットするソケットが出てきてて、これが地味に足りそうなんだよね……」
「じゃあ、やってしまいましょう」
話題を変えるために、正樹の専用施設1に言及する命。
命に振られて状況を確認し、アップグレードが次の施設に移っていることに気が付く正樹。
残りの秒数を見る限り、どうやら一回目のアップグレードは全部2時間かかるらしい。
「じゃあ、中に入って農場の仕様を確認しましょうか~」
「そうだね。何気に専用施設に入るの、これが初めてだし」
「ですね」
「そもそも、初心者向け異界の攻略中に専用施設に入れるようになることって、まずありえないんだけどね~」
そう言いながら、正樹が開いたゲートをくぐる一同。
こうして、ついに実際に専用施設を使う時が来たのであった。
「うん、見事に畑しかないわね~」
「柵で囲われて工事中になってるところが、ものすごくシュールだよね……」
「実際に工事が進んでるところがあるのも、なんとも言えない感じです」
入場券でも売ってそうな建物の横にある入場ゲートっぽいところを通り抜け、目に入った光景に好き放題いう命たち。
正樹の農場公園は、体裁が整う前に無理やり開業しました感が漂う、なんで一般人が入れるようにしたのか小一時間ほど問い詰めたい状態になっていた。
「でも、この感じだと、解放済みならアップグレード中の施設も普通に使えそうね~」
「まだ全部がそうとは限らないけど、少なくとも農場は大丈夫そう」
農場の端のほうにある工事中の看板を見て、そんな風に結論付ける命と正樹。
日帰り温泉施設とかレストランとかは何とも言えないが、牧場や釣り堀なんかは大丈夫そうである。
「じゃあ、畑に種が必要かどうか、確認しちゃって~」
「了解。……どっちでもいいみたい。種がなくても、決まったものから選んで栽培できるみたいだし」
「なるほど、そっちのパターンね~。種を使うメリットは?」
「質と収穫量がよくなるのと、種なしだと栽培できないものも栽培できること、らしい。ただ、農場のレベルに応じた限界はあるっぽい」
「でしょうね~。どう考えても、この畑でマンドラゴラとか栽培できるわけないでしょうし~」
「うん、それはそう」
いきなり極端な例を出してくる命に、思わず真顔でうなずく正樹。
逆に、今の時点でそんなヤバそうなものが栽培できたら、そのほうが怖い。
「じゃあ、実際にどんな挙動をするか、種を植えて確かめましょうか~」
「だね。とはいえ、作物の種なんて持ってないけど……」
「チュートリアルの一環として、私が出すわ~。はい、これね~」
「ありがとう。……何の種?」
「普通の種だと面白くないから、何が生えるか分からない謎の種LV1にしたわ~」
「……それ、単に命さんにも正体が分からないだけなのか、それとも実際に植えた時にランダムで生える作物が決定されるタイプの種なのか、どっちですか?」
「ランダム決定タイプね~」
怪しげな種を正樹に渡す命に対し、一応重要な点を確認しておく佑梨。
それに対し、ずいぶんとあれな情報をくれる命。
とはいえ、異界らしいと言えば異界らしい話である。
「それと、育てた作物から種を収穫するとかは、できるんですか?」
「一応できるっぽい。ただ、具体的なことは何も分からないから、一回やってみよう」
佑梨に重要なことを確認され、ヘルプを見ながら正直に分かる範囲で答える正樹。
とはいえ、ヘルプ機能も実際に経験したことに応じて内容が拡張される性質があるため、現時点では大したことは分からない。
「ややこしいから、畝一列ごとに植える作物を変えるとして、四列あるから一番左端を謎の種、残り三列を難易度が低い表記になってるジャガイモ、カブ、ほうれん草にしておくね」
「そこはお任せします」
「正樹君の施設だから、正樹君が好きに決めていいわよ~」
植える作物についての正樹の宣言に、笑顔でそう言い切る佑梨と命。
現状別に食料が正樹の畑に依存するわけでもないし、どんなものが植えられるのかも何一つ分かっていない。
なので、正樹がやりやすいようにやればいいのである。
「植える作業を手動でやるか自動でやるか……、って、自動でできるんだ……」
「できないケースもあるけど、正樹君の農場はできるタイプなのね~」
「というか、命さんは他の農場も知ってるんだ……」
「管理人仲間の農場がね~、自動でしかできないのと手動でしかできないのがあるのよ~」
「そうなんだ」
「そうなのよ~。ちなみに、うちにもあるけど、うちのは正樹君のと同じね~」
「へえ~。まあ、神社って結構畑とか田んぼを持ってたりするけど」
「そういうことね~」
命がくれる情報に感心しつつ、農場の使い方を細かく確認していく正樹。
ざっとチェックをして、今回はどうするかを決める。
「さすがに普通に耕して種を植えてると遅くなるから、今回は自動でやろう」
「自動でやると、何かデメリットがあるんですか?」
「農業スキルを持ってるから多少ましだけど、品質と収穫量が農園と作物のレベルに応じた最低レベルに固定されるらしい」
「つまり、美味しい作物を作りたければ、自分で手間暇かけて農業しろ、ということですか……」
「そういうことっぽい。ただ、素人がヘタに手を出してもいいものが育つとは限らないから、場合によっては自動で育てるより品質が悪くなることもあるっぽい」
「それはまあ、そうでしょうね」
正樹の説明を聞き、さもありなんとうなずく佑梨。
結局のところ、よほど熟練の農家でもなければ、自動でやったほうがましな結果になりそうである。
少なくとも、農家のジョブがない今の状態で、大して育っていない農業スキルに頼って作業してもいい結果は出まい。
「まあ、機能とか仕様とかの確認も必要だから、間を見て一度は自力でやってみるけど」
「その前に、農家のジョブが手に入るといいですね」
「だね」
そう言いながら、画面の説明に従って作業の設定を進めていく正樹。
正樹が何か操作をするたびに畝が変化し、たぶん種が植えられたんだろうな、となんとなく分かる状態になる。
「えっと、種なしでやったやつは最低ランクでかつ一番簡単な作物だから、15分で収穫だって」
「……また、すさまじく早いですね」
「その代わり、たぶん美味しくはないと思う。謎の種に関しては、15分のと20分、30分のが混ざってるね」
「結構なバリエーションがあったのね~」
「LV1でも、こんなに幅があるんですね」
まるでスローライフ系ゲームのごとく、短時間でできる作物。
そのことにあえて深く追求せずに、謎の種に話題を移す。
「種はどうやって採るんですか?」
「収穫可能になってからしばらく放置したら、種になるっぽい。あと、一度作物もしくは種を収穫したら、次から種なしでも栽培はできるらしい」
「へえ。じゃあ、種を確保しなくても同じものを育てるのはできるんですね」
「だね。まあ、今回は種を取るように設定しておこう」
「そこも自動でできるんですか」
「うん。種と作物半分ずつで収穫とか、収穫後同じものを繰り返し栽培とかもできるっぽい。けど、いろいろややこしいこと書いてるから、今回は収穫だけして終わりかな」
そう言いながら、農場の設定を変えていく正樹。
「で、15分って待ち時間としては微妙だよね?」
「ですね」
「……採取行こうか」
「……行きましょう」
さすがに15分ぼんやりするのは苦痛だったらしく、終わるまでは採取に行こうと意見を一致させる正樹と佑梨。
「「というわけで、行ってきます」」
「いってらっしゃ~い」
農場公園から出たところで、暇を持て余した若者が連れ立って採取に向かうのを見送る命。
二人が旅立ったところで、ふと気が付く。
「そういえば、さっきの周回で拾った宝箱の中身、鑑定してないけどいいのかしら~」
割と重要なことなのに、三人そろってすっかり頭から抜け落ちていたことに今更気が付く命。
「……まあ、帰ってきてからにしましょうか~」
もう手遅れだし、とりあえず致命的な問題でもないので、二人が戻ってくるまで先送りにする命であった。
最初のほうで命さんが出してたお題の一つ、素材納品。
これ、完全に触れ忘れてたっぽいので一応入れておきました。
現状ぶっちゃけ空気。
正樹の待ち時間がどれも絶妙に微妙なのは仕様です。
アップグレードの2時間も結構待ち時間としては長いけど、収穫の15分もただ待つには長くて何かするにはちょっと短いという絶妙な塩梅で。
このあたりの時間がレベルアップで短縮されるかどうかは現状未定、というか判定まだやってません。
そもそも、今の異界クリアする間に、そこが変化するほどのレベルアップはしない予定ですので。




