第19話 初心者向け異界:辛口 七日目 専用施設2 その1
「え~……」
正樹の報告を聞いて、実に嫌そうな反応を見せる命。
どうやら、専用施設2というのは、命的にもあまり嬉しくない話のようだ。
「やっぱり、厄介な話ですか?」
「厄介というか、本当に今入ってるのが初心者向け異界:辛口なのかしらってね~……」
「そこまで……」
本気で嫌そうな顔をしながら言う命に、正樹と佑梨の顔もひきつる。
「だって~、専用施設2なんて管理者仲間以外で拾った人間、二桁に満たないのよ~? それ以前に、単に異界の入り口を安全に出入りできるようになるために、専用装備1じゃなくて2が必要になったパターンなんて初めてよ~」
「そうそうあってたまるか、って内容だけど、やっぱりそこまでひどいんだ……」
「このレベルで主人公補正セットが頑張ってるのは、正直見たことも聞いたこともないわね~。主人公補正セット自体は、管理者仲間が面倒を見てる子も含めれば年に二桁は見かけるんだけどね~……」
本当にこいつは何なのか、という気持ちを隠そうともせずに言う命。
新規で異界に迷い込む人間というのは、世界全体でみると毎年数千人、年によっては一万人を超えるぐらいは居る。
なんだかんだで、命だけでも毎年最低で十人以上は面倒を見ている。
その大部分は一回か二回で異界に迷い込まなくなるのだが、それでも一人二人、というより一組か二組はしつこく異界に引きずり込まれる連中がいる。
見た目通りの年齢でないどころか、もはや実年齢がよく分からなくなるぐらい異界拠点の管理人をやっていることもあり、命が面倒を見た人間はすでに四桁以上、もしかしたらそろそろ五桁の大台に乗っているかもしれない。
そんな命からしても、正樹はあり得ないほど極端なイレギュラーだったりする。
「それで、専用施設2が今すぐ解放できるかも、なのよね~?」
「うん。なんか、宝物庫で出た素材が、全部解放素材だったみたいで……」
「いやな予感がしたから、戻ってきてから解放しようってことかしら~?」
「うん、そう。場合によっては、アドバイスをもらえたら、みたいな……」
「アドバイス、アドバイスかあ~……」
正樹の言葉に、どうしたものかと考え込む命。
宝物庫ですさまじいレア宝箱を開けたので逃げてきた、という判断は正しいだろう。
今回はちゃんとデイリーミッションと初回ミッションの「生きて帰還する」の条件を満たしているので、少なくとも一つは専用装備1の解放素材を渡すことはできる。
少なくとも、という表現なのは、専用装備1用の素材が確定しているのは初回ミッションだけだからだ。
デイリーミッションのほうは、現在セットされている専用装備もしくは専用施設に使うもののうち、持っていないものから一人に一つランダムでなので、必ずしも専用装備1に使うものとは限らないのである。
今回の場合、まだ未解放である正樹の専用施設2の、解放後の強化に必要な素材が出てくる可能性も普通にある。
というより、むしろこの流れだとそちらのほうがありそうなぐらいだ。
正直、アドバイスのしようなどない。
「このままだと何とも言えないから、まずは解放しちゃって~」
「なんでしょう、このできたら大したものじゃないほうがありがたい、っていう願望は……」
「もうすでに農場公園の時点で、私が知ってる中でもトップクラスに大規模だものねえ~……」
「不吉なこと言わないでよ……」
命と佑梨のボヤキに対し、ビンビンに立ったフラグの気配を感じて文句を言う正樹。
もっとも、すさまじく派手な演出で出てきたメモリーだ。
どんなにショボく見えても、絶対にヤバいものなのは間違いない。
「……ショボいもの、ショボいものでお願い……」
「どうしましょう、なんだか全員で結託して、全力でフラグを立ててるような気分になってきました……」
「ウルトラレア級の、しかも実質宝箱二つ分の枠から出たメモリーって時点で、私はすでに諦めてるかな~」
必死に祈りながら素材を挿しこんでいく正樹を見ながら、そんな不安を口にする佑梨。
それに対し、もはや諦めて悟りすら開いた顔で、無情なことを言い切る命。
結局のところ、正樹と佑梨の願いは最初からかなうはずもなく……
「……なにこれ……」
「どの程度ヤバいものかな~?」
「……リゾートビーチ、だって……」
「うわあ、また大規模なものが来たわね~……」
下手をしなくても農場公園より大規模な気がする施設が、正樹の口から飛び出す。
「うん、まあ、覚悟はしてたわ~。で、どんなものかしら~?」
「現時点で解放されてるのが海、解放項目がプライベートビーチ、海の家、漁港、海釣り公園、リゾートホテル、日帰り温泉施設、テーマパーク、ショッピングモールらしい……」
「またしても、すごい規模ね~……」
解放項目を聞いて、うわあという顔をしながら言う命。
どいつもこいつも、内部にたんまり施設や設備を抱え込んでいそうな代物ばかりである。
恐らく基幹施設であろう海に至っては、後からどんなものが施設や設備として生えてきてもおかしくない。
初期で基幹施設であるはずの農場すらまともに解放されていなかった専用施設1とは違い、最初から海は解放されているあたりが逆に怖い。
総じて、レアリティにふさわしすぎてドン引きするしかない施設だと言えよう。
「……さすがに、解放できるものはありませんよね?」
「ないはず、だと思いたい……」
「まあ、解放できても、今の時点では攻略そのものにはあんまり影響しなさそうだけどね~」
専用施設の内容を見て、そんな話をする佑梨たち。
実際の話、魔法関係に強くなりそうな佑梨の専用施設1と違い、正樹のものはどちらも戦闘能力に影響しそうな感じはしない。
農場公園は体力や筋力が伸びそうだが、リゾートビーチのほうはそういう補正がかかるのかどうかもピンとこない。
ただ、異界の攻略や戦闘能力について横に置いて、生活や生存という点で語るなら、正樹の専用施設は最強と言ってもいい。
少なくとも食と住には困らなくなるし、ショッピングモールの仕様次第では、衣も完備される可能性がある。
専用施設の機能そのものは異界でなくてもそのまま使えるため、仮に何かのトラブルで遭難したとしても、正樹が生き延びるのは難しくなくなるのだ。
もっとも、専用施設共通の仕様として、出入りと専用施設内での機能の使用に関しては現実でも異界に居る時と完全に同じだが、専用施設で生産されたものの持ち出しは現実世界ではいろいろと制約がある。
正樹がどの程度成長するか次第ではあるが、現実でサバイバルをする羽目になった場合、生産物を持ち出して生活するのであれば二桁人数を養うのは難しいだろう。
「それで、解放できそうなものはあります?」
「……えっと、海が一段階強化できそうなのと、プライベートビーチとホテルが解放できるかも」
「えっ? あるんですか……?」
「うん。海はね、使い残した水系アイテム全部突っ込んだら、ランクアップできるみたいなんだ」
「かもって言ってるほうは、どんな感じなのかな~?」
「作れる素材で、どちらかは解放できる感じ。両方は採取場にこもるかどうかってとこ」
「なるほどね~」
「え~……」
自分で聞いておきながら、強化と解放ができるという正樹の答えに信じられないという顔をする佑梨。
その隣で、具体的な話を聞いた命が、何やら考え込む。
「これは、個人的な予想と意見なんだけどね~。多分、正樹君の専用施設って、要求素材をセットしてから実際に解放されたり強化されたりするまで、結構時間がかかるタイプだと思うのよ~。だから、解放できるものは優先して解放しちゃっていいんじゃないかな~」
「その心は?」
「一段階目がどのレベルのリゾートかは分からないけど、遊べる施設は今のうちから準備しておいたほうが病まずに済むかな~、ってね~」
いきなり積極的な開放を推奨し始めた命。その態度の変化を不審に思った正樹の質問に、真剣な顔で思うところを告げる。
初手のスライムが過酷という言葉では語れない程度にはえげつなかったこともあり、命的には二人のメンタル面にかなり不安があるのだ。
「……あの、すごく軽い神託が下りてきました……」
「大体予想はつくけど~、どんな感じ~?」
「『海! リゾートビーチ! 水着回!』だそうです……」
「水着と着替えるスペースの問題は、どう考えてるのかしらね~……」
「当然ですけど、水着なんて持ってません……」
佑梨の守護神からの神託に、渋い顔でそう話す女性陣。
基本的に、着の身着のままで迷い込むのが異界だ。
当然ながら、佑梨も服なんて制服しか持っていない。
「正直、新しい服が手に入るのなら、水着より下着と普段着が欲しいです……」
「そうよね~……。私が神社の設備で何とかするにしても、限度っていうものがあるし~」
「一瞬で新品同様にきれいにしてくれると言っても、毎日同じ下着なのは気分的にちょっと……」
「うんうん、よく分かるわ~……」
佑梨のボヤキに、心の底から同意する命。
今でこそ生活する分には何一つ不自由しない神代神社異界分社だが、命が初めて異界に迷い込んだ時は貧相な小屋とショボい祠が一つあるだけの、神社と呼ぶのもおこがましい設備しかなかった。
専用装備を得られるまでは普段の生活は全裸で過ごしたり、着ているものがヘタって来たらわざと死んで新品にしたりと、ものすごく苦労した時期があった。
なので、気軽に水着回とか言われると、微妙に腹が立つのも当然である。
「一つ思ったことがあるんだけどね~」
「わたしもあります」
「多分同じこと考えてるんじゃないかな~?」
「そうかもしれません。ちなみに、わたしが思ったのは、正樹さんの専用施設関係は、まず専用施設2のショッピングモールを優先したほうがいいんじゃないか、です」
「それは私も思ったのよ~。水着云々は横に置いておくとしてもね~、現状で下着や服が手に入る可能性があるのって、宝箱か正樹君のショッピングモールだけだもの~」
「それに、日用雑貨や文房具なんかも、ここだと入手手段が限られてます」
「そうね~。その手のものを手に入れようと思うと、ものすごく大量の素材を用意して権限を解放するところからスタートだしね~」
勝手に正樹の強化計画を立てはじめる命と佑梨。
そこには、いろいろと乙女の切実な問題が絡んでいるようだ。
特に佑梨のほうは、複数の面で差し迫った問題があるので余計にである。
「勝手に話を進めちゃったけど~、とりあえず海の強化はやっておいてね~」
「はいはい」
「後、服の話は正樹君も他人事じゃないだろうから~、ショッピングモールについては考えておいてね~」
「うん。というか、思ってる通りのものとは限らないから、そこを確認するためにも早めに解放しておいたほうがいいよね」
「そうね~。場合によっては、何らかのジョブを覚えなきゃいけないとかもあるだろうしね~」
「農場公園のレストランとか売店が、まさしくその仕様だったしね」
勝手に強化方針を決められた正樹だが、佑梨が抱える切実な問題は、一部については正樹にも当てはまる。
なので、むしろ優先してくれるならありがたい、とすら思っていたりする。
「それにしても、正樹さんって初期ジョブから専用施設1と2まで、基本的に全部生活とか生存に特化してますよね」
「だよね」
「なんか、この流れだと工場地帯とか専用施設3で入手しそうな気が……」
「やめようよ、そのシャレにならない予想……」
佑梨の恐ろしい言葉に、身震いしながらそう突っ込む正樹。
軍事施設的なものが増えてもそれはそれで困るが、かといって一次産業と二次産業を全て賄えるようになるのも、主人公補正セット的な意味であまりありがたくない。
「むう……」
「どうしたの?」
「あの、たった今ですね、『フラグ建築、乙』という神託が……」
「それ、もしかしなくても、何かヤバい未来が確定したんだよね……」
「はい、多分……」
やっちまったという顔で、神託内容を告げる佑梨。
その内容に、思わず天を仰ぐ正樹。
「それで、その後にですね……。『諦めて、水着回のために全力を尽くすべし。さすれば道が開かれる』という、あからさまに欲望全開の神託が……」
「前は本当に女神だって主張してたけど、本当に佑梨さんの守護神って女神様なの……?」
「『ソシャゲキャラの女性声優ぐらいには女性。というか、ソシャゲの生放送とかだと、女性声優がこれぐらいの発言してるの珍しくない』、だそうです……」
「僕も詳しくはないけど、そこ基準なのはどうなんだろう……」
いろいろ突っ込みどころしかない神託に、率直な気持ちを口にする正樹。
佑梨のほうはノーコメントだが、表情がその意見に全面同意だと主張している。
なお、命は神々のそういう部分については何も幻想を持っていないので、むしろ正樹たちの反応を楽しむためにあえてコメントを控えている。
「でもまあ、ショッピングモールは早めに解放したほうがいいかもですので、今日の昼からはまた、素材収集を頑張りましょう」
「だね。専用装備がらみでも進展があるかもだし」
「そうね~。話を聞いている限り、どうせ行ってないところに向かえば触手か樹木に殺されるだけでしょうしね~」
佑梨の出した結論に、全面的に賛成する正樹と命。
こうして、せっかく入り口のスライムを排除したというのに、またしても採取作業にいそしむことになる正樹たちであった。
頑張って候補をひねり出して、さいころ振ったら海でした。
どうも最近、さいころの神様と佑梨の守護神が結託してんじゃねえか感がすごい。
なお、さいころ判定次第ではショッピングモールで水着が買えるようになる前に海水浴に必要な施設が全部そろう可能性がありますが、それ以上に先に佑梨の専用装備2が完成しそうな雰囲気だったり。
佑梨の専用装備2が先に完成した場合は、間違いなく佑梨の守護神が、水中用装備とかほざいて着用するたびにデザインが違う水着を形態変化先に追加するんだろうなあ……




