第18話 初心者向け異界:辛口 七日目 七日目開始
「やっと、まともに攻略を再開できそう……」
「これで、入り口フロアに隣接してるフロアに残りの二体が居座ってたら、またしばらく死に戻りを繰り返すことになりそうですよね……」
「今度はメタも張れてないし、自然回復を防ぐ手段も今のところなさそうだしね……」
「樹木系のほうは除草剤的なアイテムのレシピが出れば行ける可能性がありますが、触手のほうは本気で今のままだと勝ち筋がないですよね……」
七日目の朝。入り口にモンスターがいないことを確認し、いよいよ異界攻略に本腰を、という状況で、どうしようもなく不安に駆られる正樹と佑梨。
スキルによって軽減されているとはいえ、やたら強いスライムに入り口に居座られ、何度もひどい目にあわされたトラウマはそう簡単に癒えるものではないようだ。
「まあ、今日のところは宝箱を回収して戻ってくることを目標にすればいいんじゃないかしら~」
「……そうだね、そうしよう」
「何気に、今まで一度も成功してませんからね……」
命に言われた目標に、遠い目をしながら同意する正樹と佑梨。
普通ならおおよそ失敗しようもないレベルの目標だというのに、とんでもないイレギュラーのせいで七日目に至ってもまだ成功していない。
しかも恐ろしいことに、まだ複数のイレギュラーが元気に徘徊しているため、確実にクリアできるとは断言できない。
いくら辛口といえど、単に第一層を半周して戻るのがここまで高いハードルになるのは、なかなかにレアなケースである。
なお、前代未聞という訳ではなく、出てくるモンスターこそもっと控えめなれど、百年に数人は同じような目にあっていたりする。
「……余計なことを言うとフラグになりそうだから、今日はもうこのまま突入しよう」
「そうですね」
これ以上変な苦労をさせられてはたまらないと、さっさと異界に突入する正樹と佑梨。
その後ろ姿を見送りながら、命が念のために声をかける。
「今更使いそうなものはほとんど採れないでしょうけど~、ちゃんと採取ポイントも全部つぶしておくのよ~?」
「分かりました!」
「むしろ、雑草的な意味で必須だよね」
命の忠告を聞きながら、入り口フロアに入ってチェックする佑梨と正樹。
こうして、ようやくまともな異界攻略を再開できるのであった。
「……う~ん……」
「見事に薬草と毒消し草だけですね……」
二つ目のフロアを終え、渋い顔でうめく正樹と佑梨。
久しぶりのヤシの実トラップを回避し、宝箱の代わりとばかりに大量に配置された採取ポイントを全て採取し終えたというのに、結果は芳しいものではなかった。
「やっぱり、反対側のほうがよかったんでしょうか?」
「かもしれないんだけど、ちょっと嫌な予感がしたんだよね……」
採取ポイントのアイテムは、採取作業が終わった瞬間にランダムで決まる。
その原則を踏まえてなお、アレすぎる結果にぼやく佑梨に対し、本気で嫌な顔をしてそう言い切る正樹。
佑梨の専用装備2だけでなくいくつかの施設内施設を解放しているので、雑草の入手を阻むイチタリナイは撃退できたものとばかり思っていたのだ。
なお、入り口フロアからは左右に一本ずつ道が伸びており、今回は入り口から見て右側の通路を進んでいる。
「まあ、不発だったのはしょうがない。次のフロアへ行こうか」
「そうですね」
嘆いたところで結果は変わらないので、諦めて次のフロアへ移動する二人。
何気に最初に来たときは一本道だった通路に分岐ができているが、異界というのは基本的にそういうものらしいので気にしないことにしている。
今回は分岐を無視して、正面に見えているフロアへ向かうことにする。
「……六日ぶりだからか、宝箱のグレード上がってるっぽくない?」
「……内容が固定されている感じのものはありませんが、全体的に豪華な感じですよね」
キラキラしいデザインの宝箱がずらっと十六個並んでいるのを見て、顔が引きつる正樹と佑梨。
単に異界に入るためだけに、えげつないにもほどがある試練を乗り越えさせられた結果、あまりおいしい報酬があるとむしろ警戒してしまうようになってしまったのだ。
「……なんかあの金色に輝いてるやつとか、非常に怖くない?」
「怖いですね……。あれの中身が、というより、中身をもらったことによる試練の内容が……」
「かといって、あえて開けないことを選んでも、多分試練が緩くなることはないんだろうなあ……」
「つまり、詰んでますね……」
「詰んでるね……」
宝箱についての共通見解を得て、大きくため息をつく正樹と佑梨。
どれほどえげつない内容だろうと、突破できない試練が発生することはないだろうと腹をくくる。
「後回しにしててもしょうがないし、素直にあれを開けるよ」
「はい。お願いします」
そう宣言して慎重に、明らかに他とは一線を画す豪華さの宝箱に手をかける正樹。
そのまま開けるなんて不用心なまねはせず、当然のごとく罠と鍵をチェックする。
「……罠は大丈夫そうだけど、鍵がかかってる。多分これ、専用の鍵でないと開かないタイプだ」
「鍵、ですか?」
「うん。この中にあるパターンか、それとも別のフロアに置いてあるパターンか……。とりあえず、他を全部開けてからにしよう」
「そうですね」
開けられないものは仕方がないので、まずはできることを済ませてから考えることにする正樹。
そのまま、片っ端から罠と鍵をチェックして開けていく。
残りの全十五個のうち、罠と鍵が両方かかっていたのが一つ、罠だけが五つ、鍵だけが三つ。
ストレートに開けられたのは合計六個と、多いと見るか少ないと見るか見解が分かれそうな数であった。
ちなみに、所詮最初に侵入する可能性がある種類の初心者向け異界の一層目なので、先ほどの金箱のようなギミック式でない限り、斥候クラスを持っていれば罠と鍵はたやすく外せる程度のものでしかない。
これが激辛以上だと専用のジョブかスキルがないと厳しいのだが、辛口以下だとこんなものである。
「素材が全部で二十個、スキルが十二、ジョブとクラスが二つ、アビリティが八でタレントが四。ただし、素材は今のところ、専用装備にも専用施設にも使えない、と」
「後は、正体不明の鍵ですね」
「罠と鍵がかかっていた箱から出てきたことだし、多分あの金箱を開けるための鍵だろうね」
「でしょうね」
そう言いながら、拾った鍵を挿しこんでみる正樹。
予想にたがわず鍵が素直に開錠され、派手な光とともにあっさり宝箱が開く。
「……ものすごくまぶしかったけど、中身はエクストラメモリーが一つ、か」
「なんとなくですけど、専用メモリーのような気がします」
「うん、僕もそんな気がしてる。ちょっと確認しよう」
そう言って、佑梨にメモリーを渡す正樹。
渡されたメモリーを、エクストラソケットに挿せないか確認する佑梨。
無情にもメモリーは佑梨を拒否したため、正樹のもので確定する。
「正樹さんのものですね」
「了解。じゃあ、フリーソケットも割とひっ迫してるから、サクッと挿しちゃおう。ついでに、不利益が出ないクラスメモリーも一個ずつやっちゃおうか?」
「そうですね」
思った以上に大量の収穫物に、少しでもフリーソケットの空きを確保するためそう決める正樹と佑梨。
先ほどの採取物が三十個ぐらいあり、最低でも分岐の先を確認してから帰ることを考えると、ここで得たメモリーは一つでも減らしておきたいところである。
「じゃあ、先にクラスから。……魔法クラスだった」
「わたしもです」
「そっちがよかった、みたいな感じでもめなくて良かったと見るべきか、物理不在を不安に思うべきか……」
「そこはもう、物理クラスが必須のジョブを拾ってから考えましょう」
「そうだね。で、肝心のエクストラメモリーは……、え~……」
「何が解放されたんですか?」
「……専用施設2……」
「……お互い、1もまだ実質的に機能してない感じなのに、もう2ですか……」
ランダムだからしょうがないとはいえ、またしてもいろいろ重たそうなものが出てきて、頭を抱えそうになる正樹と佑梨。
宝箱の開封演出も考えると、絶対に規模が大きい類である。
「それとね、佑梨ちゃん」
「なんでしょうか?」
「宝箱から出てきた素材、どうも専用施設2の解放に使えそうなんだ……」
「……いやな予感しかしません……」
「だよね~……」
明らかにやばい情報に、疲れた顔になってしまう正樹とだんだん目が据わってくる佑梨。
どう考えても、この後待つのは特大の試練である。
「正直、僕たちだけでこの情報を抱え込めないから、分岐の先を確認したら一度戻ろう……」
「そうですね……。専用施設2の解放って、今ある素材でできちゃうんですか?」
「全部使えば、ちょうど解放できるっぽい」
「だとしたら、命さん立ち合いの下でやっちゃったほうがいい気がします」
「僕もそう思う……」
お互いに見解の一致を見て、そそくさと宝物庫を出ていく正樹と佑梨。
分岐の先はまたしても大量の採取ポイントがあり、その真ん中で小さなスライムがぽよぽよ跳ねていたが……
「もはや、普通のスライムじゃ一切ダメージを受けませんね……」
「辛口難易度でも、通常モンスターはこんなもんなんだね……」
半分ぐらいは一応厄介な側の仕様だったにもかかわらず、完全にメタを張っている佑梨の手によって雑に始末されてしまう。
「……専用施設2が追加されたせいか、あっさり雑草が出ましたね……」
「……しかも、狙ったようにフリーソケットをきっちり食いつぶす数だし……」
「じゃあ、先に農場を解放しておきます?」
「そうだね」
佑梨の提案を受け、待ちに待った雑草を農場のソケットに挿しこむ正樹。
挿しこんだ瞬間、「整備中」の文字とともに7200秒のカウントダウンが始まる。
「……即座に解放されるわけじゃないらしい。7200秒って数字が出てきて、1秒ずつ減ってる……」
「そうなんですか……」
「多分これ、他の施設も同じパターンで解放に何時間かかかるんだと思う。それも、だんだん待ち時間が長くなっていく形で……」
「そういえば、農場経営系のゲームって、施設や設備のグレードアップに待ち時間がかかるものが多いですよね」
「そうだね。ただ、その手のゲームって、最初のほうは5秒とか30秒とかだと思ったけど……」
「さすがに初手2時間は、ゲームだったら大体のプレイヤーが投げそうですね」
「だよね……」
どう考えても長すぎる要求時間に、そう突っ込むしかない正樹と佑梨。
現実に利用可能な農場が、荒れ地からたった2時間で整備完了すると考えるととんでもない話だが、システムがゲーム的すぎることもあってどうにも釈然としないところが出てくる。
「でも、2時間ですか……」
「何?」
「いえ、今から帰ってお昼食べていろいろやってたら、割とすぐかもって」
「ああ、かもしれない」
なんだかんだで一つのフロアに30分ぐらい時間を使っていることもあり、戻れば昼食の準備を始めるのにちょうどいい時間である。
その後で各種メモリーの配分を決めたりしていれば、普通に解放時間になるかもしれない。
「それに、仮に用事を全部済ませても解放時間にならなかったとして、30分ぐらいだったら採取場を周回すればすぐつぶせますし」
「そうだね。素材はあるに越したことはないし」
佑梨の言葉に、それもそうだと納得する正樹。
うまくいけば、帰還報酬で専用装備1が解放できるかもしれない。
そうなると、専用装備に専用施設にと、またしても大量に素材が必要となる。
佑梨が錬金術で素材を作れるようになってきたので、採取場で採れるものはいくらあっても無駄にならない。
「じゃあ、早めに帰ろう」
「はい」
これ以上余計なフラグが立つ前にと、そそくさと入り口に戻る正樹と佑梨。
さすがに同じ展開が何度も起こることはなく、無事に拠点エリアへと戻ってくることに成功する。
「……よかった、ちゃんと戻ってこれた……」
「……ですね。ただ問題は……」
「次から、嫌な予感がするほうへ行かなきゃいけないことだよね……」
「さっきの宝箱のことを考えると、多分どっちか、もしくは両方を相手にしなきゃいけない流れですよね……」
「だろうね……」
右側通路の先が全て行き止まりだったことに、表情が曇る正樹と佑梨。
どうやらまたしても何度も死に戻ることになりそうだと悟り、いっそ引きこもって採取場の周回に徹しようかと日和った考えが頭をよぎる二人であった。
よくあるスローライフ系とか放置系農場経営ゲームだと、施設の開放やレベルアップに莫大な資源と指数関数的に長くなる建築時間が要求されるのはお約束、ということで。
とりあえず、そろそろ一回ぐらいは専用施設に入ってもらいたい今日この頃。
特に正樹のは資源の生産が絡む上に、施設内施設に生活のクオリティをガッと上げる滞在系施設も多いですし。




