第16話 初心者向け異界:辛口 六日目 スライム討伐
「あと20%ぐらいね~」
六日目の午後三時。異界入り口。
この日最後の挑戦前に、命がスライムの状態を教えてくれる。
午前中の佑梨の頑張りで、スライムは人間一人を完全に包み込むには足りないサイズまで縮んでいた。
「ここまで小さくなると、窒息死の心配はほとんどなくなりますね」
「そうだね」
ずいぶん小さくなったスライムに、今度はヒットアンドアウェイ的なやり方が出来そうだとうなずく佑梨と正樹。
実際問題、午前中に育ちに育った超再生の影響で、単に締め上げられるだけでは佑梨は死ななくなっている。
さらに、酸と締め付けに散々さらされたからか、ひそかに新しいスキルとして、酸耐性と締め付け耐性も習得している。
なお、無効化されているからか、溶解耐性は習得していない。
「それじゃあ、スライム駆除薬の備蓄は十分かしら~?」
「500あれば十分なはず」
「ですね。わたしが与えるダメージも増えてますし」
「そっか~。じゃあ、頑張ってね~」
準備に関して確認し、そんな感じで緩く二人を送り出す命。
命の言葉を受け、互いに顔を見合わせて一つうなずく正樹と佑梨。
そのまま覚悟を決めて異界に突入する。
こうして、対スライム戦は、最終ラウンドを迎えるのであった。
「よし、抜けた!」
二手に分かれての突撃で、うまい具合にスライムの横をすり抜けた正樹と佑梨。
そのまま、十分に攻撃がよけられるだけの距離を取って、戦闘を開始する。
「攻撃開始します!」
「こっちも始める! 気を付けて!」
「はい! 正樹さんも!」
お互いに声を掛け合い、挟み撃ちにする形でスライム駆除薬を投げつける佑梨と正樹。
かなり的が小さくなっているが、斥候系のジョブは種類に関係なく投擲武器を当てることに関してはプロフェッショナルであり、アイテムユーザーは使いたいアイテムを使いたい場所に確実に使用できる能力を持つ。
故に、中型犬未満の大きさになったとはいえ、本体のスピードそのものは大して速くもないスライムに薬を叩き込むぐらいは難しくもない。
もっとも、速くないのは本体のスピードであり、攻撃のために伸ばす触手はかなりのスピードなのだが……
「あっぶな!」
「大丈夫ですか!?」
「大丈夫! これだけ距離があれば、さすがによけられる!」
本体からまっすぐ伸びてくるだけ、かつちゃんと見ていれば分かるぐらいに予備動作があるので、十メートルも離れていれば普通によけられる。
時々投げたスライム駆除薬が触手に迎撃されるが、その触手もスライムの一部だ。
どういう原理か、薬が全部かかっていないはずなのにダメージそのものに違いは見られない。
「使い切りました!」
「了解! 囮やっとくから、急いで補充!」
「はい!」
戦闘開始から約二分。
佑梨の手持ちがあっさり尽きる。
「さて、ここからが正念場!」
佑梨が出て行ったのを確認したところで一度攻撃の手を止め、できるだけ入り口から引き離すように移動する正樹。
正樹を捕まえようとずりずりと近寄りながら、次々と触手を伸ばしてくるスライム。
スライムの攻撃を必死になって避け、時々牽制も兼ねて薬を投げつけ、とにかく時間を稼ぐ正樹。
攻撃を止められないかと、予備動作や起こりの瞬間に薬を叩きつけてみたが、どうやら全く威力補正がない正樹では多少の遅延が限界で、攻撃の妨害はできないらしい。
永遠にも感じる三十秒が過ぎ、そろそろ逃げる先が難しくなってきたところで、入り口方向から連続でスライム駆除薬が飛んでくる。
「お待たせしました!」
若干息を弾ませながら、スライム駆除薬を投げつけつつ叫ぶ佑梨。
佑梨の声に反応し、ピンチを脱出すべく入り口方向へ駆け抜ける正樹。
「助かった!」
「お疲れ様です!」
「ついでに、残弾30切ったから、軽く補充してくる!」
「はい!」
ちょうどいいタイミングだからと、入れ替わりで薬の補充に移動する正樹。
手持ち的に、補充なしだと同時に弾切れを起こしそうだと判断したのだ。
「えい、えい!」
薬が当たれば動きが止まるのを見て、足を止めてスライムに攻撃を続ける佑梨。
正樹とは違い薬で相手の攻撃をつぶせるので、攻撃の予備動作に合わせて叩き込んで時間稼ぎをする方針に決めたようだ。
当然薬が間に合わず攻撃を許すこともあるが、弾幕のように飛んでくるならまだしも、単発なので回避するのも難しくはない。
最悪、仕切り直しでもいいと割り切っているからこそできるやり方である。
じっくり観察しながらそんな時間稼ぎを続けているうちに、スライムの挙動がおかしくなっていることに気づく。
「何もしていないのに、攻撃しようとして動きが止まる……?」
薬が間に合わないタイミングでの予備動作が、たまに薬の直撃を受けたかのような挙動で止まることがあるのだ。
原因は分からないが、別に困ることではないので、そのまま観察を続けながら攻撃をつぶす形で薬を叩き込み続ける。
手持ちを使い切りそうになったタイミングで、正樹が復帰する。
「佑梨ちゃん、交代!」
「はい! 残りを使い切ったら補充してきます!」
そう言って、豪快に連続で薬を投げつけて、フロアを出ていく佑梨。
それを援護するため、注意を引くように薬を叩き込む正樹。
あっという間に攻撃範囲から離脱した佑梨をあきらめ、狙いを正樹に絞るスライム。
戦闘は、実に順調に進んでいた。
「……これ、薬足りるのかな……」
戦闘が順調に進みすぎていることに、ふと不安を覚える正樹。
なんだかんだですでに100以上、薬を消費している。
次に正樹が補充に行けば、恐らく在庫が300を切ることになる。
相手がスライムなので分かりづらいこともあり、効いていることは分かっても、どれぐらい弱っているのかがはっきりしない。
というより、今回の戦闘が始まってから、特に様子が変わったように見えないのだ。
「もしかして、僕が参加しないほうがよかった……? いや、でも、さすがにずっと佑梨ちゃん一人にゾンビアタックさせるのは……」
不安に駆られながらも、時間稼ぎのために攻撃を叩き込む正樹。
ちょうどスライムの予備動作が不自然に止まったタイミングで薬が直撃し、唐突にスライムの体が半分はじけ飛んで消滅する。
「えっ?」
いきなりのことに驚きつつも、反射的に追撃を叩き込む正樹。
追撃は特におかしな効果を見せるでもなく、普通にスライムの表面を少し削るにとどまる。
だが、先ほどのダメージがものすごく大きいからか、スライムはピクリとも動かない。
もっとも、これで死んでいるとは到底思えないので、油断せず、だが使いすぎないよう注意しつつ薬を叩き込み続ける。
そこに、補充が終わった佑梨が戻ってくる。
「戻りました!」
「見ての通り、いきなりスライムがはじけ飛んで今の大きさになった!」
「そんなことが……」
正樹の報告に不思議そうに首をかしげながら、行きがけの駄賃とばかりに薬を叩き込む佑梨。
その薬がまたしてもスライムを大きくはじけさせる。
「「えっ?」」
あまりに意味不明な現象に、今度こそ完全に動きが止まる正樹。
佑梨のほうも、自分が見た現象が理解できなくて固まってしまう。
二人が固まっている間も、何もしていないのにスライムの表面がちょっとずつ削れていく。
「……もしかして、だけど……」
「……はい」
「スライム駆除薬に、持続ダメージが付いてるんじゃないかな?」
「……そんなはずはないですけど……」
目の前で起きた現象に、そんな考察をする正樹と佑梨。
起こっている現象的には、スライム駆除薬に持続ダメージが付いていると考えたほうが自然である。
が、少なくともアイテムの説明には、持続ダメージありとかそういった内容は一切なかった。
実際のところ二人にとって都合がいい事なのでどうでもいいと言えばいいのだが、正体が分からないと不気味すぎて、このまま頼ってしまっていいのかが判断できない。
「……追及は後にして、スライムがおとなしいうちに仕留めてしまいましょう!」
「ああ、うん。そうだね!」
下手な考え休むに似たりと、いろいろ割り切って総攻撃に移る佑梨と正樹。
途中正樹の手持ちが危険領域に入り、補充のために離脱したところでスライムが最後の悪あがきをしてくる。
今までにないほどのスピードと勢いで、佑梨に飛びついたのだ。
「きゃっ!?」
いきなりのことで回避に失敗し、胸元にまとわりつかれる佑梨。
もはや限界まで体を伸ばしても佑梨をベアハッグ的な形で締め上げることはできないため、必死になって酸で溶かそうと頑張る。
それと同時に、少しでもダメージを与えるために、締められるところは締めるよう体を縮めていく。
スライム自身にそのつもりは一切ないだろうが、やっていることは完全にエロスライムの挙動である。
「ぐう……」
痛みと羞恥にうめきながら、胸元にスライム駆除薬をかける佑梨。
今まで容器ごと投げつけていたが、薬そのものは液体なので普通にかければちゃんと効果は出る。
いくらゲームっぽい部分が多いと言っても、さすがにそのあたりは現実と変わらないのだ。
「佑梨ちゃん!」
「薬ください! 多分引きはがさないと脱出できません!」
「分かった!」
佑梨の状況を見て、迷わずにスライム駆除薬をメモリーのまま取り出して佑梨に投げ渡す正樹。
正樹からもらったメモリーを手早くセットし、どんどん取り出してかけていく佑梨。
かけられるたびに死力を振るって締め上げながら溶かそうとするスライム。
残念ながら佑梨の肉体を溶かすまでには至らないが、巫女服はじわじわと損傷していく。
今となってはスライムが与えるダメージを佑梨の再生能力が上回ってしまうため、単なるエロ攻撃以上にはなりえないのが悲しいところである。
せめてもの救いは、変な言い方だが普通にちゃんとしたモンスターだったため、薄い本に出てくるエロスライムのように女性を発情させたりといった能力がないことだろう。
もっとも、そうでなければ初日の佑梨の末路は、それこそ小学生が迎えてはいけないものになっていただろうが。
「いい加減……! 諦めてはがれなさい……!」
正樹が初めて聞く怒りの声で、露出したコアをつかんで引っ張りながらスライム駆除薬をかける佑梨。
それを見て、もはや自分が殴られることはあるまいと判断し、近くまで行って一緒に薬をかける正樹。
その二人の共同作業がとどめとなり、コアが割れて消滅する。
それと同時に佑梨にまとわりついていたスライムの破片もすべて消え、後には戦利品であろうメモリーがいくつか残される。
「「よし!!」」
準備も含めて計六日。正樹と佑梨は、ついに異界の入り口を封鎖していたスライムの討伐に成功したのであった。
「長かったし、いろんな意味でしんどかった……」
「そうですね……。なんだかんだで、わたしも正樹さんも二回、苦しむ形で殺されてますし……」
「佑梨ちゃんは、二回どころじゃないような……」
「でもわたしの場合、途中から自滅アイテムで苦しまずに死に戻ってますし。それに、耐性とか超再生の影響だと思いますけど、実は締め上げられてるときもそこまで痛くなかったんですよね」
「いや、そういう問題じゃないと思う……」
そう言いながら、落ちていたメモリーを全部拾い、振り向いたところで佑梨の惨状に気が付く正樹。
最後のスライムの無駄な頑張りにより、佑梨の胸元はほぼブラのみ、それも片側はもう少しでちぎれ落ちてポロリしそうな状態になっていたのだ。
水着よりも大胆にさらされた深い谷間や、もうちょっとで全体が見えそうな感じの胸の頂が、非常に目に毒である。
「あっ、ご、ごめん!」
「えっと何が……、あっ……」
正樹が慌てて背中を向けたことで、自分の状態に気が付いて、思わず真っ赤になる佑梨。
どことなく羞恥心が薄い彼女でも、ほとんど裸みたいなこの状態はさすがに恥ずかしいらしい。
『キャ~、エッチ~(・∀・)ニヤニヤ』
「楽しんでますよね、神様!」
『こういうラブコメチックなエロトラブルでニヤニヤするのは、淑女のたしなみ』
「そんな淑女のたしなみは知りません!」
非常に趣味の悪い神託で茶々を入れ、佑梨をからかう守護神。
真正面から守護神にかみつく佑梨。
狙ってやったかどうかは不明ながら、守護神の茶々入れのおかげで妙な空気になることは避けられた正樹と佑梨であった。
あとがき
思ったよりあっさり倒せたように見えたあなた。
シンプルに相手にマイナス補正がかかっていた+強敵補正でジョブやスキル、アビリティの成長が速かっただけです。
なお、マイナス補正はHPだけで、攻撃力は据え置き。
佑梨が専用装備2でメタ張ってないと、結局こんな短期間ではまともな勝負ができる土俵にすら立てません。
16話開始時点でスライムが小さかった理由は、とりあえず次の中間リザルトのQ&Aに入れておきました
余談ながら、神様の飼ってるおっさんは、こういうラッキースケベ的中破絵は大好物ですが、本番シーンはまだノーセンキューぐらいの感じです。
デバガメするにしても、もっと大人になってから、かつラブラブエッチを見届けるのが筋、みたいな。




