第17話 初心者向け異界:辛口 六日目 六日目終了
「それじゃあ、スライム討伐、お疲れ様~」
六日目の夕食時。
たくさんのごちそうを用意した命が、にこやかにそうねぎらう。
「いいんですか、こんなに?」
目の前に並んだ、旅館の懐石料理もかくやというごちそうの数々に、不安そうに佑梨が聞く。
「大丈夫大丈夫~。二人に解放してないってだけでね~、この神社にもいい食材が手に入る施設はいくつもあるのよ~」
「それはなんとなく察してますけど……」
「誰にどの程度のものを食べさせるかとかはね~、管理者である私の権限のうちだからね~」
そう言いながら、手元の徳利からお猪口に清酒を注ぎ込む命。
何気に、正樹と佑梨の前で飲酒するのは初めてである。
「という訳で、二人が厄介なスライムを自力で仕留めたことを祝して、かんぱ~い!」
問答無用とばかりに、酒を注いだばかりのお猪口を掲げて乾杯を宣言する命。
「あっ、うん、乾杯!」
「乾杯……」
いまいち命のテンションについていけず、ちょっとやけくそ気味にジンジャーエールが入ったグラスを掲げる正樹。
それに付き合うように、同じくジンジャーエールが入ったグラスをおずおずと掲げる佑梨。
こうして、なし崩しに宴会のようなものがスタートした。
「それにしても、ちゃんと二人が勝ち筋をたどってくれてよかったわ~」
「多分あれしか勝ちようがないとは思ってましたけど、やっぱりそうだったんですか」
「そうね~。多分だけど、よほどスライムに特化した効果でも持ってない限り、専用装備1が解放されてても殺しきるのは難しかったでしょうね~」
そう言って、先付の紅白なますを一口食べて、くいっとお猪口を傾ける命。
今まで控えていた影響もあってか、かなりいい飲みっぷりである。
「実際のところ、錬金術師のジョブも佑梨ちゃんの専用装備2もなかった場合、勝てる可能性ってあったの?」
「ゼロではないけどね~。採取場の宝箱で戦闘向けのジョブを引いて、二人とも専用装備1と専用施設の施設内施設を全部解放して、そのうえでまともに戦えるようになるまで何万回単位で挑んで殺されてようやく可能性が出るかも、って感じだったかしらね~」
正樹の質問に、なかなかえげつない答えを返す命。
とはいえ、予想していた答えだったので、聞いた正樹もやっぱりそうかとしか思っていなかったが。
「ちなみに、佑梨ちゃんの専用装備2がスライムにメタを張ってなかった場合はね~、勝ち筋としては正樹君が溶かされてる間に佑梨ちゃんがスライム駆除薬を叩き込めるだけ叩き込んで、数千回から数万回殺されながら地道に削っていく感じになるわね~」
「それだと、一回のチャレンジでよくて二発ぐらいしか薬を叩き込めないんじゃないでしょうか……」
「最初のほうはそうでしょうね~。とはいえ、一応は初心者向け異界だから、十回も溶かされたら酸耐性と溶解耐性のスキルを自然習得すると思うわ~」
「つまり、わたしの専用装備はその時間と回数を短縮してくれた、と……」
「そうなるわね~。実際のところ、ああいう防ぎにくい攻撃に対する耐性を盛ってくれる装備って、すごく重要なのよ~」
佑梨の専用装備2に対して、しみじみとそう語る命。
これまでの言動からすると、まともに死んだことはないらしい命だが、それでもいろいろ苦労はしてきているようだ。
「ゲームだと最終的にそういう防具のほうが欲しくなるイメージだけど、やっぱり異界でもそうなの?」
「そうね~。直接的な攻撃力とか防御力ってね~、ジョブとかスキル、アビリティで割と順調に伸びるのよ~。でも、今回のスライムみたいなの相手だとね~、相手の特性とか耐性を貫通したり無効化したりできる攻撃手段と、相手の攻撃を問答無用で軽減・無効化できるタイプの防御力がないとね~」
「ああ、うん……。すごく分かる……」
刺身のマグロを食べながら、そんな話をする正樹と命。
実際の話、種類に関係なくジョブはレベルが上がると、必ず何らかの能力値が上がる。
また、鑑定とステータス画面、ヘルプ機能の三つをそろえた上でステータス画面のレベルを上げないと分からないことなのだが、一度習得したジョブはジョブソケットから外していても、能力値と関連スキルおよびアビリティに習得レベルの5%分ほど補正をかけてくれる。
スキルやアビリティにも能力値をサブの効果で能力値が伸びるものは結構ある。
そういった要素の積み重ねで、攻撃力や防御力といった能力値そのものは、割と勝手に伸びていくのだ。
が、ダメージをダイレクトにカットする耐性関係に関しては、習得そのものも難しければ育てるのもきつい。
耐性や防御力の貫通・無効関係の攻撃に至っては、宝箱からそういう機能のある攻撃スキルかそのものずばりのアビリティを拾わない限り、自力習得はまず不可能である。
もっとも、いくら難易度辛口とはいえ、初心者向け異界の第一層でそんな装備や能力が必要になっていること自体がかなりおかしいのだが。
「あの、さっきの最後の戦闘中、スライムがおかしな挙動をしてたんですが、何か理由があるんでしょうか?」
「私は戦闘の様子を見てなかったけど、何がおかしかったの~?」
「攻撃が入っているわけでもないのに動きが止まったり、攻撃しようとしたかと思ったらいきなり大きくはじけ飛んだりしていました」
「ん~、そうね~……。攻撃されてないのに動きが止まるのは、持続ダメージとノックバックがセットになってるときの挙動ね~」
「やっぱり、持続ダメージが怪しいですか。でも、スライム駆除薬にはそんな効果は書いてませんけど……」
「アイテムユーザーのレベルが上がったからだと思うわ~。レベルが上がるとジョブ特性で、アイテムの機能拡張っていう能力を覚えるのよ~」
茶碗蒸しを食べていた佑梨が、ちょうどいい機会だからと気になっていたことを質問する。
その佑梨の質問に、少し考えてから思い当たるところを教える命。
やはりというか、アイテムの効果が増えていたようだ。
「アイテムがどの程度強化されてるかとかって、やっぱり鑑定がないと分からないの?」
「基本的には、分らないわね~。佑梨ちゃんの場合は錬金術師とアイテム知識のレベルがもっと上がれば、大雑把には分かるようになると思うけど~」
「僕たちの場合、佑梨ちゃんのジョブとスキルが上がるのと、鑑定を覚えるのとどっちが先になるんだろう……」
「多分だけど、正樹君たちの場合は佑梨ちゃんが先かな~。ただ、根本的な話としてね~、そもそもアイテムの情報が多少なりとも分かるようになるほうが珍しかったりするのよね~」
「やっぱりそうなの?」
「そうね~。というかね~、基本的には、アイテム情報が分かるようになる前に、異界に迷い込まなくなる人のほうが多いわね~。何しろ、鑑定アビリティもしくはアイテム関係のジョブとアイテム知識スキルをピンポイントで拾わなきゃいけないわけだしね~」
なかなかにしょっぱい情報をくれる命に、正樹が思わず渋い顔をしてしまう。
そこに、佑梨がおずおずと口を挟む。
「あの、わたし、アイテム知識なんてスキルは持ってないんですけど……」
「アイテムユーザーと錬金術師の両方のジョブ取得スキルに含まれてるわ~。素材関係と作れるものに限定するなら、分かる範囲は錬金術師のほうが広いわね~。アイテムユーザーだと、使用可能アイテム以外はあんまり情報が増えないのよね~」
「あの、ジョブに含まれているっていうことは、ジョブを外すと分からなくなるっていうことでは……」
「それがね~。ジョブ取得スキルって、使ってるとそのうち取得状態になるのよね~。だから、アイテム知識の場合、精度は見る影もないほど落ちるけど、全く分からなくなるってことはないわね~」
「そうなんですか?」
「そうなのよ~」
佑梨の疑問に答える形で、アメイジングメモリーの意味は? といいたくなるようなことを言ってのける命。
そのことを突っ込もうとしたタイミングで、佑梨に対して神託が下る。
「……え~……」
「あらあら~。暇になって、何か神託を下したっぽいわね~」
「……分かるんですか?」
「それはそうよ~。だってここは、私が管理する神域なんだし~」
神託が来たことを、即座に看破する命。
その理由を聞き、それはそうだと納得するしかない佑梨。
それ系の能力を一切持っていない正樹は、完全に置いてけぼりである。
「それで、何を言われたの~?」
「えっとですね……。『練習でスキルが自力習得できるんだから、ジョブ取得スキルも習得できて当然』だそうです」
「まあ、そういうことね~」
「言わんとしていることは分るんですが、ちょっと釈然としないというか……」
「そもそも、スキルのアメイジングメモリーって何の意味が、みたいな話だよね……」
「言うまでもないことかもしれないけど~、アメイジングメモリーで習得するほうが圧倒的に速いわよ~」
釈然としない部分を口にする佑梨と正樹に対し、そりゃそうだろうとしか言いようがないことを言ってのける命。
それだけだと何のフォローにもなっていないと判断したのか、さらに補足説明を入れる。
「そもそもね~、ジョブ取得スキルから習得したスキルって、メモリーや自力取得に比べると成長が遅いのよ~。言ってしまうと、ジョブレベルを超えてスキルレベルをあげられるようにするための救済措置みたいなものだしね~」
「ジョブレベルを超えられないと、何か困るんでしょうか?」
「ジョブレベルをあげるとジョブ特性を覚えていくんだけど~、大体ジョブ取得スキルのレベルで効果が上がるのよ~」
「ああ、そういう……」
「そもそも、ジョブのレベル自体、クラスレベルまでしか上がらないから、いろいろ頭打ちになりやすいのよね~」
ジョブ取得スキルに関する補足を、こまごまとした裏話やスキルを習得できない場合の問題点も込みで一通り説明してから、困ったものだとため息をつく命。
そこに、神からまたしても神託が。
「えっと、また神託がありまして、『でも結局一番の理由は、システム仕様を統一するためだったりする』だそうです」
「まあ、そうでしょうね~」
「後、もう一つ神託があって『アメイジングソケットができた理由とか誰が作ったかとか全部知ってるけど、諸般の事情で秘密』だとのことです」
「というか、それってどう考えても世界の根源とかそういう話になるから、教えられても困るわよね~」
「うん、間違いなく困る」
唐突に下されたヤバげな神託に対し、困った顔でそう言うしかない命と正樹。
強キャラ感を漂わせまくっている命を困らせるあたり、さすがは神といったところか。
「そういや、ジョブ取得スキルから習得したスキルと同じメモリーを後から手に入れた場合、そうすればいいの?」
「それはシンプルに、対応するソケットかエクストラソケットに挿しこめばいいのよ~。それで1レベル上がって、メモリーで習得したものと同じ成長速度になるわ~。これはジョブ取得スキルだけじゃなくて、取得済みのもの全部に共通ね~」
「へえ~」
「成長の才能とか羽虫除けとかみたいに、レベル以外にランクがあるアビリティとかタレントの場合、それでランクが上がることがあるわね~」
「ああ、そうやってランクを上げていくんですか」
「まあ、シンプルにカンストさせたうえで拠点の施設を使うのが、一番確実にランクを上げられるんだけどね~」
ちょうどいい機会だからと、知っておいたほうがよさそうな話を片っ端からしていく命。
それを聞いて、いい話を聞いたと喜ぶ正樹と佑梨。
「ちなみにこれは言うまでもないかもだけどね~、同じスキルやアビリティ、タレントの上位ランクをセットした場合、熟練度を引き継いだ状態で上書きされるわよ~。成長テーブルが違うから一時的にレベルは下がるけど、効果自体は最低でも同等以上だから安心してね~」
「そこはちゃんと強化されるんだ」
「単純な上位互換の場合はね~。別の効果が追加されたりとかだと、また話は変わるけど~」
「スキルやアビリティが統合されたりとかって、あるんですか?」
「基本的にはないと思っていいわね~。例えば料理の場合だと、料理スキルは総合的な腕前、家庭料理とか野外料理とかは得意なカテゴリー、みたいな感じで別々になるわ~」
「だとすると、わたしの成長の才能・体格体形(やや弱め)の場合は、別の成長の才能を覚えてもこのまま残るんですか?」
「それに関しては、成長の才能・全般を覚えると統合されるわね~。多分だけど、成長の才能・全般と複合すると、とんでもなくいびつなことになるからじゃないかしら~」
「あっ、神様が教えてくれました。体格体形とかと全般(極)が同時に作用すると、場合によっては異形としか言いようがない状態に育ってしまうからだそうです」
「やっぱりそんなところよね~」
ごちそうを食べながらの説明会は、神託により命の知らなかった情報も時折出てきたりもしながら、和気あいあいと和やかな雰囲気で進んでいくのであった。
結局入れられなかったので、4日目~6日目までに採取場の宝箱から入手したメモリーを挙げると
4日目:将棋、囲碁
5日目:トランプ、リバーシ
6日目:花札、麻雀
という、娯楽をつぶしにかかるスキル類だったので、同じものが出ない限りは習得しない方針になりました。
だって、覚えたほうが圧倒的に強くなって、ゲームが成立しなくなるんですもの。
そうでなくても娯楽が減ってるのに、勝負が成立しなくなるレベルで強化されちゃうとねえ……。




