第13話 初心者向け異界:辛口 専用装備2 その1
「さすがに、お昼までには出なかったか……」
「でも、最悪交換すれば行けそうですよ」
お昼前。午前中の採取活動を終えた正樹と佑梨が、やれやれという顔で戻ってきた。
「おかえり~。お昼どうする~?」
「あっ、わたしに練習させてください」
「はいは~い。焼きそばのつもりで用意してたけど、それでいいかな~?」
「大丈夫です」
命に聞かれ、今日も昼食づくりに参加する佑梨。
ちょうどいいことに、命が準備していたのは、不慣れな人間でもさほど苦労せずに作れる焼きそばだ。
もっとも、命の事だから、ここしばらくは佑梨がやる前提でメニューを決めていそうではあるが。
「じゃあ、こっちは加護とか権限の確認しておくよ」
「お願いします」
手伝うほどの作業もないこともあり、とりあえずシステム関係のチェックを申し出る正樹。
よほど手際が悪くなければ、焼きそばなんてそんなに時間がかかる料理でもないので、待ち時間をつぶすにもちょうどいい内容だろう。
「……素材交換まで使えば、各種報酬を確率でランクアップしてくれる機能が解放できるのか……」
手持ちの素材を見て、思わずうなる正樹。
その気になればすぐに解放でき、かつ長い目で見れば間違いなく有用な機能だ。
しかも、見ればこの機能はツリーの一つ目らしく、様々な機能を解放するための前提条件となっている。
さらにすさまじいことに、この機能でランクアップされるのはミッション報酬だけではない。
なんと、宝箱や採取アイテム、果てはモンスターからのドロップまで確率でランクアップしてくれる。
ランクアップの方向もいろいろで、手に入るものが単純にいいものになる以外にも数が増えたり、手に入らないはずの斧が出てきたり、果てはそれらがすべて同時に起こったりもする。
それだけでも恐ろしい話なのに、ミッション報酬に関しては、すでに発生しているミッションでも報酬のランクアップが起こりうるのだ。
ここまでの情報を踏まえれば、間違いなく今すぐにでも解放すべき機能に見えるのに、正樹が二の足を踏む理由は単純である。
今ある素材をほぼ使い切る上に、所詮ツリーの一段階目なので確率が0.005%という、とても当てにならない数字だからだ。
そうでなくても手持ちの素材にそこまで余裕がないのに、これから錬金術まで利用していろいろやろうとしているタイミングで、いかに強力であろうと当てにならない確率の機能に大量の素材をぶち込む度胸は正樹にはない。
「……これは相談だな……」
「何かいい機能があったんですか?」
「確率が低すぎるのと手持ちの素材をほぼ全部食いつぶすのとがなければ、迷わずに即解放してる機能がね」
出来上がった焼きそばを持ってきた佑梨に対しそう答え、悩んでいた機能の説明文を見せる正樹。
正樹に見せられた説明文を確認し、同じように難しい顔でうなずく佑梨。
「……さすがに今の段階では、わたしの専用装備2を解放するのが先でしょうね」
「だよね……」
「確率が低すぎるというのもそうですけど、報酬のランクアップが必ずしもプラスかというと……」
「ああ、それもあったか……」
佑梨の指摘に、その問題もあったかとうなる正樹。
現状、正樹たちに足りていないのは雑草をはじめとした、いわゆる最低ランクの素材、もしくはそれらを交換して得られるランクの素材だ。
0.005%とはいえ、イチタリナイが暴れまわっている環境でさらに入手確率を下げる機能を解放するとなると、どう考えてもいい結果につながるとは思えない。
「とりあえずまずは、佑梨ちゃんが錬金術で何を作れるか確認してからだと思うわよ~」
麦茶の入ったグラスとボトルを持ってきた命も、二人の判断を後押しするようにそう言う。
命としても、こんな不安定で当てにならない機能よりも、あからさまにイレギュラー体に化けているエリートモンスター討伐に向けて、専用装備や専用設備を優先してほしい。
「命さんも反対ってことは、満場一致で今の段階では見送りかな?」
「そうですね」
「うんうん~。普通に攻略が順調だったらありなんだけどね~」
「じゃあ、この機能に関してはいったん見送り。昼からはまず錬金術やって、残りの時間で素材集めだね」
「そうしましょう。それにしても、50%のはずの雑草は、いつ出てくるようになるんでしょうね?」
「……本当にね……」
佑梨の厳しい一言に、遠い目をしながらうめくしかない正樹。
別に誰が悪いわけでもないのだが、本当に異常なほどに雑草が出ない。
「そういう話は後にして、さっさとご飯食べちゃおう~」
「そうだね、いただきます」
「いただきます」
命に諭され、素直にご飯を食べ始める正樹と佑梨。
どうやらこれといったトラブルもなかったようで、焼きそばは普通にこんなものだろうという出来栄えであった。
「それで、何から始めるの?」
作業室。手持ちの素材メモリーを並べながら、正樹が佑梨に聞く。
「そうですね……。いきなり本命に挑戦しても失敗しそうですし、まずは練習も兼ねて、複数の用途に使える素材を錬成していこうかなと」
「了解。何か手伝えることはある?」
「今のところはなさそうです。今やることは、錬金術機材に含まれているナイフで材料を刻んで、鍋に入れてスキルを使いながらかき混ぜるだけですし」
「そっか。というか、スキルもってない人間が手伝っても大丈夫なの?」
「今のレベルだと、最後の鍋に入れて混ぜる作業だけわたしがやれば、途中は誰がやっても関係ないみたいです」
「なるほど。じゃあ、刻むのを僕が手伝うのは?」
「そこまでたくさんの素材がありませんので……」
「それもそっか……」
佑梨に指摘され、思わず納得する正樹。
採取場を一周して手に入る素材アイテムの数はそれなりに多いが、現状では消費量がそれ以上に多いので、手元に残る素材はさほど大した数にはならない。
もう一日素材収集に専念すればまだしも、現時点では二人で作業するほどの数の素材はないのだ。
「後、経験値的な意味でも、しばらくはわたし一人でやったほうがいいかもしれません」
「そうだね。じゃあ、僕はもうちょっと採取してくる」
「はい、お願いします」
できることがないと理解し、朝の続きをしに正樹が出ていく。
それを見送って、素材と向き合う佑梨。
「まずは、何を置いてもジョブの習得から」
素材と今の時点で作れそうなものを確認しながら、そう呟く佑梨。
残念ながら、錬金術師のジョブが育つようなことはほとんどしていないため、まだ未習得状態のままだ。
この状態では、ごくごく初歩的なもの以外は挑戦すらできない。
「本当は、雑草を使えればよかったのだけど……」
薬草を用意しながら、思わずそうぼやく佑梨。
一番簡単なレシピは雑草2個をランダムな別の素材1~3個に変化させるというもので、未習得状態でも成功率が90%ぐらいあるという素晴らしいレシピだ。
ちなみに、ジョブとスキルのレベルが上がれば、変化後の素材の数が多くなる確率も上がっていく。
本来なら有り余る数が手に入るはずの雑草の、加護や権限などを解放し終えた後での最も有効な使い道だと言えよう。
が、有り余るほど手に入るはずの雑草が、現時点では一番用途が多くて手に入りづらい貴重品となってしまっている。
その影響がこんなところまで出てくるとは、さすがに予想外にもほどがある。
(しばらくは数がある薬草を毒消し草に、毒消し草を薬草に変化させるのを繰り返して……)
などと予定を頭の中で考えつつ、手早く薬草を二つ分、細かく刻む佑梨。
最近自力で身に着けた家庭料理スキルや未習得状態ではあっても錬金術師ジョブの補正があるので、所詮二つ分しかない薬草を刻むぐらいはすぐに終わる。
「えっと、これを鍋に入れて、錬金術を発動させる……」
そう呟きながら、手順通りに錬金術を発動させる佑梨。
雑草二つを変化させるレシピより若干成功率が下がるレシピではあるが、それでも80%以上の確率はある。
手早くはあっても丁寧な作業をしていたこともあり、今回は無事に成功する。
「よし、成功です!」
毒消し草が一つ鍋に入っているのを見て、ぐっとこぶしを握る佑梨。
ステータス画面を開き、ジョブの状態を確認する。
「まだ、習得状態にはならないんですね。じゃあ、もう一回」
まだ訓練が足りないと見て、今度は同じ難易度の毒消し草を薬草に変化させるレシピを試す佑梨。
使う素材と出来上がるものが違うだけでやることは全く同じなので、今回も無事に成功する。
「できました! ……今度はちゃんとジョブが習得状態になりましたね」
ジョブが習得状態になったのを見て、小さく微笑む佑梨。
とはいえ、所詮ジョブレベル1なので、今やったレシピが失敗しなくなりはしても、できる数が1個で固定されているのは変わらない。
ただし、できるレシピや成功するようになるレシピは一気に増えるわけで……
「すごい! スライム駆除薬なんて素敵なレシピがあるんですね!」
なんと、スライムに対し、防御無視で回復不能ダメージを与えるという、今最も必要となるアイテムのレシピが解放される。
「ただいま」
「お帰りなさい! すごいレシピが出てきました! スライム駆除薬です!」
「えっ!?」
戻ってきた正樹に、喜びの表情で朗報を告げる佑梨。
佑梨の報告に、思わず目を見開く正樹。
手詰まりだった状況を動かせる糸口が、唐突に目の前に現れたのだ。
この反応も当然であろう。
「あっ、でもさ。倒す手段はそれでいいとして、まずは食われないようにする、もしくは食われても死なないようにならないと、そもそも攻撃できないような……」
「そうですよね……。異界の入り口前から攻撃してダメージを与えられるならいいんですけど……」
「向こうがこっちに来れないのに、こっちが無効を一方的に攻撃できるなんてずるいこと、させてくれるかなあ……?」
「あ~、たぶん無理ですよね、それ」
「見てる感じ、そういうルールはきっちりしてそうだしね」
浮かれそうになったところで、正樹が根本的な問題を思い出す。
そもそも現状、スライムがいるエリアに足を踏み入れたら、抵抗の余地なくそのまま溶かされた上で引きずり込まれて殺されるのだ。
いくら特効アイテムがあったところで、攻撃の余地がなければ無意味である。
「……やっぱり、優先順位はわたしの専用装備2ですか……」
「そうなりそう」
致命的な問題に行き当たり、浮かれた気分が一気に沈静化する。
とはいえ、解決できる可能性が出てきただけ大進歩であろう。
「あと、よくよく考えたら、こんな初歩のレシピで作れる薬であのスライムを殺し切ろうとすると、どれぐらいの数がいるんでしょうね?」
「あ~……」
「わたしのフリーソケットだけで足りればいいんですけど……」
「その辺はもう、やってみるしかないかな……」
「そうですね。という訳で、スライム駆除薬にしても専用装備2の必要素材にしても、素材錬成のレシピ自体は解放されてますので、まずはそれが作れるように練習します」
「うん、頑張って。僕はフリーソケットに満タンになった素材を置いたら、もう一度行ってくる」
「もう満タンになったんですか?」
「割り切って農業スキルを付けたら、専用施設とかキャンパーとの相乗効果があってか、ものすごい勢いで素材が採れる量が増えてね」
「そうですか。それなら雑草も採れましたか?」
「……それが、全然……」
「……ここまでくると、もうそういうものだと思ったほうがいいかもしれませんね」
「あと、僕が使う素材だけピンポイントで手に入らないんだよね……」
「それは、なんとなく予想してました」
そう言いながら、正樹が雑にテーブルに置いた大量の素材メモリーから、適当に一つ手に取って確認する佑梨。
その表情が、いきなりスンとしたものに変わる。
「……正樹さん。採取したときに、素材のチェックしてました?」
「自分の分はチェックしてたけど、佑梨さんのはちゃんと確認してなかったから見てない。一応専用装備2に必要な幽世鬼灯が出てないかは見たんだけど」
「専用装備2に必要なのは幽世鬼灯じゃなくて、天空鬼灯です。幽世鬼灯のほうはもうセット済みですよ」
「あれ? 勘違いしてた?」
「まあ、似た名前で似たような見た目なので、勘違いするのはしょうがないですけど……」
正樹の勘違いに、佑梨がそう指摘する。
なお、ものすごく大層な名前の二つの鬼灯だが、実のところ採取できるマップタイプが特殊でなかなか遭遇しないほどレアなだけで、レアリティとしてはせいぜいアンコモンぐらい。
錬金術師レベル1でも錬成できる程度のアイテムでしかない。
「そっか。で、その話を今するってことは……」
「はい。思いっきり、ここにありました」
そう言って、佑梨がメモリを一つ手に取り、どことなく遠い目をしながら笑顔で言い切る。
さすがのイチタリナイも暴れすぎたのか、それともどこからテコ入れの圧力がかかったのか、今までは何だったのかというぐらいあっさり佑梨の専用装備2は解放条件が整うのであった。
素材集めあるあるその1
似た名前の別の素材と勘違いする。
その2
もうちょいというところで、やたら魅力的な別のコンテンツに使う素材がたまる。
ただし、そっちに浮気すると元の目標が大幅に遠のく。
というわけで、さすがにイチタリナイも限界を超えましたとさ。




