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アメイジングソケット 少年少女の異界攻略譚  作者: 埴輪星人


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第12話 初心者向け異界:辛口 三日目開始

「今日もまだ無理っぽいわね~」


 三日目の朝。朝食を終えて異界の入り口を見に行った命の目の前を、スライムがきっちり隙間なく埋め尽くしていた。


「やっぱり、倒さなきゃ無理か……」


「もしくは、スライムにつかまらないように別のフロアまで移動する方法を考えるか、ですね……」


「どちらにせよ、今日は素材集めね~」


 どうしようもない状況であることを確認し、そう結論を出す三人。


 役に立つスキルもアビリティもない現状、できることといえば素材集めしかない。


「とはいえ、本当に専用装備の解放って、できるのかな……」


「仕様としては、レベルアップはともかく解放するだけなら、初級の採取場でちゃんと集まるはずよ~」


「レベルアップは無理なんですか?」


「そこはもう、解放された専用装備がどういう仕様になってるか次第なのよね~」


 正樹のボヤキに命がそう答え、佑梨が首をかしげながら質問する。


 その佑梨の質問にも、ちゃんと答えを返す命。


 とはいえ、残念ながら命も何でも知っているわけではない。


 特に専用とついている類のものは個人差が大きいので、蓋を開けてみなければ分からないことが多いのだ。


「あの、採取場で取れる素材って、ものすごく種類が多いんですけど、これって同じ異界で全部出てくるんですか?」


「出てくるけど出てこないって感じかな~?」


「といいますと?」


「基本的に、異界ってあんまり攻略にもたついてるとね~、構造だけじゃなくてテーマも変わるのよね~」


「テーマ、ですか?」


「うん。例えば、今二人が入ってる異界のテーマは異形の森って感じだけどね~、核で荒廃した世界とか深海とか~、いろんなテーマに沿った異界があるのよ~」


 命の説明で、何となく言わんとすることを察する佑梨。


 正樹も、出てくるけど出てこないという言葉の意味を理解する。


「つまり、今は異形の森というテーマに沿った素材しか出てこないけど、攻略にもたついてテーマが変われば、昨日採取した機械部品っぽいものが採取できるようになることもある、と」


「そうそう~。ちなみにね~、初心者向け異界の場合、どんな異界でも雑草と薬草、毒消し草だけは絶対出てくるわ~。雑草は分かりやすい外れ枠だし、薬草と毒消し草はないと詰むケースがあるからね~」


 問われるままに、正確な仕様を説明する命。


 それを聞いて、嫌なことが頭をよぎる正樹。


 恐る恐る、頭をよぎった質問を口にする。


「……一番最初に使ったアイテム、どう考えても山の植物と機械と海産物っぽいものが混ざってたんだけど、もしかして普通だったら最初の異界で手に入るアイテムだけで専用装備とか専用施設の解放って無理?」


「専用装備1は要求素材によるけどね~、専用施設は普通無理かな~。だって、専用施設は必ず、複数のテーマが混ざるもの~」


「やっぱり……」


「ちなみに初心者向け異界の場合、各階層で出てくる採取アイテムは最大六種でね~。モンスターは雑魚が二種類出現してそれぞれ二種類のドロップアイテム、エリートは出現するならノーマルドロップ二種類にレアドロップ一種類になるわね~」


「ということは、各フロアで最大十三種類かける階層の数だけ、素材のバリエーションがある?」


「じゃないのよね~、これが~。というのも、二層目以降も、半分は前の階層のものが出てくるのよ~。具体的には、一層目のモンスターがスライムとゴブリンだとするとね~、二層目に出てくるのはゴブリンとコボルト、っていう感じになるのよ~。ちなみにこの法則は、初心者向け異界以外でもほぼ同じね~」


「うわあ……」


「後、今回は考える必要はないけど、ボスからも素材やアイテムは手に入るからね~。ついでに言うと、初心者向け異界は難易度に関係なく、全部で三層ね~」


 正樹の質問に、知りたいであろうことを過不足なく答える命。


 何気に、初日に正樹が佑梨に言った、最初のマップで手に入る採取アイテムは多くて十種類程度というのは、おおよそ正しかったことになる。


 なお、正樹と佑梨を殺したモンスターに関しては、あからさまなイレギュラーなのであえて触れないようだ。


「あの、テーマが変わった後、あのスライムはどうなるんでしょうか?」


「どうにもならないわよ~。テーマが変わっても、一度出現したモンスターはそのままね~」


「……結局、どうにかして倒すしかないんですね……」


「少なくとも、あのスライムはそうなりそうね~」


 佑梨の問いにそう無情な答えを返す命。


 どうやら、楽はさせてくれないらしい。


「なんにしても、今日はまだ入れそうにないから、また必死になって採取作業かな……」


「そうですね……」


「その前に、ちゃんと朝ご飯を食べなきゃだめよ~」


 結局、今日も異界の攻略は無理そうだ。


 そう判断し、昨日と同じ作業をすることにする正樹と佑梨であった。








「命さん、今日の分のメモリーの鑑定、お願いします」


「はいは~い。ちょっと見せてね~」


 最初の周回が終わってすぐ、社務所にいる命の元へ、佑梨が本日分の宝箱から出たメモリーを持ってくる。


 それを受け取った命が、さくっと鑑定を済ませる。


「あらあら~。これはまた、悩ましいものを引いたわね~」


「何が出たんですか?」


「一つは農業スキルね~。考えるまでもなく正樹君のだけど、スキル枠とかスキルレベルの成長とかを考えると、すぐに覚えるべきかどうかは悩みどころねえ~」


「あ~、そうですね……」


 農業と聞き、心底納得する佑梨。


 正樹の専用施設を考えると最重要スキルだが、スキルソケットの数が割とカツカツな正樹に今すぐ覚えさせるものかというと、だいぶ悩ましい。


 何より悩ましいのが、覚えたところで十中八九、戦闘能力に寄与しないことだろう。


 採取の際に何らかの補正が入り、その分で佑梨の錬金術による作成アイテムが高性能になる可能性はあるが、互いのレベルの低さを考えると誤差の範囲なのは間違いない。


 第一、今のところ攻撃アイテムを作れる組み合わせの素材を確保できていない。


 ちょっとそのあたりを期待するのは、皮算用にもほどがあろう。


「とりあえず、これに関しては後で正樹君と相談してもらうとしてね~、もう一つが佑梨ちゃんの専用装備2なのよね~」


「……えっ?」


「解放そのものは当然やっておくべきだとしてね~。そうでなくてもいろんなところで素材を食い合ってる現状、これをどこまで優先させるべきなのかが難しいのよね~」


 困ったものだとばかりに、のんきに言う命。


 なお、態度や口調から分かる通り、別に命は特に困っていない。


「それはそうと、正樹君はどうしたの~?」


「一度実験したいとのことで、一人で採取してます。一周分が終わったら、こっちに来るそうです」


「なるほどね~」


 正樹の不在理由に、一応納得する命。


 なんとなく落ちは読めているが、それはそれで別に困らないだろう。


「そういえば、錬金術のほうはやってるかしら~?」


「今日の素材で、ちょっと試してみようかと思ってます」


「そっか~。とりあえずアドバイスとしてはね~、後で使うかもとか考えずに、素材はガンガン使って練習したほうがいいわよ~」


「そうですか?」


「ええ。だって、今手に入る素材なんて、採取場で頑張ればいくらでも手に入るものだしね~。思ったより幅広いものが出てくるけど、それだって交換である程度欲しいものに変えられるしね~」


「ああ、確かに……」


 命の言葉に、その通りだとうなずく佑梨。


 昨日解放したアイテムの交換機能なら、多少のロスに目をつぶれば大体のものは手に入る。


 もっとも、雑草やレア素材のように、そもそも交換リストに存在していなかったり交換する元手が手に入りにくかったりするものも結構あるので、それだけでどうとでもできるほど便利でもないのだが。


「じゃあ、このメモリーを挿したら、ちょっと錬金術をやってみます」


「作業室のほうに最低限の機材はあるから、そっちでやってくればいいわ~」


「はい」


 命に言われて、大量の素材メモリーを手に立ち上がる佑梨。


 そこに、正樹が帰ってくる。


「あら、おかえり~。実験はどうだったの~?」


「ただいま。予想通りのような、予想外だったようなって感じかな……」


「と、言うと~?」


「明らかにレアリティが高い、しかも僕が使わないものばかり出てさ……」


「予想通りなのは正樹君が使わないものばかりだとして、レアリティ高いのは予想外かしら~?」


 正樹の言い分に、思わず首をかしげる命。


 正樹の運勢的に、どちらも別に予想外とまでは言えない気がするのだ。


 というより命は、明日明後日ぐらいまでは、直接正樹の強化につながるものは出てこないと予想している。


「レアリティが高い、というより、あからさまにエリートとかボスからのレアドロップぽいものばかりが出てきたのが予想外で……」


「……ああ、出てくるとしてもちょっと出にくい採取品とかがメインになると思ったのね~?」


「そうそう。微温草とかあたりのやつ」


 正樹が例に出したアイテムに、なるほどとうなずく命。


 正樹が例示した微温草というのは、今使っている一番ランクが低い採取場だと、だいたい10%で出現するレアリティの素材だ。


 いわゆる、一個二個なら問題ないが、十個単位だと一気に面倒さが増し、百個単位になると目が死に始めるドロップ率だろう。


 ちなみに、採取場だと同じレアリティに五十種類ほどアイテムが存在しているので、微温草だけ狙って数百個集めるとなると、苦痛とか地獄とかを語れる次元ではなくなってくる。


「そうなると、ますます悩ましくなってくるわね~」


「そうですね……」


「何が?」


「佑梨ちゃんが持ってきたメモリーの話ね~。一つは佑梨ちゃんの専用装備2だから何も考えずにセットしちゃっていいんだけど、もう一つが農業スキルなのよね~」


「専用施設との兼ね合いを考えると間違いなく正樹さんがセットするスキルなんですが、スキル枠のこととか成長関係のことを考えると、今セットすべきかどうか悩ましいですね、って話してました」


「ああ、確かに……」


 命と佑梨の話に、納得するしかない正樹。


 さんざんネタにされているスキル枠以外にも、今の状況や運勢で下手にレアリティが上がると、必要な強化ができなくなる可能性が高い。


「まあ、スキルはいつでも覚えられますし、まずはわたしの専用装備2で何が必要かを見てからにしましょう」


 そう言って、作業室へ行く前に専用装備2のメモリーをエクストラソケットへ挿しこむ佑梨。


 これまで同様、解放用の素材を挿しこむソケットが増設される。


「……あら?」


「どうしたの?」


「正樹さんが持って帰ってきた素材で、ほぼ全部埋まります」


「……嘘……」


「信じられませんけど、本当です」


 そう言いながら、専用装備2のソケットを見せる佑梨。


 佑梨の言葉通り、専用装備2を解放するために必要な素材は、あと一つだけになっていた。


「本当に、あと一つになってる……」


「びっくりですよね」


「てか、専用装備2の解放素材、無茶苦茶重くない?」


「それは、やってて思いました……」


 さっき手に入れたレア素材をほぼ全部使いきったのを見て、渋い顔をする正樹。


 佑梨も遠い目をするしかない。


 現状ほぼ使い道がないので問題ないとはいえ、今回使ったのはすべて、エリートモンスターやボスからのレアドロップだ。


 今後のことを考えると、不安しかない。


「それにしても、これでまた、あと一つが埋まらないのが増えたわね~」


「またイチタリナイと戦わなきゃいけないのか……」


「あ、でも、これ、もしかして……」


 またしてもあと一つということで、妙に楽しそうな命とげんなりした顔の正樹がイチタリナイについて語り合う。


 その横で、要求素材を見ていた佑梨が、何かに気づいた様子を見せる。


「あの、これ、もしかしたら錬金術で作れるかもしれません」


「えっ?」


 佑梨の言葉に、ポカンとした顔で聞き返してしまう正樹。


 予想がついていたらしく、命は特に驚いた様子は見せない。


「錬金術で何とかするにしても、材料が足りるかどうかは微妙なラインじゃないかな~?」


「あ~、そうですね」


「あと、正樹君のドロップ傾向がこのままなのかちょっと気になるから、今日は三時ぐらいまでいろいろパターンを変えて採取を続けてみたらどうかしら~?」


「確かに、このままレアドロップばっかり出るようだったら、佑梨ちゃんの専用装備は普通に完成するかもしれないし」


「わたしと一緒だと採れるものも変わるっぽいですしね」


 命の指摘にうなずき、とりあえずまずは十分な量の素材を集めることを優先する佑梨と正樹。


 こうして、異界攻略三日目は、前進しているのかわき道にそれているのか分からない形へ状況が変化するのであった。

行動パターンを変えると手に入るものがガラッと変わるのはあるあるだと思います。


後、さすがのイチタリナイも、そろそろ活動が限界なはず。

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― 新着の感想 ―
次回、イチタリナイ死す? やりきった笑顔で昇天しそうな。仲間を呼びそうな。 一時的にいなくなったところで復活してまた繰り返すのでしょうね。 それにしても、クリアするのにどれくらいかかるのでしょうね……
テーブルリセットや、変数解除に物欲センサー沈静化のオカルトって異界だと余計に頑張っちゃいそうだなぁ。 そして、解放されてないから、はっきりしないけど今回の専用装備も火力貢献はしないんだろうなぁ。 サイ…
一度リセット挟んでみたり敵と戦ってみたり気分転換に違う事したり… 偏り解除は苦行とセット…
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