第11話 初心者向け異界:辛口 専用施設1 その2
「これはまた、すごいわねえ~……」
三時の休憩時。お茶とお菓子を用意しながら進捗を確認した命が、またしても昼と同じ感想を漏らす。
正樹たちは、きっちりイチタリナイに妨害されていた。
「正樹君の施設内施設、全部あと一つが足りないとはね~……」
「いやほんともう、ここまで見事に一足りないとか、びっくりするよ……」
「そのあおりを受けてか、わたしのほうも一つ足りないんですよね……」
そう言って、己の専用装備と専用施設の解放状況を見る佑梨。
佑梨のほうも、見事に一つずつ足りていなかった。
「何がすごいって、二時間かけて集めた素材を、きっちり全部使いきってることだよね……」
「一つも余りませんでしたからね」
「そもそも、専用施設の解放ってかなり素材が必要なのに、これだけピンポイントで集めきるのもすごいわよね~」
一つ足りないだけでなく、二時間分の成果をきっちり使い切ったことにもあきれるしかない一同。
昼の時点で正樹が必要としていた雑草が一切出てこなかったのは予想通りだが、佑梨の専用装備や専用施設を解放するのに必要な素材まで一つ足りない状態になるとは思わなかったのだ。
「これ、境内の雑草を引っこ抜いて使えたら、話は早いのに……」
「残念ながら、そういう抜け道はないわね~」
「やっぱり無理か……」
「ここに生えてる雑草を『雑草』というアイテムに出来るスキルやジョブはあるけど~、そうやって作った素材は施設や設備、装備には使えないようになってるのよ~」
残念ながら、正樹が思いつくようなことは、最初から対策が取られているらしい。
「そういえば、正樹さんの施設って、メイン機能は農場なんですよね?」
「うん。中の施設は大体のやつが、農場のレベルまでしか上げられなかったり、レベルをあげるのに農場を一定レベルまで強化しなきゃダメだったりするね」
「あっ、そうなんですか。まあ、それはいいんですけど、正樹さんの農場で収穫したものって、施設開放の素材とかに使えるんでしょうか?」
「そこまではまだ分からない。そもそも、農場を解放したからって、作物がすぐに育てられるのかすら分からないし」
「やっぱり、ヘルプの仕様的に、未解放のものは実質何も分かりませんか」
「うん。名前と大まかな機能が分かってるだけましかな」
「そうかもしれませんね。実際のところ、わたしのヘルプだって、未解放のものはおろか習得状態になったスキルですら、本当に知りたいことは何も分かりませんし」
一番肝心なところの情報があってないような感じなのに対し、あきらめの顔でそう納得する佑梨と正樹。
実際のところ、他のスキルやアビリティについてヘルプで分かる内容を踏まえれば、現時点で料理人や錬金術師のジョブを習得し鍛えれば機能が強化・拡張される、という情報があるだけましだろう。
「命さんは、そのあたりについて何か知ってることはありませんか?」
「ん~……。はっきり言っちゃうと、専用施設で手に入る素材類が他のものを解放する素材として使えるかどうかは、人によるのよね~。規模の大きさや必要素材のボリュームから考えると、なんとなく正樹君のは全部の用途に使える気はするんだけど~」
「結局は、解放しないと分からないってことかあ……」
「ごめんね~。これに関しては、本当にいろいろパターンがあるからね~。ただまあ、種が必要なパターンだったら、最初の分は私が用意するわね~」
「いいの?」
「ええ~。私も興味あるし、これぐらいならチュートリアルの一環だしね~」
話を振られて答えるついでに、そう提案する命。
恐らくいろんな人間のいろんな施設や設備を見てきたであろう、と言うよりも色々見てきたからこそか、命でも解放されるまではどういう仕様なのか分からないらしい。
「じゃあ、おやつ食べてしっかり休憩したら、もうちょっと頑張ってこよっか」
「そうですね」
「がんばれ~」
命が用意してくれたどら焼きを手に、そうゆるく気合を入れる正樹と佑梨。
そんな二人を、ものすごく気が抜ける声で応援する命。
厄介なスライムのせいで異界への進入が出来なくなった二日目も、そろそろ後半戦に差し掛かるのであった。
「さすがに、今度はちゃんと何かを解放できるのね~」
「はい。と言っても、結局足りない分の素材は交換しなきゃダメでしたけど」
午後五時半過ぎ。二人が持って帰ってきた素材を見て、命がほっと溜息をつく。
どうやら、ここまで素材がそろっていれば、イチタリナイも全部を足りないまま留め置くことはできなかったようだ。
「でも、結局は専用装備の解放はできなかったんだよね」
「できたのは、わたしの専用施設と、今使ってる採取場の使用権の解放だけでした」
「それでも、今使いどころがない素材だけが山盛りになるよりは、よっぽどいいと思うわよ~」
さほど芳しくはない進捗にぼやく正樹と佑梨を、そう言ってたしなめる命。
さっきの妖怪イチタリナイの猛威を見ている限り、焦ると恐らく逆効果なのではないかと思わざるを得ない。
大体、根気で何とかなる状況で、さほど苦労せずにサクッと強化が進みすぎると、正樹の主人公補正セット的に後がとても怖い。
「それで、佑梨ちゃんの専用施設は、どんな感じなのかな~?」
「今、解放しますね。……神聖系総合魔法施設、だそうです。今は聖域LV1だけあります」
「あ~……。それはまた、解放と強化が大変な類ね~」
「見ただけでそんな感じがします。現時点で解放できるのが神社、神殿、寺院、神聖魔法学院、塔、泉源、錬金工房だそうです」
「それ、解放できる施設の大半に、施設内施設と施設内設備がたんまりあるタイプね~」
「やっぱり……」
「私が知ってるものと同じだとすれば、そのうち霊峰とかも解放できるようになると思うわ~」
「……山って、施設なんですね」
霊峰を解放できると聞いて、思わずそう突っ込んでしまう佑梨。
そもそも、施設の中に山が内包されているということ自体、ちょっと表現としておかしい気がする。
「アメイジングソケットで解放されるものに、その手の突っ込みをしてたらきりがないわよ~」
「いやまあ、そうですけど……」
「それを言い出せばそもそも、専用施設ってなんだ、って話になるしね~」
「はい……」
命の身も蓋もない指摘に、ぐうの音も出ない佑梨。
そもそも、持ち主はいつでもどこでも自由に出入りできる施設、という時点で意味不明なのだ。
その施設に後から山が生えるぐらい、おかしなことではないと考えるしかなかろう。
「それで、どれか施設が解放できそうな感じかしら~?」
「……『神社』は、もしかしたら解放できるかもしれません」
「えっ? 佑梨ちゃんのはもう、解放できるの?」
命に問われての佑梨の答えに、正樹が驚いてそう口を挟む。
正樹の施設は、全部何かが一つ足りなくて解放できない状態になっている。
「そのままだと足りないんですけど、錬金術で必要素材が作れそうなんです」
「それで、もしかしたらなんだ」
「はい。スキルでの加工が必要だからか、必要な数が一つで済みます。ただ、まだジョブが未習得状態なので、成功するかどうかが割と微妙なんですよね」
「ああ、それでもしかしたら、なんだ」
「はい」
あいまいな言い方をした理由を聞き、とりあえず納得する正樹。
とはいえ、このパターンだと佑梨は普通に成功するんだろうなあ、と、妙な確信はあるのだが。
「そういえば、錬金術って機材とかいらないの?」
「今回のは、鍋だけあればいけます」
「そっか」
「鍋ならそこの戸棚にあるわよ~」
「なんでここにあるの……?」
「たまに、卓上コンロでちょっとした鍋とかやってるからかしら~」
「本当にそれ、普通に鍋物なんですか?」
台所でも食堂でもなく居間の戸棚に鍋を常備している、という点に突っ込む正樹に、しれっとそんなことを言ってのける命。
ちょっとした鍋、といっているが、なんとなくここで燗酒をするために使っているのではないか、と疑う佑梨。
なお、小学生の佑梨が燗酒なんてものとそのやり方を知っている理由は簡単で、たまに祖父が卓上鍋で燗酒をやっているのを見ているからである。
「まあ、私がどんな鍋を食べてるかは置いといて~、晩御飯まで時間が押し気味だから、佑梨ちゃんはさっさと素材づくりやっちゃいましょうね~」
「あっ、はい」
全力ではぐらかしにかかった命にジト目を向けつつ、言われた通り素材錬金の作業に入る佑梨。
今回使うのは、なぜか草むしりでゲットできた「ややきれいな水」と「炭になった竹」、「浄蓮草」というちょっとレアな草だ。
それらを使って「聖浄な水」という、字面でおおよそどんなものかが分かる水を作るのである。
「へえ~。そのレシピ、初めて見るわね~」
「そうなんですか?」
「だって、聖浄な水って、二つ上の階層ではアンコモン枠、三つ上になると通常枠になるタイプの素材だもの~」
「ああ、わざわざ作るようなものじゃないんだ」
「そうね~。まあ、そもそもの話、専用施設自体、普通は第一層で解放されるようなものじゃないしね~」
佑梨と正樹の疑問にそう答えながら、珍しそうにまじまじと作業を見学する命。
どうやら、正樹たちの現状は、命にとっても相当珍しいものらしい。
「それで、手ごたえ的にはどんな感じかしら~?」
「きちっと手順通りにやって、たぶん七割ぐらいの成功率だと思います」
「微妙ね~」
「はい。だから、うまくいけば、なんですよ」
「なるほどね~」
命に聞かれて正直なところを答えながら、慎重に作業を進めていく佑梨。
とはいえ、成功率は七割だ。
これが正樹ならまだしも、佑梨はこういう時に足を引っ張るようなアビリティは持っていない。
実質的にただ磨り潰しながら霊力とか魔力とか呼ばれる類の何かを流し込んで混ぜるだけの作業だし、佑梨の作業は非常に丁寧だ。
ジョブが未習得状態であることを考えても、ペナルティがかかるようなことはない。
ゆえに、特に何事もなく成功する。
「できました」
「やっぱり。七割って聞いたから、普通に成功すると思ったんだ」
「いや~、でも佑梨ちゃんって、慎重で丁寧な作業をするタイプだけど~、時々天然でポンをすることがあるのよね~。だから、一回目はそれで失敗するんじゃないかな~ってね~」
「お二人の、わたしに対する印象はよくわかりました……」
言いたい放題言う正樹と命にジト目を向けながら、さくっと「神社」を解放する佑梨。
解放された神社は、道端などによくある小さな社と賽銭箱があるだけのものだった。
「なんというか、かわいらしい神社ができました……」
「どうせそれ、アップグレードのために大量の素材を要求されるんでしょ?」
「みたいです。ヘルプを見ると、素材を使って四つぐらいレベルを上げたら、いろんな施設が解放できるようです。あと、これで『聖域』のレベルも上げられるようになりました」
「へえ~、神社の強化が必須なのね~」
「ヘルプを見る限り、神社と聖域のレベルが最重要ですね」
「まあ、佑梨ちゃんは私と同じで、何となく教会とかお寺より神社ってイメージよね~」
「あっ、それ分かる」
「神社」が解放されたことで出そろった情報をもとに、そんな話をする一同。
実際、霊力系の能力を持っていることや、やたらと神代神社の雰囲気になじんでいることから、佑梨はどことなく巫女っぽい印象が強い。
命とキャラが被るのでは、という問題はあるが、佑梨はどちらかといえば正統派な巫女というイメージだ。
黒幕系とか強キャラ系の巫女である命とはジャンルが違う。
不謹慎なたとえなら、薄い本で食う側が命、食われる側が佑梨という感じである。
「さて、いろんな意味で区切りがついたし、晩御飯の支度ね~。正樹君、ジョブの修練がてら手伝ってくれないかしら~?」
「うん、最初からそのつもり」
これ以上グダグダやることもないと、さくっと晩御飯の支度に入る命と正樹。
ジョブの影響か成長の才能が仕事をしたのか、一食作る間にどんどん腕を上げた正樹のおかげで、質素でありながらも大変クオリティの高い夕食があっさり完成し
「やっぱり、わたしも料理人のジョブか料理スキルが欲しいです……」
「まあ、そのうち出るわよ~。何だったら、交換のラインナップにもあがってくるでしょうしね~」
昼の自分とのあまりの差に、微妙にむくれる佑梨であった。
料理人なんだから、巨大化して口からビーム吐きながら「うまいぞ~!!」って叫ぶ料理ぐらい作れないとだめだと思うんですよね。
解放された専用施設ですが、持ち主の許可があれば他人でも入れます。
また、最初期からの固定パーティ同士に限り、ある程度強化が進んだ専用施設を連結させることもできるようになります。
また、正樹や佑梨のような巨大な専用施設は最終的に、神代神社のように他者の異界攻略の拠点となる可能性があります。
とはいえ、よほど成長しない限りは、まずそこまではいかないのですが。




