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嗅がせてほしい

 昼休み。今日も今日とて、わたしは保健室にやってきている。例の忌まわしき「保健室当番」の日だからだ。本来なら今日のこの時間は、クラスのもう一人の保健委員である鈴木くんの担当のはずだったのだが、その鈴木くんが病欠のため、わたしが代わりを務めさせられている。おのれ鈴木、と毒づきたいところだけど……まぁ、風邪ならしかたない。


 事務机に向かい、持ってきたお弁当の唐揚げをひと口齧る。まぁ、当番といっても実際はただの留守番だし、保健室でお弁当を食べるだけのどうってことない時間なのだけど。ただ、そんなどうってことない時間を「忌まわしき」と表現したくなるのには確かな理由があるわけで——


「失礼します」


 コンコンコン、と三度のノックのあとに聞き覚えのある声。……ほらね、そんな気がした。


「お帰りください」

「えぇっ!? そんな、ひどいわこはる。私、まだ用件も言っていないのに……」


 当然のように現れたのは、当然のように愁衣さんだ。なぜ人が当番の日に狙いすましたかのように来るのか。しかたないので、「どうぞ」と丸椅子を勧める。


「それで? 今日はどんなロクでもない用事でいらっしゃったんですか?」

「なぜロクでもないことが決定事項なの……? まだ聞くまではわからないわよ、こはる。こ・は・る、ふふ」


 と愁衣さんはにこやかに笑う。下の名前で呼ぶことを許可してからずっとこんな調子だ。よほどそれが嬉しいみたいだけど、最近は可愛いを通り越して、ちょっと鬱陶しい。


「——で、なに? 先に言っとくけど、この前みたいなとんでもない思い付きには協力できないからね」

「大丈夫よ。ほら見て、今日は私、手ぶらよ。ノータッパー・デイよ」

「そのまま、エブリデイ・ノータッパーで頼むよ」

「But...I'm dealing with a bit of a health...」

「あぁ、ごめんなさい、英語やめてください。そのノリにもっていったのはわたしのような気もするけど、英語苦手なんです。日本語でお願いします」

「こはる、今日も可愛いわ……」

「そんなこと言ってたの!? ……いや、言ってないよね!? それくらいはわかるよ! ってか、早く本題言えよ!」


 愁衣さんは舞台に立つパフォーマーのように両手を広げて言う。


「見てのとおり私、今日、調子が悪いのよ」

「『見てのとおり』で言うなら、とても元気そうに見えるけど」


 なんならいつもより会話の畳み掛けが激しい気もするし……。


「そんなことはないわ。たとえば……」


 と、愁衣さんは何かを探すように視線をキョロキョロさせる。その視線が事務机の上でピタと止まった。


「こはるはいま、お弁当を食べていたのね」

「え、うん。……匂いでわからなかった?」

「そう、それなのよっ!」

「元気よさそうだなっ!」

「その『匂い』が、いまの私には全くわからないの! 嗅覚が機能停止してしまっているのよ!」

「き、嗅覚が……?」


 またとんでもないことを言い出す。そう言われては、わたしとしてはこう訊き返すしかない。


「……どうして?」

「あらこはる、理由が聞きたいのね?」

「……まぁ、流れ上」

「うふふ。じゃあ、教えてあげるわ。明日からしばらく連休になるでしょう?」

「うん、そうだね。それが?」

「その連休を利用して、私、叔母の家に遊びに行く予定があるのよ」

「叔母さんちに……? ふぅん、そうなんだ……」

「えぇ。だから嗅覚を失ったの」

「——うん?」


 ええと、いまの話の中に嗅覚の喪失に繋がるヒントが何かあったか……? それでいくと、愁衣さんは叔母さんの家に遊びに行こうとすると嗅覚に異常をきたすことになるけど……。なんで? その叔母さんの家は、強烈なアンモニア臭でも放っているのだろうか……。


「あ、私としたことが、少し説明が足りていなかったわね」

「わたしの感覚だと、だいぶ足りてないけど」

「うふふ。実はね……叔母の家には、とぉっても可愛い猫ちゃんがいるの」

「……猫?」

「そう。そして私は『空想猫アレルギー』なのよ」

「いやそんな、『ご存知』みたいな感じで言われましても……」

「私ね、実は大の猫好きなのだけど、家の事情で自分では飼えないの。だから叔母の家に行くときが、大好きな猫と触れ合える、一年のうちで数少ないチャンスなのよ。でね、毎回その日が近づいてくると、猫に会える楽しみと喜びで自律神経が誤作動を起こすの。私の頭の中の猫を『超高濃度のアレルゲン』と認定した脳が、体を守るために強すぎる命令を下して、結果的に嗅神経が機能停止してしまうのよ」

「……要するに、その猫のことを妄想しすぎると身体機能が不具合を起こして、嗅覚がなくなっちゃうってこと……?」

「そのとおりよ、さすがはこはる! 素晴らしい理解力だわ」


 いや理解は全然できてないけど。正確に言えば、状況の理解はできたけど、医学的な理解は全くできていない。なんなのそれ……子どもが遠足の当日に熱出しちゃうみたいな感じ……? いやちょっと違うか……っていうかもう、どうでもいいか……。


「もう、その猫に会えるのが楽しみで楽しみで……週頭からずっとそわそわしていたのだけど、いよいよその前日となった今日、嗅覚を失ったわ。きっと楽しみ度合いが限界値を超えたのね」

「アレルギー持ちなのに、猫に会いに行ったりして大丈夫なの?」

「それが、直接猫と触れ合う分には大丈夫なのよ。私のはあくまで『空想猫アレルギー』だから、現実の猫に対しては発生しないの」


 なんだろう、歪というか何というか……。それを安易に「よかったね」と言ってしまってよいかどうかはわからないから黙るけど、でもまぁ、なるほどね、今日の愁衣さんの謎にウザいテンションの所以はそこにあったのか。


「なるほどね。だから愁衣さん今日、なんだか上機嫌だったんだね」

「……こはる。これは完全にただの勘なのだけど、いまこはる心の中で、私のことをそれとはちょっと違った表現で評さなかった……?」

「気のせいだよ。……で、その症状はちゃんと治るの?」

「えぇ。時間が経てば自然治癒するわ。叔母の家に行くときにはきっと元に戻ってる」

「そう、それはよかった」


 なら今日はわたしの出番はなくて済みそうだ。よかった。それじゃ安心して食事を再開しますか。


「でもね、こはる」

「……」

「こはる?」

「……」

「こはる!」

「痛い、耳引っ張らないでよ! せっかく、『だとしたら愁衣さんがわざわざ保健室に来るわけない』という現実から必死に目を背けていたのに!」

「こはる、聞いてほしいの。この症状を即座に治す、特別な方法があるのよ」

「えぇ、そうなんでしょうね……そうなんでしょうとも」

「安心して、こはる。今回こはるは何もしなくていいから」

「え、そうなの……?」

「えぇ。ただそうして座っていてくれればいいだけ」

「はぁ……」


 一瞬、ぽかんとなった隙を突くように、「というわけで、失礼するわね」と愁衣さんの手が制服のシャツのボタンに伸びてくる。


「——え、ちょっ、な、なに?」

「ああ、動かないで。うまく脱がせられない」

「……は?」

「大丈夫よ。今回こはるは何もせず、ただ私に脇の匂いを嗅がせてくれればいいだけだから」

「ちょっと待てやお前」

「い、いた、痛いわこはる! 指をあらぬ方向に曲げようとしないで……!」

「ならさっさとこの手をどかせッ!! でなきゃ、このままへし折ったろかっ!?」


 愁衣さんは慌てて引っ込めた手をもう片方の手で包むと、困惑したような顔でわたしを見る。


「こはる……いったい、どうしたというの……?」

「あんただよッ!! いったい、なにをいきなりやろうとしてんの!? 犯罪だからね!? 痴漢として突き出したら間違いなく逮捕だからね、いまの!!」

「そんな……いいえ、そうはならないわ。これは私が望んだことであってやらされているわけじゃない。ましてや、こはるが痴漢だなんて……」

「ぬぅわぁんでわたしが逮捕されそうになってんだよッ!? お前だよお前ッ!! いっそ本当にブタ箱ぶち込んでやろうかっ!? わたし直々に刑務官になって、指どころか生爪全部剥ぐ拷問受けさせてやろうかっ!? この国の司法の限界に挑戦してやるよッ!!」


 愁衣さんは申し訳なさそうにしゅんとした様子で肩を落とす。


「ごめんなさい……嫌がってなさそうだったから大丈夫かなって、つい……」

「危険すぎるだろその思考……とにかく、まずはちゃんと事情を説明してよ」

「私のこの症状は、他人の脇を嗅ぐことによって治るのよ」

「まぁ、そういうことなんだろうね」

「妄想の猫による嗅神経のロックを解除するには、それ以上に強烈な現実の生体フェロモンを脳に直接送り込む必要があるの。人間の腋窩は体内で最もアポクリン腺が密集し、フェロモンが常に温められて気化している場所で——」

「医学的解説はいいよ。……その、こう言っちゃなんだけどさ、愁衣さんのその症状は時間経過で治るんでしょ? だったら、まぁ不便だろうけど、そのまま放っておいてもよくない? いますぐに治療すべき緊急性が感じられないんですけど」

「ところが、そうしなければならない理由が存在するのよ」

「……というと?」

「今日の午後の家庭科、調理実習よね」

「そうだね」

「そこで鼻が使えないと調理がうまく行なえないし、完成した料理を味わえないっ!」

「知らねーよ!! 特に後半!! ……前者にしたって、あらかじめ決められた分量どおりに進めれば問題ないでしょ。調理実習なんて、べつにたいしたもん作るわけじゃないんだし」

「それは聞き捨てならないわね。こはる、料理をなめてはいけないわ。料理とは己を映す鏡。完成した皿の上にはね、作った人間の『これくらいでいいや』という妥協や甘えがすべて浮き出てしまうものなのよ」

「どこの料理人なんだ、あんたは……。たかが調理実習にクオリティーを求めるのは結構だけど、それにわたしを巻き込まないでよ。そんなに脇が嗅ぎたいなら、誰か他の人のを嗅いで」

「そんな……誰でもいいわけじゃない、私はこはるの脇が嗅ぎたいの」

「真剣な顔で言うな、そんなセリフ」


 そもそも、と小首を傾げて愁衣さんは言う。


「こはるはどうして、そんなに脇を嗅がれるのが嫌なの?」

「あらためて訊ねるようなことじゃないでしょ。普通に嫌だよ、誰だって」

「そうかしら? ちょっと服を脱いでもらいはするけれど、基本的に何もしないでいいのよ? ただ座っていてくれればいいだけ。そんなに拒むようなことではないと思うのだけど……」

「……まず、服を脱ぐことを『ちょっと』程度で済まそうとするところから、一般との感覚のずれを修正していってほしいんだけど……。百歩譲って、仮に愁衣さんの言うように拒まない人がほとんどだったとしても、少なくともわたしは拒むよ。嫌だから」

「だから、どうして嫌なの?」

「だって」


 と言いかけて、視線を逸らしながら言い直す。


「……く、臭い、かも……しんない、じゃん……」

「まあ、こはる……!」

「なに……スマホなんか出して……」

「その恥ずかしそうな顔、とっても可愛いわ……! 記録に収めさせてちょうだい」

「やめろッ!! スマホしまえッ!!」


 なるほどなるほど、と愁衣さんは納得したように首を振る。


「つまりこはるは、自分が腋臭症ではないかという不安があるのね」

「そ、そうだけど……そんなはっきり言わないでよ、恥ずかしいから……」

「……」

「スマホ出すな」

「なにか、そう思う根拠があるの?」

「いや、ないけど……でも、そういうのって、自分では気づけないって言うじゃん? 自覚がないだけで、わたしももしかしたら……」

「大丈夫よ、こはる。仮にこはるの脇からカレースパイスの芳香が漂ってきたとしても、私はそれを受け入れるわ」

「仮に愁衣さんが受け入れたとしても、わたし自身がその事実を受け入れられないよ」


 ふむ、と愁衣さんは考えるような顔のあと、人差し指をぴんと立てて言った。


「でも、それならこれは考えようによってはチャンスではないかしら?」

「チャンス……? 何が?」

「だって、こはるは自分の脇の匂いに対して不安を抱えているわけでしょう? なら、私が実際にその匂いを嗅いでみることによって、こはるの腋窩に関する真実を明らかにすることができるわ。腋臭症であるのか、そうでないのかを」

「そ、それは……」

「こはるはさっき、それを『受け入れられない』と言ったけれど、そういった疾患はまず自分自身がそれを認識することが大切よ。そうなのだと知ることができればセルフケアの必要を自覚できるし、根治に向けて動き出すこともできる。むしろ、はっきりしないままでいるほうがずっと恐ろしいわ。そんな疑心暗鬼の状態で、これからやってくる暑い季節をこはるは全力で楽しめるのかしら? 輝く太陽の下、白い砂浜の上で、両脇をきつく締めて震えているこはるの姿が浮かぶわ」

「……」


 勝手にそんな姿を思い浮かべるな、と言いたいところだけど、愁衣さんの言うことは悔しいけれど一理ある。たしかに、ここで確かめてもらえれば、どちらに転んだとしてもわたしには利がある。仲の良い友だちでも「ちょっと脇の匂い嗅いで」とは言いづらい。でも愁衣さんなら、不思議とそのハードルは下がる気がする。そもそもこれは愁衣さんが願い出てきたこと。わたしたちはいまこの上なく、ウィン・ウィンの関係にある。いまこそ確かめるべきなのではないか、このシュレーディンガーの脇の真実を……。


「決意が固まったようね」

「愁衣さん……だけど約束して。もしわたしの脇が、その、アレだった場合……」

「もちろんよ。誰にも言わないわ。私の胸の……いいえ、鼻の中だけに収めておくから。……それじゃあらためて、失礼するわね」

「ま、待った、愁衣さん」

「どうしたの? 大丈夫よ、仮にそうであっても本当に誰にも言わない。私を信じて」

「いや、そうじゃなくて、その……ベッド、行かない?」

「こ、こはる……!? え、えぇ、もちろんいいわ。私はいつでも準備オーケーよ……ハァ、ハァ」

「な、なんで鼻息荒くしてんの!? い、いやほら、ここだともし誰かが急に入ってきたときに、その、見えちゃうから……」

「あぁ……そうね。ごめんなさい、私としたことが、気が付かなくって……」


 愁衣さんと二人、奥のベッドに移動し、並んで腰かける。


「その……服はやっぱり、脱がないとだめなの……?」

「えぇ。私のこの症状を治すには、腋窩から分泌されるフェロモンを直接吸入する必要があるから、服の存在は邪魔になってしまう。こはるの疾患を確かめる意味でも、他のものを介さずに嗅いだほうが匂いを正確に知覚できるでしょう?」

「わ、わかった。じゃあ、自分で脱ぐから……」


 ボタンに手をかけ、一つひとつ外していく。と、「よいしょ」と隣から声がし、見ると自分のシャツを畳んでいる下着姿の愁衣さんの姿があった。


「なんでお前も脱いでんだよッ!!」

「え、あぁ……なんとなく、雰囲気で……」

「なんとなくで脱ぐなよ……。ほら、早く着て」


 愁衣さんは服を着直し、わたしは脱ぎ終えた。上半身、下着だけの状態になる。


「こはる……綺麗な体をしているのね」

「そんなこと……ていうか、なにをいまさら? 前に一度見てんじゃん」

「あのときは主に背中越しだったし、あまりちゃんと見られていなかったから。ほら、手をどかして、もっとよく見せて」

「い、いいから、さっさとやることやって、終わらせて! もたもたしてると、先生帰って来ちゃうかもしれないから!」

「……」

「そのスマホ、そろそろ叩き割ってやろうか?」


「じゃ、始めるわね」と愁衣さんはわたしのほうに身を寄せて、頭の位置を少し低くする。「こはる、腕を挙げて」の声に、わたしはおずおずと左腕を挙げた。

「そっちの腕も」

「え、両方? な、なんで?」

「腋臭症は片側だけに現れることもあるから。スクワットをするときみたいに、頭の後ろで組んでいてちょうだい」


 しぶしぶ、言われたとおりの姿勢をとる。なんかこの姿勢、体の自由を奪われたみたいで落ち着かない……。愁衣さんが頭を潜り込ませるようにわたしの開いた左脇に鼻を寄せてくる。あぁもう、恥ずかしい。早く終わってほしい……。


「う、愁衣さん……その、ど、どう?」

「待って。まだ私自身、匂いがよくわからないから。まずは私の嗅覚を回復させるところから」


 スンスン、と愁衣さんが鼻から息を吸う音が聞こえる。鼻先が脇に触れてしまいそうな近さ。そんなに近づける必要あるのか、と言いたいけれど、治療に関しては何もわからないので、黙る。


 最後に、スゥーーー、と長く息を吸うと、愁衣さんはなにやら納得したようにウンウン頷き、それからわたしの反対側に移動する。同じように鼻を極限まで近づけて、またスンスンし出した。たまに愁衣さんの吐き出す息が当たってこそばゆく、「ん」と声が出る。あぁ、いったいなんなんだこの時間……。もしいま本当に東雲先生が帰ってきたら、何て説明すれば……


「——ひゃっ」


 突然、右の脇下に温かい異物感を覚えた。反射的に横に飛び退いて見ると、ぺろっと舌を出している愁衣さんと目が合った。

「……」

「……」

「てへっ」

「なんで舐めてんのッ!?」

「目の前の綺麗な脇を見ていたら、つい」

「『つい』で舐めるなよッ!! うっかりやってしまっていいことの範疇を大幅に超えてるよ!!」

「ごめんなさい、抗えなかったの。目の前にチュールを差し出された猫のように」

「人として最低限の自制心をもてよ……。それで、鼻はもう治ったの?」

「えぇ、おかげですっかり良くなったわ。なんならいつもより通りも良くなって……さすがはこはるね、やっぱり私たち、体の相性が——」

「言うな。……で? それじゃ、その……あっちのほうは、どうだったの……?」

「えぇ」

 愁衣さんは居住まいを正すように姿勢よく座り直し、言った。

「率直に言って、かなり強烈だったわ」

「そ……そんな……」


 あぁ……なんということだろう、恐れていたことが現実に……。充分に覚悟を決めて臨んだつもりだったけど、いざその事実を突きつけられると途方もなくショックが大きい。そう簡単には受け入れられない……まさか自分の脇が……あぁ……。


「凝縮されたフェロモンが放つ濃密な香りと熱気……その奥から匂い立つ果実のような甘さと、微かに汗の混じったほのかな酸っぱさと苦み……」


「……う……うぅ……」


「それらが溶け合い、一種異様な、それでいて絶妙な、味わい深いハーモニーを舌の上で奏でたわ。舌先で触れたときの吸いつくような、と同時に弾くような、しなやかな弾力に満ちたみずみずしい肌の質感といったらもう、クセになりそうで……」


 …………ん?


「……あの、愁衣さん? いま、何についての感想をおっしゃってます……?」

「……え?」


 きょとんとした顔で愁衣さんは言った。


「こはるの脇を舐めたときの、味の感想だけど……?」


「……」

「……」


「そっちじゃねーよッ!!」



 あらためて訊ねた結果、匂いについては何も問題がないことがわかった。








【おまけ:連休中のある日、チャットアプリ内での二人のやりとり】


♡ ━━━━━━━━━━━━ ♡


〈こはる、見て〉

〈この子が例の猫ちゃんよ〉

〈名前はミルク〉


〈おー〉

〈たしかに可愛いね〉


〈うふふ〉

〈そうでしょう?〉

〈ね、こはるも何か写真送って〉


〈えー〉

〈そう言われてもな〉

〈わざわざ送るようなものないよ〉


〈じゃあ〉

〈こはるの顔の写真を送って〉


〈やだよ〉

〈今日髪ボサボサだし〉


〈お願い、こはる〉

〈一生のお願い〉


〈こんなことで使うな〉

〈しょうがないな〉

〈はい〉


〈ありがとう!〉

〈こはる、可愛い〉


〈うるさいな〉


〈お返しに〉

〈私の写真送るわね〉


〈なんでだよ〉


〈はい〉

〈どうぞ〉


〈可愛いね〉


〈こはる……!〉


〈後ろに写ってる猫〉


〈こはる……?〉








○ ━━━━━━━━━━━━ ○


お読みいただき、ありがとうございました。


五話目は明日30日(日)11:00、六話目は明後日31日(月)18:00に投稿いたします。

以降は週1~2話程度のペースで、毎週金曜18時に投稿していく予定です。


よろしくお願いいたします。

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