許してほしい①
「こはる、ごめんなさい!」
一、二時間目の間の休み時間。外のロッカーで次の授業の教材を取り出していると、愁衣さんがやってきて、そう言って頭を下げてきた。
「昨晩、自分の行動を顧みて反省したの。私、昨日はこはるにとても失礼な態度をとってしまって……。きっと、すごく嫌な思いをさせてしまったわよね。……本当に、ごめんなさい」
「あ、えと……」
思わぬ展開に呆気にとられ、なんだかぽかんとしてしまう。昼休みにでも、わたしのほうから謝りに行こうと思っていたんだけど……。
「私、昨日はこはるにたくさん嬉しいことを言ってもらえて、してもらえて、少し調子に乗っていたみたい。特に『友だち』って言ってもらえたことに。……でも、そうよね。裏を返せば、私はただの友だち。そもそもこはるにはきっとお友だちが大勢いて、私はその中の一人にすぎないわけで……いえ、それどころか、数多いる友だちの中でも私は最底辺、プライベートでろくに遊んだこともない、所詮、『保健室の女』にしかなれない存在なのであって……」
「い、いやいやちょっと待って、愁衣さん。なんか、卑屈さの雨が大地を穿って地下にまで浸食しちゃってる感じになってるから。そもそもわたし、たぶん愁衣さんが想像してるほど友だちたくさんいないよ? それに『ただの友だち』なんて、さみしい言い方やめてよ。愁衣さんはもっとわたしにとって、なんていうか……特別な存在だよ」
「特別……」
愁衣さんの目が驚いたように見開かれる。
「うん、そう。まぁ、友だちはみんな、一人ひとり特別な存在だけど……」
愁衣さんは目を閉じ、きゅっと両手を組む。
「特別……こはるにとって私は、特別な存在……」
「う、うん、そうだよ。だから……」
「伴侶……」
「ランクアップの勢いが凄まじいんだよなぁ、毎回」
愁衣さんはゆっくりと目を開け、ほどいた手の片方をわたしに差し出す。
「仲直り……、してもらえる……?」
わたしも手を差し出して言った。
「もちろんだよ。こっちこそ……いろいろと、ごめんね」
愁衣さんと握手を交わす。柔らかい手の感触に救われたような気持ちになる。結局、愁衣さんが何に怒っていたのかはよくわからなかったけど、いまさら訊くのも蒸し返すようで嫌だし、……まぁ、いいか。
「ところでさ、愁衣さん」
仲直りの握手を終え、わたしは言った。
「なあに、こはる?」
「うん。昨日もちょっと話に出た、前に一緒に行こうって約束してたカフェ……あれ、今日行かない?」
「え。う、うん、もちろんいいけれど……どうして急に?」
「急にっていうか、実は昨日の夜からちょっと考えてたんだ。もし愁衣さんと今日仲直りができたら、一緒に行きたいなぁって。その、仲直りの記念っていうか……」
ぽかっと口を開けた愁衣さんの顔が、ぱあぁぁっ、と春の陽だまりのように明るくなる。
「うん! 行きましょう、こはる!」
と、愁衣さんがぎゅっと手を握ってくる。今度は両手で。そして片手に握り替え、わたしをどこかへ引っ張っていこうとする。
「え、え? ちょっと愁衣さん、どこへ——も、もしかして、もういまカフェに行こうとしてる? まだ授業あるよ」
「え? あ……。いやだ、私ったら。つい……」
「あ、あはは……。放課後になったら、一緒に行こうね」
「うん」
愁衣さんは少し恥ずかしそうにコクンと頷く。教室に戻りかけたところで、ふと立ち止まった。
「どうしたの、愁衣さん?」
「こはる、その……」
どこかそわそわした様子で、愁衣さんは言った。
「先生に『カフェ行きたいんです』って言っても、早退させてくれないわよね……?」
「頭おかしくなったと思われて、むしろ早退させてくれるかもね……」
☆☆☆
こはる、愁衣さんとうまく仲直りできたかな——。
読んでいた文庫の小説からふと顔を上げ、窓の外に目をやる。アスファルトをじりじりと照らす夏の日差し。その光を全身に浴びた夏の花たちが、生命力をみなぎらせ、どこか誇らしげに咲いているのが見える。
昔から、こはるってどこか天然っぽいっていうか、妙に鈍感なところがあるから、愁衣さんが何に傷ついているのか、ちゃんと理解してあげられているか不安だ。まさか、「胸の大きさの話をしたから怒ってる」とか思ってないよね? なんか、こはるならあり得そう。大丈夫かな……。
いや、まぁ、きっとなんとかなったでしょう。チャットでどうなったか確認してみてもいいけど、そこまではあたしが関与すべきではない気がする。あとは二人の問題だ。とにかく、いまはあの二人のことは忘れて、自分の時間を楽しもう。ずっと来たかったお店に、せっかくこうして一人で来ているんだし。
視線を小説に戻す。普段、本なんてあまり読まないけど、このお店で過ごすならと思って持ってきた。物語の世界に浸りながら文字を目で追っていると、テーブルの上に置かれた花がちらと目に入る。入り口にある花々のイメージそのままに、店内にもさまざまな場所に可愛らしい花が飾られている。各テーブルに置かれた一輪挿し、天井から吊るされたドライフラワー……それでいて、壁やカーテンはあえて少しくすんだ色味のものが使われているところが、店の雰囲気をメルヘンにしすぎず、落ち着いた、居心地の良いものにしてくれている。
このカフェを見つけたのは、前にこはると一緒にこの近くのゲームセンターにプリクラを撮りに来たとき。外観の可愛くておしゃれな雰囲気に、いつか来てみようとこっそり思っていた。一学期ももうすぐ終わり。夏休みに入ってしまえば、この辺りに来る機会もあまりなくなる。行くならいまのうち、と学校帰りに寄ることにしたのだ。
あたしはふぅと息をつき、文庫本を一度置いて、真鍮のホルダーが付いたガラスのカップを手に取る。中に入っているのはハイビスカスティー。飲む前に鼻を近づける。ほんのりと甘い果実の香りが鼻腔をくすぐる。
宝石のルビーのように、透明感のある輝きを帯びた赤い液体。季節に合うからと店員さんに勧められたからこれにしたけど、こういう大人っぽい飲み物はあたしより、それこそ愁衣さんとかのほうが似合いそうだな……。
っと、いけないいけない。またついあの二人のことを。いまはあたし一人の時間。切り替えて、優雅なティータイムを楽しむぞ。
——と、そのとき、店のドアが開いた。入ってきた二人の客の顔を見て、あたしは口に含んだ紅茶を思わず噴き出しそうになった。
そこには、こはると愁衣さんが立っていたのだ。
切り替えさせろよ——————!!
え、なに、なんで? どうして二人がここに……? 紅茶をなんとか噴き出さずに飲み込んだものの、状況のほうはうまく飲み込めずにいると、愁衣さんとなにやら言葉を交わしながら店内をきょろきょろ見回していたこはると目が合った。こはるはぱっと顔を明るくすると、トコトコとあたしの席までやってくる。
「陽菜! どうしてここに?」
「え、と……前から行きたいなと思ってて、たまたま今日、寄ってみた……」
「へぇ、じゃあうちらと同じじゃん。奇遇だね。ね、愁衣さん?」
こはるが、遅れてやってきた愁衣さんにそう言って声をかける。愁衣さんは「そうね」と微笑んで頷いた。この様子を見るに、どうやらちゃんと仲直りはできたようだ。よかった。
「いやぁ、でもまさか、陽菜もこの店気になってたなんて。言ってよぉ、一緒に来たのにぃ」
と、こはるはそう言いながら、あたしの対面のソファに腰を下ろし、奥に向かってずりずりとお尻を滑らせていく。え、なにしてんの、こいつ……?
こはるは愁衣さんのほうを見ながら言った。
「どうしたの、愁衣さん? 愁衣さんも早く座んなよ」
なに言ってんだ、こいつ————————!?
い、いやいやほんとなに言ってんの? デートで来てるんでしょ、あなたたち? なんであたしと同じ席に座ろうとするの?
愁衣さんが少し戸惑った様子で答える。
「で、でも、こはる? 篠崎さんは一人でおくつろぎのようだし、私たちがご一緒したらご迷惑じゃないかしら?」
そ、そうだよね。そりゃそういう反応になる。愁衣さんだって当然、こはると二人きりのほうがいいに決まってる。ちょっと遠回しな言い方だけど、これくらいならあなたにも、愁衣さんの言いたいこと伝わるよね、こはる……?
こはるがあたしのほうに首を向ける。
「え、べつに大丈夫だよね、陽菜?」
お前、ほんと大丈夫かよ………………!?
「あぁ……う、うん。もしよければ、その、愁衣さんもぜひ一緒に……」
そう訊かれてしまっては、あたしとしてもこう言うしかなくなる。愁衣さんは一瞬、困惑したような表情を見せたあと、「ありがとう。それじゃご一緒させてもらうわね」と笑顔で言い、こはるの隣に腰を下ろした。
「さて、注文何にしよう。愁衣さんは?」
「私は、こはると同じものにするわ」
「んー、そうだなぁ……。陽菜はそれ、なに飲んでるの?」
「ハ、ハイビスカスティー……」
「じゃ、わたしもそれにしようかな。すいませーん」
こはるが店員さんを呼び、注文を伝える。本当にここに居座るつもりらしい。……正気か? 愁衣さんはさっきからニコニコと笑顔を絶やさずにいるけれど、それが本心からのものでないことは、あたしにははっきりとわかる。あぁ、こはる。あなたはいろいろとよく気が付く子のはずなのに、どうしてこの手のことにはそう鈍感なの……?
「いやー、それにしてもこのお店、中もおしゃれだねぇ。落ち着いた雰囲気で、居心地良さそう。ね、愁衣さん?」
「えぇ、とっても」
笑顔でそう答える愁衣さんは、あたしの目にはとても居心地が悪そうに見える。そうだよね、愁衣さん。あたしも、ついさっきまでは気づけば二、三時間過ごせてしまえそうなほど居心地の良さを感じていたのに、いまはもうすぐにでもこの場から逃げ出したいよ……。
少しして、二人の元にハイビスカスティーが運ばれてきた。テーブルの上に、赤い液体の入ったガラス製のポットが三つ並ぶ。そう、このお店の紅茶はポットで来る。まだ一杯目を飲み途中のあたしのポットにはまだ、さらにもう一、二杯分はありそうな量のハイビスカスティーが残っている。これを突然がぶ飲みし出すのは明らかに不自然。つまり、逃げられない——。
「あ、そうだ。ねぇ陽菜、今回のテスト、どうだった?」
「え? いや、まぁ、どうって言われても、いつもどおりって感じだけど……」
「ふふふ、そうかね。そんなきみに、わたしの今回のテスト結果を見せてあげよう」
と、こはるはスクールバッグから小さな紙片を取り出し、あたしに手渡してくる。担任から生徒それぞれに配られる、定期テストの個人成績をまとめたものだ。
「え、すごい。全科目、軒並み上がってるじゃん」
「えへへ、そうなんだよー。すごいでしょ。これも愁衣さんに毎日勉強を教わったおかげだね」
「そんなことはないわ。こはるが頑張ったからよ」
そう言って愁衣さんは照れたように頬をほの赤く染める。可愛い。たしかに、前に一度二人が図書室で勉強……と、他にもなんかしているところを見たけれど、あれって勉強もちゃんとやってたのか……。
「愁衣さんってすごいんだよー。訊いたらどんな問題もささっと解いちゃうし、教え方もすっごく上手でねぇ……」
「や、やめてよ、こはる。そんな、恥ずかしいわ……」
愁衣さんが焦ったようにこはるの肩に手を置き、いっそう顔を赤くする。可愛い。そうなんだぁ、すごいねぇ、とあたしは笑顔で適当に相槌を打つ。あ、なんか和やかな雰囲気。どうしようかと思ったけど、この感じでいけばなんとかなりそうかな……?
「だから次回のテストは、陽菜も愁衣さんに勉強教わるといいよ」
「そ、そうだねー。愁衣さん、よかったらあたしにも勉強教えてもらえるー……?」
「え、えぇ。篠崎さんさえよければ……」
社交辞令率100%のやりとり。実際にそんな機会が訪れないことはお互いがよく知っている。でもこれでいいのだ、こうしてこの場を和やかな雰囲気のままやり過ごすことができれば——
「うんうん。じゃ、次回のテストのときは、三人で一緒に勉強しようね」
ピキィッ——と、空間が凍りつく音が聞こえた気がした。
「三人、で……?」
そう言う愁衣さんの声は、僅かだがわなわなと震えを帯びているように聞こえた。
「い、いやいや、その、こはる? 三人でっていうのは、ちょっとなんていうか、微妙じゃないかな? ほ、ほら、愁衣さんも、二人同時に教えるのは大変だと思うし……。ねぇ、愁衣さん?」
「そ、そうね。私も、教えるだけじゃなく、自分の勉強もしなくてはならないし……」
「あぁ、それなら大丈夫だよ。わたし今回愁衣さんに教えてもらったおかげで、勉強のコツ? みたいなの、けっこうわかったし。だからたぶん、次回はそんなに教わらなくても平気。次のテストでは愁衣さん、陽菜メインで勉強教えてやって」
「篠崎さん、メインで……」
「そ、その間、こはるは……?」
「わたしは二人の隣で、一人で勉強してるから。次回は愁衣さんに極力頼らず、自分でどこまでやれるか試してみたいからさ」
思わず、といった具合に、愁衣さんと目を見交わす。おたがい同時に変な笑顔になり、「よ、よろしくね、愁衣さん……」「えぇ、こちらこそ……」と頬をヒクつかせながら謎の挨拶を交わした。
——と、そのとき、テーブルの上に置かれたこはるのスマホが、ブブブッ、と振動を始めた。こはるが手に取り、画面を確認する。
「あれ、お母さんから電話だ。ちょっと外で話してくるね」
「え……? い、いや、こはる、電話ならここで——」
「なに言ってんの。お店の中で話したら、迷惑になるでしょ。すぐ戻るから」
愁衣さんが席を立ち、こはるに道を空ける。そのままこはるはスマホを手に店を出ていってしまった。
ゆっくりと、愁衣さんがソファに腰を下ろす。
「あ、あはは……」
どちらからともなく笑い、ほぼ同時にカップに口をつける。
「……」
「……」
き、気まずい気まずい気まずい気まずい、気まずいぃぃぃぃッッッ————!!
な、なにこれ……どういう状況!? なんであたしと愁衣さんが二人きりにされてんの!? 電話ってなんだよ、空気読んでよ、こはるママ……!!
「……」
「……」
無音の空間に、おたがいの紅茶を啜る音だけが響きわたる。味なんてなんにもわからない。なんという凄まじい空気……。親に強引に設定されたお見合いでも、もうちょい喋るだろ。瞑想中の修行僧が向かい合って座ってるんじゃないんだから……!
と、とにかく、この無限に続く沈黙の牢獄からなんとか抜け出さなくては……。なんでもいい、何か話題を、とあたしは思い付くままに口を開いた。
「う、愁衣さん」
「はい」
「愁衣さんは、蕎麦とうどんでは、どっちが好き?」
「蕎麦」
「へぇ、……あたし、うどん」
「そう」
「……」
「……」
終わった……! もう終わった……! 世界一短い会話だったかもしれない……! ギネスに載ったかもしれない……! 二酸化炭素排出量の少ない、なんてエコな会話……!
こんな話題じゃダメだ、もっと別の——い、いや、そうじゃない。そういう問題じゃないことはあたし自身、よくわかってる。愁衣さんがあたしに対して心を閉ざしているのは例の、こはるが言った「いちばんの親友」発言が原因。そしておそらくそれが、今回の二人の仲たがいの原因でもあったのだろう。
つまりいま、愁衣さんはあたしを敵視している。たぶんこはるのことだから、これまでも似たようなことあったんじゃないかな……。それらが積もり積もって、おそらく愁衣さんはあたしをライバル……恋敵のようなものだと認識しているのだ。ったく、あのバ——こはるめ。なんで彼女の前でそう軽々しく他の女の話をするかね。いやまぁ、たしかに嬉しかったけど、「親友」って言われたことは……。こはる、あたしもこはるのこと、他の誰よりも大切な友だちだって思ってるよ……。
あぁいや、違う違う。いまはそんなこと思ってる場合じゃない。とにかく、まずは愁衣さんのあたしに関する誤解を解かないと、あたしと愁衣さんの間に友好関係が築かれることは永遠にない。どんな話題を振ったって無駄だ。あたしが敵でないことを愁衣さんに示さないと。……でもそれをするためには、あたしが二人の関係を知っていることを愁衣さんに話さなきゃいけなくなる。これまでの「盗み聞き」のことも……。
どうする……。そりゃ、言いたくはない。でも、だからといって愁衣さんに変な誤解をもたれたままでいるのも……。仮にもクラスメイト、そんな状態のまま一年間同じ教室で生活を共にするのも嫌だし、なにより、現在のこの絶望的なまでの気まずい空気をなんとかしたい。おそらくこはるは、あと十五分は戻らない。なぜならこはるママって話長いから。その間ずっとこんな調子でいるのは、きっと愁衣さんにとっても辛いはず。なんか、さっきから俯いて、あたしのことを睨むように見てるし……。
……言おう。
あたしは決心して、顔を上げた。
「う、愁衣さん」
「なんでしょう」
敬語……。い、いや、こんなことでくじけちゃだめだ。決心を曲げるな。自分と、愁衣さんのためにも……!
「じ、実はね、あたし、二人の……愁衣さんとこはるのこと、知ってるんだ」
愁衣さんはパチクリと瞬きをする。
「私とこはるのこと、って……?」
「その……なんていうのかな、二人の、関係、っていうか……」
「私とこはるの、関係……」
コクッ、と愁衣さんの喉が小さく鳴るのが聞こえた。
「それは……こはるから?」
「ううん、違う。……実はあたし、いままで二人のことを偶然、何度か見てるんだ。トイレとか、図書室とかで、その……い、いろいろ、やってるところを……」
愁衣さんはあたしの目をじっと見据えたまま、ポツリと言った。
「……そう」
い、意外に冷静な反応。あんなに恥ずかしいところを見られてるのに? やっぱり、一歩先の恋愛をやってる人は違うなぁ……。
「そ、それで、あたし……二人のこと、応援しようと思ってるから……」
「応援……」
言葉の意味を確かめるように愁衣さんは呟く。そして、
「応援……?」
と今度は語尾を上げるように言い、カクンと小首を傾げた。頭の上にたくさんハテナを浮かべたような顔で。なんだろう、言葉があまりピンとこなかったのだろうか……。
「えぇと、つまり、二人のことを温かく見守りたい、っていうか……」
はぁ、と愁衣さんはいまだ要領を得ない様子で怪訝そうに眉を寄せる。これでもダメ? 他に何て言えば……と思っていると、「あの」と愁衣さんが口を開いた。
「よくわからないのだけど……その、篠崎さんに応援してもらったり見守ってもらったりすると、治療がよりうまくいく、ということなの……?」
「え、治療……?」
「えぇ」
愁衣さんはコクンと頷く。
「……」
「……」
「え?」
「え?」
愁衣さんは不思議そうな顔であたしを見つめる。たぶん、あたしも似たような顔をしてる。どういうこと? 「治療」って……?
「あの、確認なんだけど、二人は——愁衣さんとこはるは、付き合ってるんだよね?」
「え、付き合っ……」
と、愁衣さんは驚いたように口をぽかっと開ける。その顔が、みるみるうちに赤くなっていく。愁衣さんは言った。
「じゃあ、そう」
「じゃあ、そう!?」
じゃあ、ってなに!?
「え、あの、愁衣さん。もしかしたらあたし、なにか大きな勘違いをしてるのかもしれないから、ちゃんと訊いておきたいんだけど……愁衣さんとこはるの関係って、本当は何なの? 教えてもらえる?」
愁衣さんは俯くように目を伏せる。そして少し悩むような間のあと、「実は」と語りはじめた。
(②へ続く)




