第93話
魑魅の身体が隆起したかと思うと、噴火でも起きたかのように大爆発を起こして光り輝く。その体はバラバラと崩れていき、岩や樹が周囲に弾け飛んだ。その様は村の墓地で横たわる壱衛門でも確認できるほど、大規模なものであった。夜空を焦がすほどの圧倒的な光は廃村となった村を照らしながら、天へと消えていく。
…やっと、村の皆が解放された。
もう楔として縛られることなく、土地に縛られることもなく、天に昇れる。
「壱衛門」
…おかぁ…さん?
「壱衛門」
おと、さん…?
ぼんやりとした頭で壱衛門は閉じかけていた目を開ける。片目は魑魅にとられてしまったが、残った目で自分を呼びかける相手を探した。その虚ろな眼に映りこんだのは、子供の頃に見た両親の顔だった。
「よく頑張った…」
頭を撫でる温もりに壱衛門は小さく息を吐き、無意識に擦り寄った。
「からだじゅう、いたい、ずっと」
あの夜から、ずっと…
「ごめんね。あの日、傍にいてあげられなくて」
「…ごめん、なさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
みんながいる。村の皆がいる。
ごめんなさい、生き残ってごめんなさい、ごめんなさい、あの日、みんなを踏み台にしてごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、俺のせいで…
「壱衛門君が生きとってよかったよ」
「そうそう。おばちゃん、子供たちが落ちてきたのを見てなぁ…。子供だけでも生きて欲しい、生きて欲しいって、頑張って手を上に伸ばしてな、足場になったの。いちえちゃんだけでも生き残ってくれて嬉しいのよぉ」
「ごめん。壱衛門、独りだけ残して死んじまってさ」
「私たち、怒ってないよ! 壱衛門が生きてて嬉しかった」
「村の神様にも認められて、あの化け物も倒しちまうし…壱衛門、お前は村の誇りだよ」
その言葉の数々に壱衛門は、あらゆる感情が込み上げ、内側から溢れたものがポロポロと頬を伝って落ちていく。村人たちは皆、笑顔とも悲しみとも取れぬ表情で壱衛門を見ていた。決して、お前だけが生き残った、人を足蹴にした…と怒りの形相で責める者はいない。
「みんな…おれも…みんなと…」
「…それは、駄目なんだ」
頭を撫でてくれていた父親の手が止まる。
「おれ、も…いく…おとうさん、おかあ、さん、と、もう、はなれ…」
「壱衛門、愛しているよ。おとうさん、壱衛門のことが大好きなんだ。先に病気になっちまって、ごめんな…本当は、離れちまった分、ずっと一緒にいてやりたい。でも、でもな、壱衛門は…まだ生きてる」
「…い、かないで」
「一緒には、いられないの…ごめんね。でも、おかあさんも、おとうさんも、村の皆も、壱衛門のことを見守ってる。私たちの分まで生きて…おかあさんよりも、ずーっと長生きして…天国に来たら、いっぱいお話を聞かせて」
その言葉を最後に、両親は優しく微笑みながら淡い光へと変わっていく。その光に包まれた壱衛門の目蓋も子守唄を聞いた子どものように、ゆっくりと下りていった。頬を伝った涙は地面を濡らし、壱衛門の意識は眠りにつくように途絶えた。




