第81話
神である/鬼である
山川を司る無数の神霊である/山河の淀みたる魑魅魍魎である
永きにわたる封印は―――今宵、解かれた。
磯城を中心に割れた地面の底には時空の裂け目が幾つも生まれては徐々に広がり、その奥から自然を象った巨体が姿を現す。
ソレは山そのものと言っても過言ではない。
その身じろぎ一つで周囲の山は揺れ動き、地面が軋み割れる。降り出す雨は御身に繁茂する山林を切り拓くように河川を氾濫させ、縞模様を形作る。ソレは天を衝かんばかりの白虎であり、全てを呑み込まんとする怪異の塊である。長髪のように魑魅の頭部と思われる部分から黒い瘴気が流れ落ち、やがて知性の欠片もない異形と成って悪鬼の群れが産声を上げる。
その山の頂…頭部にて「邪視」は輝く。
視線を交わした生命を自死させる。だが、実のところ魑魅に悪意はない。
魑魅は怒っていない、彼の存在にとって、天災は身動きの余波、感情の機微である。
封印を恨んでいない、彼の存在にとって、松木家の封印など、瞬きの眠りにすぎぬ。
生命を憎んでいない、彼の存在にとって、生命を吸うのは呼吸と同義である。
とどのつまり、存在質量の違いである。
「邪視」という大層な名がついているが、魑魅は悪意を持って生命に自死を命じているわけではない。上位存在の眼差しというものは、下等な存在にとって刺激が強すぎるのだ。望遠鏡で太陽を直視するようなもの…その視線一つで魂は狂い、自ら死を望むことになるだけだ。
故に、魑魅は天災である、厄災である、災害である、人と共に在れぬ存在である。




