↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
袖振りて 縁結ばれし 宵の月  作者: 水城


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
77/100

第77話

 その瞬間、庵の全てが停止する。

 が、すぐさま声のした方向へと庵の眼球は動いた。見れば、妹が…由良が階段を登ってきていた。

「………」

「居た! 和泉! お兄ちゃん、ここに居た! お兄ちゃん…何してるの?」

「由良…」

 化け物が見せた隙だった。壱衛門は痛む足に構わず、庵を蹴りつけて弓を拾い上げると、真っ先に森へと飛び込もうとした。

「壱衛門さん、待ってください!」

「…っ」

 縋るような和泉の声に、壱衛門は立ち止まった。振り返れば、階段を駆け上がってきたであろう二人、由良は固まっている庵へと駆け寄り、和泉は階段の前で膝に手をつき、壱衛門を見ていた。

 壱衛門は痛む足、栗立つ背中から伝わる恐怖を抑え込んで思考する。

 化け物…庵秀一は止まっている、顔面を叩かれたかのような面のまま停止し、妹の様子を観察している。おそらく、奴の妹も和泉も、庵秀一の本性を見ていない。だからこそ、元の偽善者に戻ろうとしているのか。ならば、今、対処すべきは魑魅だ。庵秀一の発言も含めて、天災が起こっている以上、既に魑魅の封印が解けている。現状を把握しなければ、この場を生き延びても、次は目覚めた魑魅に殺される。

「松木家が憎いかもしれないけど、今は人間同士が争っている場合じゃないんです! 魑魅の封印が解けて…このままじゃ、姉さんだけじゃなくて、もっとたくさんの人が死んじゃう! だから、力を貸してください! …壱衛門さん、お願いします!」 

 目をギュッとつぶった和泉が、壱衛門に深々と頭を下げた。その様子に壱衛門は、ふぅ…とため息まがいの深呼吸をし、庵からは距離を取って、和泉たちの元へと向かう。

「…分かった」

 壱衛門の言葉に和泉が感謝して顔を上げた時、壱衛門の重心がブレていることに気がついた。何故だろう…と和泉は上から下へと目線を遣って、引きずる足に目を留める。

「壱衛門さん、ケガしてる!」

「いい、触るな」

「お兄ちゃんも、なんで服がボロボロ…あっ! また、戦ったの!?」

 和泉と由良は顔を見合わせると「呆れた」と言いたげな顔をして、コクリと頷き合う。

「油と水って言うんでしたっけ? こんな時に、本気で戦うなんて!」

「お兄ちゃん! 謝って!」

「壱衛門さんも! また、庵さんが松木家の血筋だからって、攻撃したんでしょ」

 庵は由良に、壱衛門は和泉に詰め寄られ、互いに目を合わせる。

 かたや、復讐鬼へと戻り、威勢を盛り返した手負いの獲物。

 かたや、化けの皮を被り、人間を取り繕った善を成す修羅。

「…壱衛門、すまなかった」

「ちっ」

「壱衛門さん!」

 和泉に怒られながら、壱衛門は顔を顰める。

 目の前の男から、先程までの嗜虐に満ちた悪性も、修羅のような異常性も感じない。俺に心の底から謝っている…とでも、本人は思っているに違いないが、奴の目は謝ってなどいない。今は化けの皮に鳴りを潜め、この場を治める最善手をとってるだけだ。この場なんぞ、本当はどうでもいいんだろう。視線は俺を見ながらも、次の戦場…魑魅を見ている。

「…そんな謝罪なんざいらねぇ。今は魑魅だ。どういう状況か説明しろ」

「ごめんなさい、壱衛門さんが…」

「いいんだ、俺に非がある。……っ!」


「庵様…他の皆様も、どうか落ち着いてください。私は敵ではありません。説明をさせてください」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。