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袖振りて 縁結ばれし 宵の月  作者: 水城


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第48話

「ならば、あの怪異を仕留めればいい。呪いの根本を絶てば、全て仕舞いだ」

 由良に手を出すというならば、もはや問答の余地なし。暗澹たる海のような眼差しを双子に向ける庵は迷うことなく、冷ややかな最適解を叩き出した。

「出来るものならやってみれば? この子は連れていくからさ」

 庵の圧に臆することなく、由良を連れて行こうとする双子を見ながら、志貴は必死に状況を打開する手立てを探していた。


『怪異に効くかは分からんが…まず、何があっても動揺するな』


 志貴は後ろ手を拘束されたまま、のそりと立ち上がる。

「何やってんの? 勝手に動かないで」

 異変を察知した玲奈の声に、頼人は刃物を向けて脅すように凄む。しかし、志貴は一言も発することなく、ただ無表情で双子を見下ろしていた。


『まっすぐ相手の目を見ろ。出来るもんなら、相手を見下ろして睨め。無駄に背が高いんだからな』


 志貴は一度目を閉じると自分の全てを以って、じっと彼らを見下ろしながら一歩前に出る。

『来ないで!』

「そ、それ以上、動くな。こいつを殺すぞ」

 志貴の不可解な行動に慄いたのか。玲奈は後退り、頼人は刃物の先を志貴から間下の首元へと変え、威圧的に言い放った。


『相手の脅しに惑わされるな。ただ、堂々としてろ』


「来るなって言ってんのが、聞こえないの!」

「止まれ!」

 双子に何を言われようとも、志貴は歩みを止めることはなかった。


『そして…無言を貫け』


「…っ」


『そうすれば、相手が勝手に動揺する。あとは隙をつけ』


 志貴は目の前の二人を見下ろし、黙って睨みつける。無表情で、無言で、ただ見つめ続ける。薄暗い室内では、ヒョロリと背の高い志貴の眼差しは暗く、人に恐れを抱かせた。

 …志貴は震えを抑え込む。

 ここまでは、間下に教えてもらった通り、事が運んでいた。しかし、「隙をつけ」と言われても、何をすればいいのか分からない。今の志貴は内なる動揺を相手に悟られないように全力を尽くしている状態だ。

「アンタ、何者…」

 完全に二人の意識が志貴に向いた時、虎視眈々と機会を狙っていた男が目を開けた。

「う゛わぁ!」

 間下の足払いが頼人の両足を捉え、大きくバランスを崩した頼人は倒れ込む。気絶したフリをしていた間下は床に落とされた刃物も即座に遠くへと蹴りつけた。

「頼人っ!  お前、『死ね』!」

 片割れの身に起こったことを理解した玲奈は、間下を凝視すると暴言と共に黒い球体を吐き出した。金戸夫妻を一瞬にして死に至らしめた、あの黒い球体だ。それが猛烈に膨れ上がって間下の元に向かっていく。

「間下、下がれ」

 志貴は叫んでいた。あの時、間下は黒い球体が見えていなかった。今も、その目は二人を警戒するばかりで、眼前にまで迫った死に気づいていない。

「っ!」

 間下の額に突きつけられたのは刃物の先、滑り込むような庵の踏み込みによって突き出された刃物は黒い球体を破裂させていた。

 話し合いの最中、拘束を解いていた庵は間下と同じく機を伺っていた。そして、場の混乱に乗じて動き出し、間下が蹴りつけた刃物を拾い上げていたのだ。息を吞む間下は上体を逸らし、庵はギョロリと兄妹を捉えると、その手に力を込めた。

「庵!」

 殺意だ。

 志貴は肝が冷えていくのを感じながら、庵を呼び止めていた。間下を守ろうとしてくれていること、この状況をどうにかしようとしてくれていることは分かっている。だが、その一線を超えさせてはいけない。その思いで必死だった。

「落ち着け」

 間下も苦々しい顔で庵を見上げながら、言葉を投げかける。

「ちっ。こいつ等、やっちゃっていいよ!」

「はぁ、焦った! 余計なことするからだぞ」

「いいから! 今は逃げる!」

 これ幸いと逃げていく二人を横目に見た庵は眉をひそめ、志貴の腕を掴むと床へと転がした。その直後、大きな地響きと何かが空気を斬る音が間近で響く。

「ぐっ…」

「そこにいたか」

 あのカマキリの怪異が上から降ってきたのだ。二刀の鎌を寸前のところで受け流した庵は片膝を地に着ける。

「ぁああああぁあっ、亡霊どもめ」

 何が見えているのか、怪異は叫んだかと思うと苦しげに呻いて、その鎌で空を斬る。直接的に攻撃されていないとはいえ、こんなにも激しく暴れれば、建物が倒壊するだろう。

「こっち、こっち!」

 突如、志貴たちの背後で物音がしたかと思うと扉が開き、青いパーカーの上からセーラー服を着た少女が顔を覗かせた。浦江洲大学で壱衛門に襲撃された際、彼と共に行動をしていた少女だ。

 この子は、味方なのか…?

「由良を…た、のむ」

 庵の声にハッとした志貴は拘束を外してもらうと間下を助け、気を失ったままの由良を抱えて立ち上がる。自由の身になった間下は銃を構え、怪異を見据えたまま、庵に下がるように指示を出した。

「今は、私に付いてきてください!」

「間下、行こう」

 志貴の判断に間下は拳銃を構えたまま、手招きする少女に続く形で走り出す。暴れ回る怪異はもちろん、目の前の少女にも警戒しながら志貴たちは建物内を走り抜け、小さな部屋をいくつも経由して逃げ回った。


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