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袖振りて 縁結ばれし 宵の月  作者: 水城


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第47話


「そうらしいが…。俺たちより、松木家について詳しいようだな」

「まぁね。私たち、あいつ等と知り合いみたいなもんだし…で、どう?」

 玲奈は邪悪な笑みを浮かべて、庵を見下ろし続ける。

「どう、とは?」

「そんな奴らと同じ血がアンタと妹に流れてるって聞いて、どういう気持ちだって言ってんの、異常者の末裔さん?」

 目の前の朴念仁は、一体どんな顔をみせてくれるかな?

 悲しみ? 怒り? 絶望? 惨めに自分たちは違うと自信のない目で主張する? 

 玲奈は犯罪者を指さすように嘲笑し、愉悦に満ちた顔で黙っている庵の顔を覗き込んだ。

「すまない、あまり実感がない」

「…何その反応! ちょっとは何か反応するもんじゃないの!」

 まるで、悪質なキャッチに話しかけられた時のような、やや困惑気味の平然とした顔に玲奈の方が声を上げた。だが、実感が沸かないのも無理はない。庵たちが自分は松木家の血筋であると知ったのは数時間前の事だ。ここに来るまでの間にも沢山の事があった、情報過多で理解しきれていないのだろう。

「…だが、強いて言うのであれば」

「なになに?」

「松木家の血を受け継いだものとして、怪異を打ち倒そう。それが、俺なりの罪滅ぼしだ」

 庵の回答に揶揄い甲斐がないと思ったのだろう。玲奈は「ハイ、ソウデスカ」と棒読みで返して志貴へと視線を移した。

「優等生君は置いといて。メルヘンおじさんからも話を聞こうかな」

 玲奈と目が合った志貴は一応、辺りを見回して「…俺か?」と声を上げた。

「アンタしかいないじゃん。それで、火傷はどこでつけてもらったの」

「火傷…この呪いのことか」

 志貴が自身の腕に視線を遣ると玲奈は頷いた。

 …この子達には、火傷がついていないのか。見える範囲だが、二人の体に芋虫の形をした火傷はない。松木家と知り合いだと言っていた以上、俺たちとは別の方法で異界に来たのだろうか。

「火傷の発生条件は分からない」

 自分や間下は廃ビルの天窓から覗く巨大な少女に話しかけられた後、庵たちは怪異と初めて対峙してから、いつのまにか火傷がついていたと言っていた。おそらく、怪異によって無作為に選ばれており、犠牲者の数を考えると発生条件にこれといった傾向はない。対抗策・解呪方法についても探しているが、現状、見つかっていない…と志貴は真摯に伝えるが、玲奈は深いため息を吐くばかりだった。

「もう全然、有益な情報を持ってないじゃん。どこで、火傷をつけてもらえるんだろう」

 志貴は再び首を傾げる。彼らと自分たちで火傷の認識にズレがあるようだ。

 火傷が現れたら最後、三日以内に死ぬ。たくさんの人々が無差別に悲惨な死を迎えていると間下から聞いた。実際、火傷を刻まれてから、人のいない異界を彷徨い、怪異との対峙を余儀なくされた。だが、この子の反応はまるで火傷が特別であるかのような、良いものであるかのような言い方だ。

「この呪いに何か良いことがあるのか」

「呪い?  あはは、確かに強力な呪いだよね」

「含みのある言い方だな」

「…本当に、なーにも知らないんだ。火傷の意味!」

 驚いたような…拍子抜けしたかのような顔をしたかと思うと、今度は可笑しくてたまらないといった様子で笑う玲奈の横で、頼人は腕時計を確認して声を荒げる。

「おい、喋りすぎだぞ。火傷があるってことは、選ばれなかった人間なんだ。これ以上、時間を割くのは…」

「いいじゃん、メイドの土産ってやつ?」

 火傷の意味…選ばれなかった人間…この子たちは何を知っているんだ。

「君たちの目的はなんだ?」

「えぇ? ひ・み・」

「あの怪異に庵由良を捧げることだ」

 茶化して時間を浪費しようとする玲奈を押し退け、頼人は足元で気を失っている由良に親指を向けて言った。

「…何」

 険しい顔のまま、黙って二人の動向を見つめていた庵の瞳に、はっきりと敵意が宿る。志貴は「落ち着け」と声をかけたが、庵を抑えられているか分からない。二人を説得することに集中しようと志貴は頭を回す。

「あのカマキリのような怪異のことだな。どうして、由良を捧げる必要があるんだ?」

 玲奈は志貴の問いに性悪な笑みを浮かべた。

「これも松木家お得意の尊き犠牲ってやつ」

「何故、そこで松木家の話が出てくるんだ」

「あの怪異が松木家当主 松木忠文だからだよ」

 面倒な駆け引きを嫌った頼人はナイフを取り出しながら言い捨てた。絶句する志貴たちを余所に刃を鏡代わりに前髪を弾く。

「あれが…」

「だいぶ、怪異寄りだよね。ほぼ、カマキリ人間だもん。というか、呪いの指示に従ってたくせに知らなかったの?」

「呪いの指示…あの芋虫のことを言ってるのか」

 火傷で出来た芋虫は皮膚を蠢きながら、道標あるいは助言のような言葉を詠んだり、文章へと姿を変えたりすることがあった。今まで、芋虫は呪いを解くために必要な試練を告げる者もしくは助言を与える者だと思っていた。いや、そう思い込むことで助かる見込みがあると己を言い聞かせていた。

「そう、その火傷の正体は――松木家の呪いでした。芋虫を介して、松木家の意思を伝えてるってわけ」

 その言葉に、志貴は火傷をじっと見つめた。玲奈の言うことを鵜吞みにしていいのか分からないが、この火傷が松木家の呪いだとしたら、『連続心中不審死事件』の犯人は松木家なのか。ならば、駒である芋虫の言葉に従ったところで、呪いを解く方法には繋がらない。そうなると、俺たちは芋虫の指示に従って、わざわざ当主の尊き犠牲となるために、この村まで呼び寄せられたということになる。

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