表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
袖振りて 縁結ばれし 宵の月  作者: 水城


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/63

第42話

「分からない…。親が松木家の人間だったことも知りませんでしたから」

 庵たちは何も知らないようだが、分家したのか、母親が父方に嫁入りしたのか、いずれにせよ苗字は違えど、松木家と関係あるのは間違いない。

「今回のようなことは、初めてなのか」

「はい、あんな怖いオバケ…怪異を見たのは初めてです」

「…今、思えば、引っ越しや父が数日家を空けることが多かったな」

 亡き父との思い出を振り返っていた庵がぽつりと呟いた。

「そう、だったかも……あ! 一つだけ不思議なことがあった!」

「不思議なこと?」

 庵はピンと来てないのか、由良の顔を見て首を傾げた。

「パパが、どこかの村に連れて行ってくれたでしょ。二泊三日で泊まった…なんとか村」

 村という情報しかないが…この説明で庵にも伝わったらしい。「由良が、さらにお転婆だった頃か」と当時の事を思い返し、懐かしんでいる。

「お兄ちゃんが、ね」

「?」

「お兄ちゃんは、もっとやんちゃ坊主だったでしょ!」

「…そうだったか?」

「想像できないな」

 第一印象から変わらず、冷静沈着という言葉を表したような利発的な子に見えるが、子供の頃からそうだったワケでもなかったらしい。

「本当なんですよ! 初日に迷子になって、ケガして帰ってきたのは誰だった?」

「…兄の失敗を自慢気に話すんじゃない」

 子供に言いつけるような口調だが、表情には気まずさと恥が入り混じっている。隣の間下も困った様子の庵を見て薄らと微笑んでおり、少しばかり意地の悪い顔をしていた。しかし、由良が迷子になりそうなイメージだが、この様子だと実際、迷子になったのは庵だったようだ。

「それもお兄ちゃん、気になる子が出来たみたいで~」

「由良!」

「ほぅ、それで?」

「あれは、村に‥」

「二人は興味がないだろう、無理に聞かせるものではない」

 庵の制止など、どこ吹く風と言った様子で由良はニコニコと微笑む。いつも表情に乏しく、自分よりも上手の兄が狼狽しているのが、面白かったからだ。

「え、聞きたいですよね」

「正直、気になる」

 志貴がそう述べれば、「ぐっ…」と唸る庵は逃げ道を塞がれる。

「ですよね。では、お兄ちゃんの初恋を」

「由良、俺から話そう」

「え! なんで?」

「話を盛られても困る。そもそも、初恋というわけではない」

「むぅ。絶対、初恋なのに…。分かったから、拗ねないでよ」

「拗ねてない」

 少しの沈黙の後、庵は当時の事を思い出すように話し出した。

「山で遊んでいたら…足を踏み外し、山道から外れた場所を転がり落ちたんです。気が付けば、森に囲まれており、声を出しても返事が帰ってこない状況でした」

「迷子と言うより遭難に近いな」

 てっきり、見知らぬ村の中で迷子になったのかと思っていたが、事態は思っていたより過酷だ。

「転がり落ちている最中に足をひねり、まともに歩けませんでした。それでも、周りを歩き回って父と由良、村に出る道を探していたら……俺と同じくらいの子に会ったんです」

 庵は「初恋ではないのですが…」と前置きしているが、その子が由良の言っていた初恋の子なのだろう。当時の庵より小さい背格好で、髪をひとつにまとめていたという。母親の手伝いで山菜を摘んでいたところ、たまたま迷子の庵に会ったようだ。

「俺を見るなり、ケガをしていると言って、手当をしてくれて…」

「あらまぁ~」

 普段はこの話題をあまり話してくれない兄が語る内容に思わず、目をキラキラ輝かせる由良の反応に、庵はジト目を返す。

「その子に手を貸してもらいながら、山を歩いて……村まで送ってもらいました」

 庵はこれでおしまいというように口を閉ざした。

「お兄ちゃん、もっと少女漫画みたいにドギマギするように喋れないの?」

「無茶を言うな」

「じゃあ、私が付け足してあげる! その後、その子のために髪留めを作ったり、村中を探し回ったり‥」

「由良!」

「本当の事でしょ~」

 庵の反応を見るに、盛り上げるための嘘と言うわけではないらしい。恋バナと呼ばれる部類では、あの庵も由良に形無しだな。

「でも、帰る時は凄いバタバタしたよね。寝てたら、急に抱っこされて…気が付いたら車の中だったのを覚えてる」

「…」

「お兄ちゃんは隣でぼけーとしてて、パパは私がいくら話しかけても無視してさ。家に帰ったら、謝ってくれたけど…お兄ちゃん、何か知ってる?」

「…今だから話すが、あの夜、村では大規模な火事が起きていた」

「…え?」

 困惑する由良を見つめたまま、庵は申し訳なさそうに言葉を続ける。

「俺は少し用があって、父さんと由良が寝た後、宿を抜け出していた」

「初めて聞いた」

「火事に気付いた父さんは由良を車に運んだ後、燃える村で俺を見つけて車を出したんだ」

「お兄ちゃんを助けてくれた子は…?」

「………分からない」

「そう、だったんだ…」

「…俺は、少し見回ってこよう」

 俯いた由良の様子にいたたまれくなった庵は、鎌槍を持ち直すと目を伏せ、この場を去るようにして歩き出す。冷静な彼の珍しい一面を知ろうとした結果、思いもよらない残酷な真実を引きずり出してしまった。自分たちのちょっとした好奇心が一因でもあるため、志貴と間下は何とも言えない罪悪感から互いの顔を見合った。そして、何か言うでもなく、間下が無言で庵の後を追って行く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ