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袖振りて 縁結ばれし 宵の月  作者: 水城


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第23話

「動かないで!」

 女性は拡声器を喉に仕込んでいるのかと思うほどの金切声で二人に言い寄り、年老いた男性は杖を武器のように握りしめ、恐れを含んだ瞳で志貴と間下を見つめていた。

「っ、暴力行為はやめていただきたい! き、君たちは何者だ? 何故、ここに!」

 男性は杖を構えたまま、驚きと戸惑いを含んだ声で二人に問いかける。家主がいるのではないかと予想していたとはいえ、まともに話せそうな人間(生存者)がいるとは思っておらず、二人は驚きつつも警戒して身構える。

 玉得綾子は「壱衛門のように異界の瘴気にあてられ、時場所に問わず、異界に迷い込んだ人間を襲うなどの犯罪行為に手を染めている者たちがいる」と言っていた。おっかなびっくりといった様は怪異ではなさそうだが、同じ生きている人間とはいえ、自分たちに害をなす存在かどうかは一目で分からない。お互いに相手の腹を探るような眼差しを向けていた。

「警察の者です。『連続心中不審死事件』の捜査をしていまして、家主の金戸建志様でしょうか」

 志貴はぎょっとして声の主を確かめる。

 分かっていたが、隣にいる間下だ。しかし、志貴にとっては聞いたことがないほど、穏やかな声音と丁寧な言葉遣いだったが故に、間下の顔を借りた、別の誰かが喋っているのではないかと疑問に思うほどであった。

 間下、そんな声を出せたのか。なら、初めて会った時、もうちょっと優しくしてくれても、よかったんじゃないか…?

 そのような、咎めるまでもない僅かばかりの非難を間下に向ける志貴の視線に気づいているのかいないのか、間下は胸ポケットから拳銃ではなく警察手帳を取り出し、自らの身分を証明する。年老いた男性は訝しげに間下の警察手帳をじっと見た後、女性と顔を見合わせた。

「た、助けてくれ。化け物に狙われているんだ」

 男性の表情はさらに怯えた様子へと変わり、辺りをチラチラと見ながら言った。

 人形か、あるいは巨大な少女か…? 

 志貴は夜空をバックに自分たちを見下ろした少女の事を思い返す。どちらにせよ、この老夫妻もただ事ではない事態に巻き込まれているのであろう。

「おまわりさん、化け物を倒しに来てくださったのね?」

 期待の込もった眼差しを向ける女性の言葉に、間下は即答しない。いや、できなかった。「化け物」が人形の怪異とは限らない、ここで時間を浪費している暇はあるのか、もう少し情報を聞き出してから判断するべきか、僅かな保身と自身の正義感に志貴を付き合わせることへの申し訳なさが間下を迷わせた。

「退治できるか分からないが、ひとまず調べてみよう」

 葛藤する間下の横で、腕組みをしながら志貴は微笑んで応えた。老夫妻の顔は、パァっと明るくなり、安心しきった様子で喜び始める。そこで、ようやく間下の言い分を聞かずに了承をしてしまったことに気づいた志貴は様子を伺うようにチラリと間下を見て、少しばかり吃驚している間下と目が合った。今さら、断れる雰囲気ではなくなったわけだが、間下は覚悟が決まった様子で志貴の不安そうな面を見て笑っていた。


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