第19話
「うぅ、不気味ですね」
聞き覚えのない明るい声に閉じてしまった目を再び開ければ、テーブルから滴る赤ワインが床一面を汚しており、その床に倒れ伏していた白い髪の少女…人形と目が合った。
「すごい精巧ですよね」
隣には間下ではなく、見知らぬ警官が立っている。
また、これか…。
『過去視…霊感の強い方は怪異にまつわるものに触れることで、怪異の強い念、その記憶を垣間見ることができると聞いたことがあります』
玉得綾子が言うには「過去視」というものだったな。
「庭と窓を挟んでるから、見間違えたのかもしれませんね。もう一度、桜川さんに確認を取りましょう」
これは通報を受けた警察官の記憶を追体験しているのか。必ずしも怪異の記憶を見るというワケでもないんだな。だが、怪異の強い念があったからこそ、この現象が発生したはずだ。ならば、目の前に倒れている人形こそ、手帳にあった「死んでしまった人形」の可能性がある。
人形は髪や瞳の色を除けば、小学校低学年の女の子だと勘違いするほどの出来だ。遠目から見れば、外国の女の子が血を流しているようにも見える。近寄れば、白い髪には生気がなく、青い瞳はギョロリとこちらを見上げていた。その身に纏ったドレスの一部に赤ワインが染み込んでいることもあって、人形とはいえ痛々しい見た目になっている。だが、曰くつきの人形、呪いの人形というより、良く出来た普通の人形に見える。
この子が怪異なのか…?
「行、きま…しょ……」
ノイズが激しくなり、次には右手に痛みを感じて「イ゛ッッ」と志貴は声を上げていた。気づけば、床に座り込んでおり、間下に右手をつままれている。
「やっと、正気に戻ったか」
「痛い…」
間下が手を離すと、その手の甲の一部が赤くなっていた。
「アンタが急にうんともすんとも言わなくなるのが悪い」
「過去視を見ていた。いや、過去視をしていた?」
志貴が手をさすりながら過去視の光景を間下に伝えると、間下は腕を組んで考え込む。
「現場に倒れていたのは人形で、壊された様子もなしか」
「人形について調べたいな。まだ、この家に置いてあればいいんだが…」
少なくとも、リビングに人形の姿はない。
人形が死んだと思われる場所から離れ、リビングを進めば、奥にバーカウンターが見えた。
「ワインが好きなようだな」
造花の花瓶や灰皿が置かれたカウンター席からは、自慢するかのように横倒しになった樽のワインサーバーが見えた。注ぎ口を見るに中身は赤ワインだろう。また、パーティー好きなのか、沢山のワイングラスが収納された高価な食器棚がワインサーバーの両脇に鎮座している。
「ううん、これは風味や香りが劣化しやすいだろうな」
「つまり、見た目…インテリアとしての役目が強いのか」
「そうだと思う」
そんな会話をしながら、二人は人形を探して一階を歩き回る。調査中も物音が聞こえるたび、二人は身構えて辺りを警戒した。音の正体は家鳴りか、自分たちと同じ被害者か、壱衛門のような狂乱者か、あるいは怪異そのものか…正体不明のまま、二人は家の中を探索し続けた。




